古典力学 · 第20回 · 動画7 · インタラクティブ教材

補正項はなぜ md² だけなのか:平行軸の定理の証明

I重要な公式

公式名称必要なもの
r⃗S,dm=r⃗S,cm+r⃗dm\vec{r}_{S,dm} = \vec{r}_{S,\text{cm}} + \vec{r}_{dm}ベクトルの三角形3本の位置ベクトル。距離はまだ使わない
r⃗S,⊥,dm=r⃗S,⊥,cm+r⃗⊥,dm\vec{r}_{S,\perp,dm} = \vec{r}_{S,\perp,\text{cm}} + \vec{r}_{\perp,dm},  ∣r⃗S,⊥,cm∣=dS,cm\ \left|\vec{r}_{S,\perp,\text{cm}}\right| = d_{S,\text{cm}}垂直な部分二本の軸は平行なので、一度の分解で両方の軸に使える
IS=∫bodydm dS,cm2+∫bodydm (r⊥,dm)2+2 r⃗S,⊥,cm⋅ ⁣∫bodydm r⃗⊥,dmI_S = \displaystyle\int_{\text{body}} dm\, d_{S,\text{cm}}^2 + \int_{\text{body}} dm\,(r_{\perp,dm})^2 + 2\,\vec{r}_{S,\perp,\text{cm}}\cdot\!\int_{\text{body}} dm\,\vec{r}_{\perp,dm}三つの積分r⃗S,⊥,dm⋅r⃗S,⊥,dm\vec{r}_{S,\perp,dm}\cdot\vec{r}_{S,\perp,dm} を展開する
IS=Icm+m dS,cm2I_S = I_{\text{cm}} + m\,d_{S,\text{cm}}^2平行軸の定理IcmI_{\text{cm}}、全質量、軸間距離

ポイント: 物体の形が証明に入ってくるのはただ一か所、交差項 2 r⃗S,⊥,cm⋅∫dm r⃗⊥,dm2\,\vec{r}_{S,\perp,\text{cm}}\cdot\int dm\,\vec{r}_{\perp,dm} だけです。そしてこの積分は、要素へのベクトル r⃗dm\vec{r}_{dm} を質量中心(重心)から測っているので 0⃗\vec{0} になります。二本目の軸を質量中心からずらすと交差項は残ります。だから m d2m\,d^2 が補正のすべてになるのは、質量中心を通る軸の場合だけなのです。

IIベクトルの三角形と、その垂直な影

3本の位置ベクトルは三角形を閉じます。二本の軸に垂直な部分どうしも、同じように閉じます。

💡 分解は zz 方向に対してではなく、軸がどちらを向いていてもその軸の向きに対して行います。だから同じ証明が、二つの車輪の軸がもう平行でない、曲がっている自転車にも、軸が円錐を描く、歳差運動をするこまにも、そのまま使えるのです。

III交差項が消える理由

要素へのベクトルを質量で重みづけしてつないだ鎖が閉じるのは、ただ一つの点から測ったときだけです。

💡 ずれた二本の軸は、質量中心を経由してしか結びつけられません。それぞれの軸に定理を使って引き算すると IS′=IS+m(dS′,cm2−dS,cm2)I_{S'} = I_S + m\left(d_{S',\text{cm}}^2 - d_{S,\text{cm}}^2\right) が得られます。これが成り立つのは、どちらの軸も質量中心を通る軸に平行である場合だけです。

IV三つの和、一つの物体

この物体では、三つの項は m dS,cm2m\,d_{S,\text{cm}}^2、IcmI_{\text{cm}}、そしてちょうど 0 になる交差項です。

ステップ1:定義どおりに直接足す
IS=∑imi (rS,⊥,i)2I_S = \sum_i m_i\,(r_{S,\perp,i})^2
=3(2)+2(20)+1(34)+2(20)= 3(2) + 2(20) + 1(34) + 2(20)
=6+40+34+40=120 kg m2= 6 + 40 + 34 + 40 = 120\ \mathrm{kg\,m^2}

V確認クイズ

問1 · 定理を使う

条件: 質量 m=6 kgm = 6\ \mathrm{kg}、Icm=40 kg m2I_{\text{cm}} = 40\ \mathrm{kg\,m^2} の物体があります。質量中心を通る軸から距離 dS,cm=2 md_{S,\text{cm}} = 2\ \mathrm{m} だけ離れた平行な軸のまわりの ISI_S を求めてください。

✅ 正解です! 40+(6)(2)2=40+24=64 kg m240 + (6)(2)^2 = 40 + 24 = 64\ \mathrm{kg\,m^2} です。軸を質量中心からずらすと、II は大きくなるしかありません。
❌ 質量が抜けています。 それは Icm+d2I_{\text{cm}} + d^2 です。一つ目の積分は d2∫dm=m d2d^2\int dm = m\,d^2 なので、2乗には全質量がかかります。
❌ 惜しい! 軸間距離は2乗します。 m dm\,d は 1212 ですが、この項は d∫dmd\int dm ではなく d2∫dmd^2\int dm から出てきます。
❌ 符号が逆です。 補正項 m d2m\,d^2 は2乗の和で、足されます。互いに平行な軸の中で、慣性モーメントが最小になるのは IcmI_{\text{cm}} です。
❌ 惜しい! IS=Icm+m dS,cm2I_S = I_{\text{cm}} + m\,d_{S,\text{cm}}^2 に m=6m = 6、d=2d = 2 を使いましょう。
解答を見る

形の情報はすでに IcmI_{\text{cm}} に取りこまれているので、定理に必要な数は三つだけです。

IS=Icm+m dS,cm2=40+(6)(2)2=40+24=64 kg m2I_S = I_{\text{cm}} + m\,d_{S,\text{cm}}^2 = 40 + (6)(2)^2 = 40 + 24 = 64\ \mathrm{kg\,m^2}

補正項 m d2m\,d^2 は積分 ∫dm dS,cm2\int dm\, d_{S,\text{cm}}^2 から出てきました。この積分では dS,cmd_{S,\text{cm}} がどの要素についても同じ定数なので積分の外に出せて、∫dm=m\int dm = m が残ります。

問2 · ずれた二本の軸

条件: 質量中心を通る軸と、それに平行な二本の軸 AA、BB が一つの平面上にあります。AA と BB は質量中心から見て同じ側の、距離 dA=3 md_A = 3\ \mathrm{m} と dB=5 md_B = 5\ \mathrm{m} のところにあるので、AA と BB の間隔は 2 m2\ \mathrm{m} です。物体の質量は m=8 kgm = 8\ \mathrm{kg}、IA=120 kg m2I_A = 120\ \mathrm{kg\,m^2} です。IBI_B を求めてください。

✅ 正解です! Icm=120−8(3)2=48I_{\text{cm}} = 120 - 8(3)^2 = 48、次に IB=48+8(5)2=248 kg m2I_B = 48 + 8(5)^2 = 248\ \mathrm{kg\,m^2} です。同じことを IB=IA+m(dB2−dA2)=120+8(16)I_B = I_A + m\left(d_B^2 - d_A^2\right) = 120 + 8(16) と書くこともできます。
❌ それは質量中心を通らない二本の軸のあいだで定理を使っています。 IA+m(2)2I_A + m(2)^2 が正しいためには、AA のまわりの展開の交差項が消えなければなりませんが、消えません。AA も BB も質量中心を通っていないからです。
❌ 前の補正項が残ったままです。 IAI_A にはすでに m dA2m\,d_A^2 が含まれています。m dB2m\,d_B^2 を足す前に、それを取り除きましょう。
❌ それは Icm+m(dB2−dA2)I_{\text{cm}} + m\left(d_B^2 - d_A^2\right) です。 2乗の差は IcmI_{\text{cm}} ではなく IAI_A に足します。
❌ 惜しい! 質量中心を通る軸を経由しましょう。まず IAI_A から IcmI_{\text{cm}} を求め、それから BB へ移ります。
解答を見る

ステップ1:質量中心に戻る。 AA の相手の軸が質量中心を通る軸なので、AA には定理が使えます。

Icm=IA−m dA2=120−8(3)2=120−72=48 kg m2I_{\text{cm}} = I_A - m\,d_A^2 = 120 - 8(3)^2 = 120 - 72 = 48\ \mathrm{kg\,m^2}

ステップ2:BB へ移る。

IB=Icm+m dB2=48+8(5)2=48+200=248 kg m2I_B = I_{\text{cm}} + m\,d_B^2 = 48 + 8(5)^2 = 48 + 200 = 248\ \mathrm{kg\,m^2}

二回の適用を引き算すると、動画で見た一般的な規則が得られます。

IB=IA+m(dB2−dA2)=120+8(25−9)=248 kg m2I_B = I_A + m\left(d_B^2 - d_A^2\right) = 120 + 8(25 - 9) = 248\ \mathrm{kg\,m^2}

この規則が何でないかにも注意しましょう。IA+m (2 m)2=152 kg m2I_A + m\,(2\ \mathrm{m})^2 = 152\ \mathrm{kg\,m^2} は誤りです。質量中心ではなく AA のまわりで展開すると、交差項 2 r⃗B,⊥,A⋅∫dm r⃗⊥,A,dm2\,\vec{r}_{B,\perp,A}\cdot\int dm\,\vec{r}_{\perp,A,dm} が消えずに残ります。∫dm r⃗\int dm\,\vec{r} が 0 になるのは、質量中心から測ったときだけだからです。

問3 · 三つの粒子、一本の軸

条件: 互いに平行な軸に垂直な平面上に、三つの粒子があります。(−4,2) m(-4, 2)\ \mathrm{m} に m1=1 kgm_1 = 1\ \mathrm{kg}、(0,−2) m(0, -2)\ \mathrm{m} に m2=2 kgm_2 = 2\ \mathrm{kg}、(4,2) m(4, 2)\ \mathrm{m} に m3=1 kgm_3 = 1\ \mathrm{kg} です。

質量中心はどこにありますか?

(0,3) m(0, 3)\ \mathrm{m} を通る平行な軸のまわりの ISI_S はいくらですか?

✅ 正解です! Icm=48 kg m2I_{\text{cm}} = 48\ \mathrm{kg\,m^2}、d=3 md = 3\ \mathrm{m} なので、IS=48+4(9)=84 kg m2I_S = 48 + 4(9) = 84\ \mathrm{kg\,m^2} です。直接足した 17+50+1717 + 50 + 17 と同じ値です。
❌ それは三つの位置の単なる平均です。 それぞれの位置に、自分の質量で重みをつけます。2 kg2\ \mathrm{kg} の粒子は2倍に数えます。
❌ 重みのつけ方がちぐはぐです。 それは ∑ir⃗i\sum_i \vec{r}_i を mm で割っています。分子は ∑imir⃗i\sum_i m_i\vec{r}_i でなければなりません。
❌ 重い粒子は確かに下へ引きますが、そこまでではありません。 y=−2y = -2 にある 2 kg2\ \mathrm{kg} は、y=+2y = +2 にある2つの 1 kg1\ \mathrm{kg} の粒子とちょうどつり合います。
❌ 質量中心を確かめましょう。 まず ∑imir⃗i\sum_i m_i \vec{r}_i を計算し、それを m=4 kgm = 4\ \mathrm{kg} で割ります。
❌ ISI_S を確かめましょう。 三つの粒子から IcmI_{\text{cm}} を求め、二本の軸のあいだで測った dd を使って m dS,cm2m\,d_{S,\text{cm}}^2 を足します。
解答を見る

ステップ1:質量中心。 m=1+2+1=4 kgm = 1 + 2 + 1 = 4\ \mathrm{kg} として、

∑imir⃗i=1(−4,2)+2(0,−2)+1(4,2)=(0,0) ⇒ r⃗cm=(0,0) m\sum_i m_i\vec{r}_i = 1(-4, 2) + 2(0, -2) + 1(4, 2) = (0, 0) \ \Rightarrow\ \vec{r}_{\text{cm}} = (0,0)\ \mathrm{m}

ステップ2:質量中心を通る軸のまわりの慣性モーメント。

Icm=1(16+4)+2(0+4)+1(16+4)=20+8+20=48 kg m2I_{\text{cm}} = 1(16 + 4) + 2(0 + 4) + 1(16 + 4) = 20 + 8 + 20 = 48\ \mathrm{kg\,m^2}

ステップ3:軸を移す。 (0,3)(0,3) を通る軸は、質量中心を通る軸から dS,cm=3 md_{S,\text{cm}} = 3\ \mathrm{m} だけ離れています。

IS=Icm+m dS,cm2=48+4(3)2=84 kg m2I_S = I_{\text{cm}} + m\,d_{S,\text{cm}}^2 = 48 + 4(3)^2 = 84\ \mathrm{kg\,m^2}

直接確かめる。 SS からの垂直なベクトルは (−4,−1)(-4,-1)、(0,−5)(0,-5)、(4,−1)(4,-1) です。

IS=1(17)+2(25)+1(17)=17+50+17=84 kg m2 ✓I_S = 1(17) + 2(25) + 1(17) = 17 + 50 + 17 = 84\ \mathrm{kg\,m^2}\ \checkmark

問4 · 消えずに残る交差項

条件: 同じ三つの粒子を考えます。ある学生が、質量中心ではなく点 P=(0,2) mP = (0, 2)\ \mathrm{m} のまわりで展開し、r⃗S,i=r⃗S,P+r⃗P,i\vec{r}_{S,i} = \vec{r}_{S,P} + \vec{r}_{P,i} と書きました。S=(0,3) mS = (0, 3)\ \mathrm{m} なので r⃗S,P=(0,−1) m\vec{r}_{S,P} = (0,-1)\ \mathrm{m} です。

∑imir⃗P,i\sum_i m_i \vec{r}_{P,i} はいくらですか?

すると、交差項 2 r⃗S,P⋅∑imir⃗P,i2\,\vec{r}_{S,P}\cdot\sum_i m_i \vec{r}_{P,i} の値は?

✅ 正解です! ∑imir⃗P,i=m(r⃗cm−r⃗P)=(0,−8)\sum_i m_i\vec{r}_{P,i} = m\left(\vec{r}_{\text{cm}} - \vec{r}_P\right) = (0,-8)、2(0,−1)⋅(0,−8)=16 kg m22(0,-1)\cdot(0,-8) = 16\ \mathrm{kg\,m^2} です。質量中心のまわりで展開していれば消えていた項です。
❌ その和が 0 になるのは、質量中心から測ったときだけです。 ∑imir⃗P,i=m(r⃗cm−r⃗P)\sum_i m_i\vec{r}_{P,i} = m\left(\vec{r}_{\text{cm}} - \vec{r}_P\right) で、これが 0 になるのは、PP が質量中心であるときに限ります。
❌ 符号が逆です。 r⃗P,i\vec{r}_{P,i} は PP から粒子へ向かうベクトルなので r⃗i−r⃗P\vec{r}_i - \vec{r}_P です。そして質量中心は PP より下にあります。
❌ 質量の因子が抜けています。 r⃗cm−r⃗P=(0,−2) m\vec{r}_{\text{cm}} - \vec{r}_P = (0,-2)\ \mathrm{m} に、さらに m=4 kgm = 4\ \mathrm{kg} をかける必要があります。
❌ 和を確かめましょう。 3つのベクトル mi(r⃗i−r⃗P)m_i\left(\vec{r}_i - \vec{r}_P\right) を足すか、m(r⃗cm−r⃗P)m\left(\vec{r}_{\text{cm}} - \vec{r}_P\right) を直接使います。
❌ 内積を確かめましょう。 どちらのベクトルも −y^-\hat{y} の向きなので、内積は正になります:2 (0)(0)+2(−1)(−8)2\,(0)(0) + 2(-1)(-8)。
解答を見る

ステップ1:PP から測った和。 どんな原点についても ∑imir⃗i=m r⃗cm\sum_i m_i\vec{r}_i = m\,\vec{r}_{\text{cm}} なので、

∑imir⃗P,i=∑imi(r⃗i−r⃗P)=m(r⃗cm−r⃗P)=4[(0,0)−(0,2)]=(0,−8) kg m\sum_i m_i \vec{r}_{P,i} = \sum_i m_i\left(\vec{r}_i - \vec{r}_P\right) = m\left(\vec{r}_{\text{cm}} - \vec{r}_P\right) = 4\left[(0,0) - (0,2)\right] = (0,-8)\ \mathrm{kg\,m}

ステップ2:交差項。 r⃗S,P=(0,−1) m\vec{r}_{S,P} = (0,-1)\ \mathrm{m} なので、

2 r⃗S,P⋅∑imir⃗P,i=2[(0)(0)+(−1)(−8)]=16 kg m22\,\vec{r}_{S,P}\cdot\sum_i m_i\vec{r}_{P,i} = 2\left[(0)(0) + (-1)(-8)\right] = 16\ \mathrm{kg\,m^2}

ステップ3:展開はやはり成り立つが、それはこの項があるときだけ。 PP のまわりでは IP=1(16)+2(16)+1(16)=64 kg m2I_P = 1(16) + 2(16) + 1(16) = 64\ \mathrm{kg\,m^2}、また m∣r⃗S,P∣2=4(1)=4 kg m2m\left|\vec{r}_{S,P}\right|^2 = 4(1) = 4\ \mathrm{kg\,m^2} なので、

IS=IP+m∣r⃗S,P∣2+16=64+4+16=84 kg m2 ✓I_S = I_P + m\left|\vec{r}_{S,P}\right|^2 + 16 = 64 + 4 + 16 = 84\ \mathrm{kg\,m^2}\ \checkmark

となり、問3と一致します。交差項を落とすと 68 kg m268\ \mathrm{kg\,m^2} になってしまいます。IS=Icm+m d2I_S = I_{\text{cm}} + m\,d^2 という簡潔な関係は、質量中心を通る軸の性質であって、任意の二本の平行な軸の性質ではありません。

正解数:0 / 4