古典力学 · 第17回 · 動画5 · インタラクティブ教材

散逸してもエネルギーは消えない:摩擦で失われたエネルギーの行き先と系の境界

I重要な公式

公式名称必要なもの
∣Wfriction∣=fk d|W_{\text{friction}}| = f_k\,d滑る物体が失う運動エネルギー(質点モデル)動摩擦力とすべった距離
ΔEthermal=ΔEthermalblock+ΔEthermalsurface=−ΔK\Delta E_{\text{thermal}} = \Delta E_{\text{thermal}}^{\text{block}} + \Delta E_{\text{thermal}}^{\text{surface}} = -\Delta K物体 ++ 床の面の系の内部での散逸両方の物体を囲む系の境界、Wext=0W^{\text{ext}} = 0、ΔU=0\Delta U = 0
0=ΔEchemical+ΔEthermal+ΔEmechanical0 = \Delta E_{\text{chemical}} + \Delta E_{\text{thermal}} + \Delta E_{\text{mechanical}}閉じた系のエネルギー収支何も越えることのない境界
−ΔEchemical=ΔEthermal+ΔK-\Delta E_{\text{chemical}} = \Delta E_{\text{thermal}} + \Delta K水平な地面でのエネルギー源ΔU=0\Delta U = 0:ばねも高さの変化もない

ポイント: 散逸は何も消し去りません。分子のそろった運動を、両方の物体の分子の不規則な運動に変えるのです。境界を引き直しても物理は変わらず、変わるのは帳簿のつけ方だけです。床の面を境界の外に置けば、摩擦力ははっきりしない接触点にはたらく外力です。境界の内に入れれば、摩擦力は内力になり、系の全エネルギーは変わりません。

II可視化1 — そろった運動が不規則な運動になる

ブロックの 18 J18\ \text{J} は消えません。それは両方の物体の分子の不規則な運動へと移っていきます。

💡 この変換は一方通行です。分子のそろった運動は不規則な運動になりますが、分子の不規則な運動がひとりでにそろい直して 3.0 m/s3.0\ \text{m/s} の押し出しになることは決してありません。まさにこのことが、散逸の過程を不可逆にしています。

III可視化2 — 境界をどこに引くか

同じすべりに2通りの境界を引きます。摩擦力は一方では外力、もう一方では内力になり、変わるのは帳簿のつけ方だけです。

IV可視化3 — 歩くことのパラドックス

地面についた足はすべらないので、摩擦力は仕事をしません。それなのに、歩く人の運動エネルギーは増えていきます。

💡 地面についた足が多少すべるとしても、そのすべりは後ろ向き、つまり運動と反対向きです。すべりはエネルギーを奪うことしかできず、歩く人の運動エネルギーの源には決してなりません。

V確認クイズ

問1 · すべりのエネルギーを追う

条件: 4.0 kg4.0\ \text{kg} のブロックが、ざらざらした水平な床の上を 3.0 m/s3.0\ \text{m/s} で滑り出し、d=2.0 md = 2.0\ \text{m} 進んで止まります。動摩擦力は fk=9.0 Nf_k = 9.0\ \text{N} で、系はブロックと床をまとめたものとします。発生した熱エネルギー ΔEthermal\Delta E_{\text{thermal}} を求めてください。

✅ 正解です! 2通りの求め方が一致します:fkd=18 Jf_k d = 18\ \text{J}、Ki=12mvi2=18 JK_i = \tfrac{1}{2}mv_i^2 = 18\ \text{J}。
❌ それは 12fkd\tfrac{1}{2}f_k d です。 12\tfrac{1}{2} の因子がつくのは、ばねのように変位とともに大きくなる力の場合です。fkf_k はすべりの間ずっと一定です。
❌ それは mvi2mv_i^2 で、12mvi2\tfrac{1}{2}mv_i^2 ではありません。 もう一つの求め方と照らし合わせましょう:fkd=(9.0)(2.0)=18 Jf_k d = (9.0)(2.0) = 18\ \text{J}。
❌ 何も消えてはいません。 運動エネルギーは、ブロックと床の分子の不規則な運動エネルギーになりました。どちらの物体も温かくなります。
❌ 惜しい! 摩擦力が系の内力なら ΔEsys=0\Delta E_{\text{sys}} = 0 なので、ΔEthermal=−ΔK\Delta E_{\text{thermal}} = -\Delta K です。
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境界でブロックと床を囲むと、摩擦力は内力になり、仕事をする外力はないので、系の全エネルギーは変わりません。

0=ΔEsys=ΔK+ΔEthermal0 = \Delta E_{\text{sys}} = \Delta K + \Delta E_{\text{thermal}}

ブロックの最初の運動エネルギーは

Ki=12mvi2=12(4.0)(3.0)2=18 JK_i = \tfrac{1}{2}mv_i^2 = \tfrac{1}{2}(4.0)(3.0)^2 = 18\ \text{J}

で、最後は静止するので ΔK=−18 J\Delta K = -18\ \text{J} となり、

ΔEthermal=−ΔK=18 J\Delta E_{\text{thermal}} = -\Delta K = 18\ \text{J}

摩擦力から求めても同じ値になります。ブロックがちょうど 2.0 m2.0\ \text{m} で止まるのはそのためです:fkd=(9.0)(2.0)=18 Jf_k d = (9.0)(2.0) = 18\ \text{J}。

問2 · 熱エネルギーの分かれ方

条件: 問1と同じすべりで、18 J18\ \text{J} の熱エネルギーが生じます。そのうちブロック自身に入る量を求めてください。

✅ 正解です! どちらの物体も温まり、合計は 18 J18\ \text{J} に決まっています。しかし、接触面での配分の割合を決めるものは、力学の中にはありません。
❌ 等分は推測であって、導かれた結果ではありません。 50/5050/50 の配分はエネルギー保存を満たしますが、ほかのどんな配分も同じように満たします。そこがまさに要点です。
❌ 床も温まります。 すべった跡を手でなぞると温かいのは、床の面の分子も不規則な運動エネルギーを得たからです。
❌ 摩擦力は両方の物体にはたらきます。 大きさが等しく向きが逆の力の対が、ブロックと床の両方へ同時にエネルギーを散逸させます。
❌ 惜しい! エネルギー保存則で決まるのは合計であり、それぞれの物体が受け取る分ではありません。
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ブロック ++ 床の系にエネルギー保存則を当てはめると、2つの未知数に対して式が1つ得られます。

ΔEthermalblock+ΔEthermalsurface=18 J\Delta E_{\text{thermal}}^{\text{block}} + \Delta E_{\text{thermal}}^{\text{surface}} = 18\ \text{J}

和が 18 J18\ \text{J} になる負でない配分なら、どの組でもこの式を満たします。散逸は2つの部分の境目、つまり接触面のところで起こり、新しく生まれた熱エネルギーがどう分かれるかは、力学だけでは決まりません。それを決めるには別のモデルが必要です。散逸したエネルギーが系を構成する部分のあいだにどう配分されるかを記述する熱的状態方程式で、これは2つの物質の性質に依存します。

問3 · 歩く人の帳簿

条件: 60 kg60\ \text{kg} の人が水平な地面で静止状態から歩き出して 1.5 m/s1.5\ \text{m/s} に達し、その間に体が 270 J270\ \text{J} の化学エネルギーを変換します。人 ++ 空気 ++ 地面を、ΔU=0\Delta U = 0 の閉じた系とみなします。ΔK\Delta K と ΔEthermal\Delta E_{\text{thermal}} を求めてください。

運動エネルギーの変化はいくらですか?

熱エネルギーの変化はいくらですか?

✅ 正解です! 放出された 270 J270\ \text{J} のうち、67.5 J67.5\ \text{J} が運動になり、残りの 202.5 J202.5\ \text{J} が体と地面の熱エネルギーになりました。
❌ 12\tfrac{1}{2} が抜けています。 mv2=135 Jmv^2 = 135\ \text{J} ですが、運動エネルギーは 12mv2\tfrac{1}{2}mv^2 です。
❌ 運動エネルギーを確かめましょう。 人は静止状態から歩き出すので ΔK=12mvf2−0\Delta K = \tfrac{1}{2}mv_f^2 - 0 で、m=60 kgm = 60\ \text{kg}、vf=1.5 m/sv_f = 1.5\ \text{m/s} です。
❌ それでは運動の分が何も残りません。 放出されたエネルギーは2つに分かれます:−ΔEchemical=ΔEthermal+ΔK-\Delta E_{\text{chemical}} = \Delta E_{\text{thermal}} + \Delta K。
❌ 符号の誤りです。 ΔK\Delta K は放出されたエネルギーに足すのではなく、そこから引きます:ΔEthermal=270−67.5\Delta E_{\text{thermal}} = 270 - 67.5。
❌ 熱エネルギーの項を確かめましょう。 収支の式を変形します:ΔEthermal=−ΔEchemical−ΔK\Delta E_{\text{thermal}} = -\Delta E_{\text{chemical}} - \Delta K。
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閉じた系なので、エネルギーの出入りはありません。

0=ΔEchemical+ΔEthermal+ΔEmechanical0 = \Delta E_{\text{chemical}} + \Delta E_{\text{thermal}} + \Delta E_{\text{mechanical}}

地面は水平でばねもないので ΔEmechanical=ΔK\Delta E_{\text{mechanical}} = \Delta K です。化学エネルギーの項を左辺に移すと、

−ΔEchemical=ΔEthermal+ΔK-\Delta E_{\text{chemical}} = \Delta E_{\text{thermal}} + \Delta K

燃料を消費するので ΔEchemical=−270 J\Delta E_{\text{chemical}} = -270\ \text{J} であり、放出されたエネルギーは −ΔEchemical=+270 J-\Delta E_{\text{chemical}} = +270\ \text{J} です。運動エネルギーの項は

ΔK=12mvf2−12mvi2=12(60)(1.5)2−0=67.5 J\Delta K = \tfrac{1}{2}mv_f^2 - \tfrac{1}{2}mv_i^2 = \tfrac{1}{2}(60)(1.5)^2 - 0 = 67.5\ \text{J}

したがって

ΔEthermal=270−67.5=202.5 J\Delta E_{\text{thermal}} = 270 - 67.5 = 202.5\ \text{J}

地面からの前向きの摩擦力は、この帳簿にはまったく現れません。地面についた足の接触点は変位しないので、摩擦力は仕事をしないからです。エネルギーの出どころは、はじめから内部にあったのです。

問4 · 一定の速さで押す

条件: 同じ 4.0 kg4.0\ \text{kg} の箱を、同じ床の上で水平に一定の速さで d=2.0 md = 2.0\ \text{m} 押します(fk=9.0 Nf_k = 9.0\ \text{N})。系は箱と床をまとめたものとし、熱の流れはない(Q=0Q = 0)とします。外部からの仕事 WextW^{\text{ext}} と、発生した熱エネルギーを求めてください。

✅ 正解です! ここでは箱自身の運動エネルギーではなく、押す人が 18 J18\ \text{J} を支払います。今度は、境界を越えて仕事をする外力があるのです。
❌ エネルギーはどこかに行かなければなりません。 ΔK=0\Delta K = 0、ΔU=0\Delta U = 0 なので、境界を越えた 18 J18\ \text{J} はすべて熱エネルギーとして現れます。
❌ 速さが一定ということは ΔK=0\Delta K = 0 ということで、仕事がゼロということではありません。 あなたの力は前向きに 9.0 N9.0\ \text{N} で、2.0 m2.0\ \text{m} にわたってはたらくので、系に +18 J+18\ \text{J} の仕事をします。
❌ 摩擦力を二重に数えています。 速さが一定のとき、加える力は fk=9.0 Nf_k = 9.0\ \text{N} に等しく、それに上乗せされるのではありません。
❌ 惜しい! 系に第一法則を使いましょう:Wext+Q=ΔEsys=ΔK+ΔU+ΔEthermalW^{\text{ext}} + Q = \Delta E_{\text{sys}} = \Delta K + \Delta U + \Delta E_{\text{thermal}}。
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速さが一定なので箱の加速度はゼロであり、加える力は動摩擦力とつり合います:F=fk=9.0 NF = f_k = 9.0\ \text{N}。外界が系にする仕事は

Wext=Fd=(9.0)(2.0)=18 JW^{\text{ext}} = F d = (9.0)(2.0) = 18\ \text{J}

です。箱 ++ 床の系に Q=0Q = 0 として第一法則を当てはめると、

Wext+Q=ΔEsys=ΔK+ΔU+ΔEthermalW^{\text{ext}} + Q = \Delta E_{\text{sys}} = \Delta K + \Delta U + \Delta E_{\text{thermal}} 18 J=0+0+ΔEthermal  ⇒  ΔEthermal=18 J18\ \text{J} = 0 + 0 + \Delta E_{\text{thermal}} \;\Rightarrow\; \Delta E_{\text{thermal}} = 18\ \text{J}

問1と比べてみましょう。熱エネルギーは同じ 18 J18\ \text{J} ですが、支払う者が違います。問1では境界は閉じていて、箱自身の運動エネルギーが温度上昇をまかないました。ここではエネルギーが外部からの仕事として境界を越え、運動エネルギーは変わりません。前と同じく、その 18 J18\ \text{J} が箱と床にどう分かれるかを決めるには、やはり熱のモデルが必要です。

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