古典力学 · 第18回 · 動画1 · インタラクティブ教材

全力疾走で脱出:小惑星トロと力学的エネルギーゼロ

I重要な公式

公式名称説明
UG(r)=−Gmtmr,UG(∞)≡0U^G(r) = -\dfrac{G m_t m}{r}, \qquad U^G(\infty) \equiv 0重力によるポテンシャルエネルギー無限に離れた状態でゼロ、有限の rr ではつねに負
Kf=0(r→∞ で)  ⟹  Ef=0K_f = 0 \text{(}r \to \infty\text{ で)} \;\Longrightarrow\; E_f = 0脱出の条件ぎりぎりたどり着く:無限遠では何も残らない
12mvesc2−GmtmR=0\tfrac{1}{2} m v_{\text{esc}}^2 - \dfrac{G m_t m}{R} = 0打ち出し時の力学的エネルギーがゼロWnc=0W_{\text{nc}} = 0 なので Ei=Ef=0E_i = E_f = 0
vesc=2GmtRv_{\text{esc}} = \sqrt{\dfrac{2 G m_t}{R}}脱出速度小惑星の mtm_t と RR だけで決まる

ポイント:脱出する物体自身の質量は約分されて消えるので、小石も人も同じ 7.3 m⋅s−17.3\ \text{m}\cdot\text{s}^{-1} でトロを離れます。違うのは、それぞれに与えなければならない運動エネルギーです。12mvesc2\tfrac{1}{2}mv_{\text{esc}}^2 には mm が残っています。

II可視化1 — 三つの運命、一つの符号

トロにつかまるかどうかは符号で決まります。打ち出し時の E=K+UE = K + U が負か、ゼロか、正かです。

III可視化2 — Ef=0E_f = 0 から 7.3 m/s7.3\ \text{m/s} へ

必要な式は一つだけです。打ち出しの運動エネルギーが、抜け出すべき井戸をちょうど埋めます。

ステップ1 — 終状態が合計を決める
無限に離れた状態で Kf=0K_f = 0 となることが「脱出」の意味です。そして Uf=0U_f = 0 なのは、ポテンシャルエネルギーのゼロをそこに選んだからです。
Ef=Kf+Uf=0E_f = K_f + U_f = 0

IV可視化3 — どこまで大きいと走って逃げられなくなるか

トロと同じ密度なら脱出速度は半径に比例するので、岩が大きくなれば、いずれ全力疾走では追いつけなくなります。

💡 トロの表面の重力加速度はわずか 5.3 mm⋅s−25.3\ \text{mm}\cdot\text{s}^{-2} なので、一歩で体が 0.15 m⋅s−10.15\ \text{m}\cdot\text{s}^{-1} で浮き上がると、次に地面を蹴れるまで1分近く浮いたままになります。7.3 m⋅s−17.3\ \text{m}\cdot\text{s}^{-1} という速さ自体は地球上なら簡単に出せます。難しいのは、それをトロの上で生み出すことです。

V確認クイズ

問1 · 与えられた天体からの脱出速度

条件: 質量 ma=3.0×1015 kgm_a = 3.0 \times 10^{15}\ \text{kg}、半径 R=4.0×103 mR = 4.0 \times 10^{3}\ \text{m} の一様な球形の小惑星があり、G=6.67×10−11 N⋅m2⋅kg−2G = 6.67 \times 10^{-11}\ \text{N}\cdot\text{m}^2\cdot\text{kg}^{-2} とします。表面からの脱出速度を求めてください。

✅ 正解です! 2Gma=4.00×105 m3⋅s−22Gm_a = 4.00 \times 10^{5}\ \text{m}^3\cdot\text{s}^{-2} で、RR でわると 100.1 m2⋅s−2100.1\ \text{m}^2\cdot\text{s}^{-2}、その平方根が 10.0 m⋅s−110.0\ \text{m}\cdot\text{s}^{-1} です。
❌ 2倍が抜けています。 Gma/R=7.1\sqrt{Gm_a/R} = 7.1 は、12mv2=Gmam/R\tfrac{1}{2}mv^2 = Gm_am/R の両辺を 22 倍しないまま平方根をとった値です。
❌ それは vescv_{\text{esc}} ではなく vesc2v_{\text{esc}}^2 です。 2Gma/R=100.1 m2⋅s−22Gm_a/R = 100.1\ \text{m}^2\cdot\text{s}^{-2} は速さの2乗の単位をもちます。平方根をとりましょう。
❌ RR の単位を確かめましょう。 316316 は、R=4.0×103 mR = 4.0 \times 10^{3}\ \text{m} の代わりに R=4.0R = 4.0 を使った値です。GG は SI 単位なので、半径はメートルで入れなければなりません。
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脱出とは Kf=0K_f = 0、Uf=0U_f = 0 で無限遠にたどり着くことなので、打ち出し時の力学的エネルギーの総和をゼロとおきます:

12mvesc2−GmamR=0⟹vesc=2GmaR\tfrac{1}{2} m v_{\text{esc}}^2 - \frac{G m_a m}{R} = 0 \quad\Longrightarrow\quad v_{\text{esc}} = \sqrt{\frac{2 G m_a}{R}}

RR をメートルで表して代入すると:

2Gma=2(6.67×10−11)(3.0×1015)=4.00×105 m3⋅s−22 G m_a = 2(6.67 \times 10^{-11})(3.0 \times 10^{15}) = 4.00 \times 10^{5}\ \text{m}^3\cdot\text{s}^{-2} 2GmaR=4.00×1054.0×103=100.1 m2⋅s−2\frac{2 G m_a}{R} = \frac{4.00 \times 10^{5}}{4.0 \times 10^{3}} = 100.1\ \text{m}^2\cdot\text{s}^{-2} vesc=100.1=10.0 m⋅s−1v_{\text{esc}} = \sqrt{100.1} = 10.0\ \text{m}\cdot\text{s}^{-1}

脱出する物体の質量は一度も出てこないことに注意しましょう。最初の行で約分されて消えています。

問2 · 小石と宇宙飛行士

条件: 0.20 kg0.20\ \text{kg} の小石と 60 kg60\ \text{kg} の宇宙飛行士が、どちらもトロの表面にいます。トロでは vesc=7.3 m⋅s−1v_{\text{esc}} = 7.3\ \text{m}\cdot\text{s}^{-1} です。それぞれが脱出するのに何が必要かを判断してください。

✅ 正解です! 12mv2=Gmtm/R\tfrac{1}{2}mv^2 = Gm_tm/R の mm は約分されるので、速さは共通です。しかし K=12mvesc2K = \tfrac{1}{2}mv_{\text{esc}}^2 には残ります。小石は 5.3 J5.3\ \text{J}、宇宙飛行士は 1.6×103 J1.6 \times 10^{3}\ \text{J} です。
❌ 速さは正しいのですが、エネルギーが違います。 K=12mvesc2K = \tfrac{1}{2}mv_{\text{esc}}^2 は mm に比例します。12(0.20)(53.4)=5.3 J\tfrac{1}{2}(0.20)(53.4) = 5.3\ \text{J} に対して 12(60)(53.4)=1.6×103 J\tfrac{1}{2}(60)(53.4) = 1.6 \times 10^{3}\ \text{J} です。
❌ 井戸は確かに深くなりますが、蓄えも同じだけ大きくなります。 UU も KK も mm に比例するので、12mv2=Gmtm/R\tfrac{1}{2}mv^2 = Gm_tm/R から mm は消え、必要な速さは変わりません。
❌ 慣性は関係しません。 vesc=2Gmt/Rv_{\text{esc}} = \sqrt{2Gm_t/R} に含まれるのは小惑星の質量と半径だけで、脱出する物体の質量はすでに約分されて消えています。
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打ち出し時の力学的エネルギーの総和をゼロとおくと、任意の質量 mm の物体について次が成り立ちます:

12mvesc2=GmtmR⟹vesc=2GmtR=7.3 m⋅s−1\tfrac{1}{2} m v_{\text{esc}}^2 = \frac{G m_t m}{R} \quad\Longrightarrow\quad v_{\text{esc}} = \sqrt{\frac{2 G m_t}{R}} = 7.3\ \text{m}\cdot\text{s}^{-1}

どちらの項も mm に比例するので mm は約分され、速さはどちらの物体でも同じです。

必要なエネルギーは同じではありません。vesc2=53.4 m2⋅s−2v_{\text{esc}}^2 = 53.4\ \text{m}^2\cdot\text{s}^{-2} を使うと:

Kpebble=12(0.20)(53.4)=5.3 J,Kastronaut=12(60)(53.4)=1.6×103 JK_{\text{pebble}} = \tfrac{1}{2}(0.20)(53.4) = 5.3\ \text{J}, \qquad K_{\text{astronaut}} = \tfrac{1}{2}(60)(53.4) = 1.6 \times 10^{3}\ \text{J}

その比はちょうど質量の比 60/0.20=30060/0.20 = 300 です。

問3 · 打ち出しが遅すぎる

条件: 物体がトロの表面から動径方向に v0=5.0 m⋅s−1v_0 = 5.0\ \text{m}\cdot\text{s}^{-1} で飛び出します。Gmt=1.334×105 m3⋅s−2G m_t = 1.334 \times 10^{5}\ \text{m}^3\cdot\text{s}^{-2}、R=5.0×103 mR = 5.0 \times 10^{3}\ \text{m} とします。1キログラムあたりの力学的エネルギーの総和と、トロの中心から最も遠ざかるときの距離を求めてください。

打ち出し時の1キログラムあたりの力学的エネルギーの総和

トロの中心からの最大距離

✅ 正解です! E/m=12.5−26.68=−14.18 J⋅kg−1E/m = 12.5 - 26.68 = -14.18\ \text{J}\cdot\text{kg}^{-1} は負なので、物体は束縛されています。転回点では K=0K = 0 で、−Gmt/r=−14.18-Gm_t/r = -14.18 から r=9.41×103 mr = 9.41 \times 10^{3}\ \text{m} が得られます。
❌ それは K/mK/m だけです。 表面での重力によるポテンシャルエネルギー −Gmt/R=−26.68 J⋅kg−1-Gm_t/R = -26.68\ \text{J}\cdot\text{kg}^{-1} も足さなければなりません。
❌ それは U/mU/m だけです。 井戸の深さに、打ち出しの運動エネルギー 12v02=12.5 J⋅kg−1\tfrac{1}{2}v_0^2 = 12.5\ \text{J}\cdot\text{kg}^{-1} を足しましょう。
❌ KK の符号を確かめましょう。 運動エネルギーは正です。−12.5−26.68-12.5 - 26.68 ではなく E/m=+12.5−26.68E/m = +12.5 - 26.68 です。
❌ 惜しい! E/m=12v02−Gmt/RE/m = \tfrac{1}{2}v_0^2 - Gm_t/R で、12(5.0)2=12.5\tfrac{1}{2}(5.0)^2 = 12.5、Gmt/R=26.68 J⋅kg−1Gm_t/R = 26.68\ \text{J}\cdot\text{kg}^{-1} です。
❌ それは中心からの距離ではなく、高度です。 4.4 km4.4\ \text{km} は表面からの高さです。トロの半径 R=5.0 kmR = 5.0\ \text{km} を足しましょう。
❌ それは重力が一定だと仮定しています。 g=5.34×10−3 m⋅s−2g = 5.34 \times 10^{-3}\ \text{m}\cdot\text{s}^{-2} として h=v02/2gh = v_0^2/2g を使うと 2.3 km2.3\ \text{km} になりますが、その距離では gg が大きく弱まります。代わりに U=−Gmtm/rU = -Gm_t m/r を使いましょう。
❌ 始めのポテンシャルエネルギーが抜けています。 r=2Gmt/v02=10.7 kmr = 2Gm_t/v_0^2 = 10.7\ \text{km} は 12v02=Gmt/r\tfrac{1}{2}v_0^2 = Gm_t/r とおいた値で、物体が最初から井戸の深いところにいたことを忘れています。
❌ 惜しい! 最も遠い点では K=0K = 0 なので、全エネルギーはすべてポテンシャルエネルギーです:−Gmt/rmax⁡=E/m-Gm_t/r_{\max} = E/m。
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ステップ1 — 打ち出し時の1キログラムあたりの力学的エネルギーの総和。

Em=12v02−GmtR=12(5.0)2−1.334×1055.0×103=12.5−26.68=−14.18 J⋅kg−1\frac{E}{m} = \tfrac{1}{2}v_0^2 - \frac{G m_t}{R} = \tfrac{1}{2}(5.0)^2 - \frac{1.334 \times 10^{5}}{5.0 \times 10^{3}} = 12.5 - 26.68 = -14.18\ \text{J}\cdot\text{kg}^{-1}

これは負なので、5.0 m⋅s−15.0\ \text{m}\cdot\text{s}^{-1} は脱出速度 7.3 m⋅s−17.3\ \text{m}\cdot\text{s}^{-1} より小さく、物体は束縛されています。

ステップ2 — 転回点。 最も遠い点で物体は一瞬静止するので、K=0K = 0 で、EE はすべてポテンシャルエネルギーです。エネルギーは保存されるので、その値はやはり −14.18 J⋅kg−1-14.18\ \text{J}\cdot\text{kg}^{-1} です:

−Gmtrmax⁡=−14.18⟹rmax⁡=1.334×10514.18=9.41×103 m-\frac{G m_t}{r_{\max}} = -14.18 \quad\Longrightarrow\quad r_{\max} = \frac{1.334 \times 10^{5}}{14.18} = 9.41 \times 10^{3}\ \text{m}

したがって中心から rmax⁡=9.4 kmr_{\max} = 9.4\ \text{km} です。これは約 1.9R1.9R、つまり表面から 4.4 km4.4\ \text{km} の高さで、そのあと物体は落ちてきます。

問4 · 同じ岩で、大きさが2倍

条件: トロと同じ物質でできた(一様な密度も同じ)2つめの小惑星があり、その半径は2倍の R′=10.0 kmR' = 10.0\ \text{km} です。トロは mt=2.0×1015 kgm_t = 2.0 \times 10^{15}\ \text{kg}、R=5.0 kmR = 5.0\ \text{km}、vesc=7.3 m⋅s−1v_{\text{esc}} = 7.3\ \text{m}\cdot\text{s}^{-1} です。大きいほうの天体からの脱出速度を求めてください。

✅ 正解です! 密度が等しいので m∝R3m \propto R^3 となり、m′=8mt=1.6×1016 kgm' = 8m_t = 1.6 \times 10^{16}\ \text{kg}、vesc′=2Gm′/R′=213.4=14.6 m⋅s−1v'_{\text{esc}} = \sqrt{2Gm'/R'} = \sqrt{213.4} = 14.6\ \text{m}\cdot\text{s}^{-1} です。トロの2倍で、もう 12 m⋅s−112\ \text{m}\cdot\text{s}^{-1} の全力疾走では届きません。
❌ ここでは脱出速度は大きさとともに減りません。 vesc=2Gm/Rv_{\text{esc}} = \sqrt{2Gm/R} が RR とともに減るのは質量が一定のときだけです。密度が一定なら質量は R3R^3 に比例して増え、そちらが勝ちます。
❌ 質量を一定にしています。 2Gmt/R′=5.2\sqrt{2Gm_t/R'} = 5.2 は、半径を2倍にしたもののトロの質量のままにした値です。同じ岩で半径が2倍なら、質量は 88 倍です。
❌ 脱出速度は物質だけで決まる性質ではありません。 m∝R3m \propto R^3 なら vesc=2Gm/R∝Rv_{\text{esc}} = \sqrt{2Gm/R} \propto R で、半径が2倍になると脱出速度も2倍になります。
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ステップ1 — 密度が同じなので、質量は体積に比例する。

m′=mt(R′R)3=(2.0×1015)(2)3=1.6×1016 kgm' = m_t \left(\frac{R'}{R}\right)^3 = (2.0 \times 10^{15})(2)^3 = 1.6 \times 10^{16}\ \text{kg}

ステップ2 — 大きいほうの天体の脱出速度。

vesc′=2Gm′R′=2(6.67×10−11)(1.6×1016)1.0×104=213.4=14.6 m⋅s−1v'_{\text{esc}} = \sqrt{\frac{2 G m'}{R'}} = \sqrt{\frac{2(6.67 \times 10^{-11})(1.6 \times 10^{16})}{1.0 \times 10^{4}}} = \sqrt{213.4} = 14.6\ \text{m}\cdot\text{s}^{-1}

比例関係を直接見る。 ρ\rho を一定とすると m=43πρR3m = \tfrac{4}{3}\pi\rho R^3 なので

vesc=2GR⋅43πρR3=R83πGρ  ∝  Rv_{\text{esc}} = \sqrt{\frac{2G}{R} \cdot \tfrac{4}{3}\pi\rho R^3} = R\sqrt{\tfrac{8}{3}\pi G \rho} \;\propto\; R

半径を2倍にすると脱出速度も2倍になります:2×7.3=14.6 m⋅s−12 \times 7.3 = 14.6\ \text{m}\cdot\text{s}^{-1}。14.6>1214.6 > 12 なので、オリンピックの短距離走者でも、もうこの小惑星の重力から走って逃げることはできません。

正解数: 0 / 4