ファイナンス理論 · 第10回 · 動画2 · インタラクティブ教材

企業はヘッジすべきか:無関連性、困窮のコスト、そして実際の企業行動

I重要な公式

公式名称説明
NPVヘッジ=PV(ヘッジのペイオフ)−支払った価格=0\text{NPV}_{\text{ヘッジ}} = \text{PV}(\text{ヘッジのペイオフ}) - \text{支払った価格} = 0NPVゼロのヘッジ(1つ目の見方)公正な市場価格のもとでは、企業はヘッジの価値とちょうど同じだけを支払うので、ヘッジそれ自体は価値を生みません
Vヘッジあり=Vヘッジなし+NPVヘッジ=VヘッジなしV_{\text{ヘッジあり}} = V_{\text{ヘッジなし}} + \text{NPV}_{\text{ヘッジ}} = V_{\text{ヘッジなし}}ヘッジの無関連性(モジリアーニ=ミラー)摩擦のない市場では、企業にできることは株主も自分でできるので、ヘッジしても企業価値は変わりません
V=E[CF]−Pr⁡(困窮)×困窮のコストV = \mathbb{E}[\text{CF}] - \Pr(\text{困窮}) \times \text{困窮のコスト}困窮のコスト(2つ目の見方、説明用のモデル)NPVゼロのヘッジは E[CF]\mathbb{E}[\text{CF}] を変えませんが、Pr⁡(困窮)\Pr(\text{困窮}) を下げることで、取り戻せない損失(デッドウェイト・コスト)の期待値を減らし、その分 VV を高めます

ポイント:どちらの見方も、一般に勝つわけではありません。摩擦のない市場では、ヘッジは企業価値に無関係です。財務的な困窮のコストや、資金を必要とするプロジェクトがあれば、ヘッジは価値を生みえます。企業によって摩擦の重みづけが違うからこそ、方針も、まったくヘッジしないものから積極的にヘッジするものまで、幅があるのです。

II株主が自分でするヘッジ(1つ目の見方)

説明用の数字で見ると、株主は金を先渡で売ることで、企業による全量のヘッジを自分で再現できます。

💡 チャレンジ:どの状態でも、株主のペイオフをヘッジした企業と一致させてみましょう。動画で紹介された反論は、現実の株主がこのポジションを計算できるほど企業のエクスポージャーを詳しく知っていることはまれで、先渡を取引する体制も整っていない、というものです。

III困窮にコストがかかるとき(2つ目の見方)

説明用の数字で見ると、困窮にコストがかかる状態があればヘッジは価値を生み、その摩擦がなければヘッジは何も変えません。

IV企業は実際にどれだけヘッジしていたか

ゲイとコタリが調べた大手非金融企業413社では、価格が標準偏差の3倍(3σ)動いたとき、デリバティブはどれだけ払ったでしょうか。

💡 その後、デリバティブの利用はずっと広がりました。1997年の標本でデリバティブを使っていたのは57%でしたが、2025年3月の調査では、主要な7つの株価指数に含まれる非金融企業の86.6%が店頭(OTC)デリバティブを使っていました(金融機関も含めると87.1%)。2つの調査は標本が違うので、比較はおおよそのものです。

V確認クイズ

問1 · 公正な価格のヘッジ

条件: ヘッジしていない銅鉱山会社の価値は5億ドルです。この会社は、来年の産出量を公正な先渡価格で先渡で売り、手数料は払いません。市場には摩擦がなく、株主は分散投資をしています。ヘッジした直後の企業価値を求めてください。

✅ 正解です! 公正な価値で買ったヘッジはNPVゼロの取引なので、摩擦のない市場では企業価値を変えません。
❌ 惜しい! ここでは、リスクが下がっても価値は増えません。分散投資をしている株主は企業固有のリスクを気にしませんし、企業はヘッジの価値とちょうど同じだけを支払っています。
❌ 惜しい! 企業は上振れを手放しますが、下振れも手放します。公正な価格では両者の価値は等しいので、平均すると何も失いません。
❌ 惜しい! それは、あとから見たヘッジのペイオフの話です。公正な価格でのヘッジの今日の価値は、銅がその後どちらに動いてもゼロです。
❌ 惜しい! ヘッジの価値から、企業がそのために支払った額を差し引くといくらになるかを考えてください。
解答を見る

公正な先渡価格では、ヘッジの現在価値は企業がそのために支払う額に等しくなります:

NPVヘッジ=PV(ペイオフ)−価格=0\text{NPV}_{\text{ヘッジ}} = \text{PV}(\text{ペイオフ}) - \text{価格} = 0 Vヘッジあり=Vヘッジなし+0V_{\text{ヘッジあり}} = V_{\text{ヘッジなし}} + 0

ですから、企業の価値は変わらず5億ドルです。これが1つ目の見方(モジリアーニ=ミラー)です。摩擦がなければ、ヘッジはリスクを移すだけで価値を生まず、分散投資をしている株主は、ヘッジが取り除く企業固有のリスクに余分なお金を払いません。

問2 · 自分でヘッジする

条件: ある株主が、年に 60,00060{,}000 オンスを産出する、ヘッジしていない金鉱山会社の株を4%持っています。この会社は産出量をすべて先渡で売ることもできますが、株主は同じ結果を自分で得たいと考えています。株主が先渡で売るべきオンス数を求めてください。

✅ 正解です! 株主のエクスポージャーは、企業の産出量のうち自分の持ち分にあたる 0.04×60,000=2,4000.04 \times 60{,}000 = 2{,}400 オンスです。
❌ 惜しい! それは企業の産出量の全部です。株主が持っているのはその4%だけなので、全部を先渡で売れば、金を大きくショートすることになります。
❌ 惜しい! 何も売らなければ、金価格のリスクをそのまま負います。そのリスクを望むならそれでかまいませんが、ヘッジした企業の再現にはなりません。
❌ 桁を確かめてください。 4%は 0.040.04 で、0.0040.004 ではありません。
❌ 惜しい! 企業のオンス数のうち、株主の持ち分に合わせてください。
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企業の4%を持つことは、その金のエクスポージャーの4%を持つことです:

0.04×60,000=2,400 オンス0.04 \times 60{,}000 = 2{,}400 \text{ オンス}

公正な価格で2,400オンスを先渡で売れば、全量をヘッジした鉱山会社の4%とちょうど同じペイオフが得られます。これが1つ目の見方の「自分でできる」という半分です。同時に、実務上の落とし穴も分かります。株主がこれをできるのは、企業のエクスポージャーを知っている場合だけです。

問3 · 困窮のコストを払う

条件(説明用):ある鉱山会社は、年末に費用と元利払いを合わせて4,500万ドルを支払わなければなりません。ヘッジしなければ、売上は同じ確率で4,000万ドルか8,000万ドルです。産出量のうち割合 hh を先渡で売ると公正な価格が固定され、悪い状態での売上は 40(1−h)+60h40(1-h) + 60h 百万ドルになります。売上が4,500万ドルに届かなければ、財務的な困窮によってさらに1,200万ドルが失われます。割引は無視します。

どちらの状態でも困窮を避けられる、最小のヘッジ比率はいくらですか?

その比率でヘッジすると、ヘッジしない場合と比べて企業価値はいくら上がりますか?

✅ 正解です! 25%のヘッジで悪い状態での不足額が埋まります。1,200万ドルの損失が50%の確率で起こる可能性をなくすことには、600万ドルの価値があります。
❌ 惜しい! 50%でも困窮は避けられますが、もっと少なくてもかまいません。40+20h≥4540 + 20h \ge 45 を解いてください。
❌ 惜しい! 不足額の500万ドルは、悪い状態での売上の40ではなく、ヘッジ1単位が悪い状態で増やす額(60−40=2060 - 40 = 20 百万ドル)で割らなければなりません。
❌ 惜しい! 全量のヘッジでも困窮は避けられますが、それは困窮を避ける最小の比率ではありません。
❌ 惜しい! それは摩擦がない場合の答えです。ここでは困窮に実際のコストがかかるので、ヘッジそのものはNPVゼロでも、困窮の確率を下げることで価値が生まれます。
❌ 惜しい! 困窮が起こるのは半分の確率だけなので、そのコストの期待値は 0.5×120.5 \times 12 百万ドルです。
❌ 惜しい! 1,500万ドルはヘッジした企業の価値で、ヘッジしない企業からの増加分ではありません。
❌ ヘッジ比率を確かめてください。 悪い状態での売上を支払い義務と等しいとおいて、hh について解きます。
❌ 価値の変化を確かめてください。 E[CF]\mathbb{E}[\text{CF}] から困窮のコストの期待値を引いたものを、ヘッジがある場合とない場合で比べます。
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ステップ1:ヘッジ比率。悪い状態での売上は 40(1−h)+60h=40+20h40(1-h) + 60h = 40 + 20h 百万ドルです。これが45を賄わなければなりません:

40+20h≥45⟹h≥520=25%40 + 20h \ge 45 \quad\Longrightarrow\quad h \ge \tfrac{5}{20} = 25\%

良い状態は問題になりません。h≤1h \le 1 なら、売上は 80−20h≥60>4580 - 20h \ge 60 > 45 です。

ステップ2:価値(単位:百万ドル)。ヘッジはNPVゼロなので、売上の期待値はどちらの場合も 12(40)+12(80)=60\tfrac{1}{2}(40) + \tfrac{1}{2}(80) = 60 で、支払い義務を差し引いた後のキャッシュフローの期待値は 60−45=1560 - 45 = 15 です。

Vヘッジなし=15−0.5×12=9V_{\text{ヘッジなし}} = 15 - 0.5 \times 12 = 9 Vヘッジあり=15−0×12=15V_{\text{ヘッジあり}} = 15 - 0 \times 12 = 15

ヘッジによって価値は 15−9=615 - 9 = 6、つまり600万ドル上がります。その全部が、避けられた困窮のコストから来ています。

問4 · ヘッジが報われるのはどこか

条件: 次の4つの企業が、それぞれヘッジの計画を検討しています。動画の論理に照らして、ヘッジが価値を生むといちばん強く言える企業を選んでください。

✅ 正解です! ここでは摩擦が現実にあります。ヘッジは、コストのかかる困窮に陥る可能性を下げ、外部からの資金調達に頼らずに、正のNPVを持つ投資に回す現金を確保します。
❌ 惜しい! それはまさにモジリアーニ=ミラーの設定で、ヘッジは企業価値に無関係です。企業にできることは、株主もすべてできます。
❌ 惜しい! 金価格のリスクは、この株主たちが自ら負うことを選んだものです。動画によれば、いま固定できる価格が異常に高いという相場観を経営陣が持っていない限り、自社の産出物をヘッジする理由はあまりありません。
❌ 惜しい! 公正な価値を上回る額を払えば、ヘッジのNPVは負になります。ですから、どんな利点を数えるより前に、価値を損なっています。
❌ 惜しい! 摩擦を探してください。困窮のコストと、資金を必要とするプロジェクトです。
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2つ目の見方によれば、摩擦があるときヘッジは価値を生みます。正のNPVを持つ投資に回す現金を確保し、外部からの資金調達の必要を減らし、コストのかかる財務的な困窮に陥る可能性を下げるのです。企業 (b) はこうした摩擦を2つ同時に抱えているので、いちばん強く言えるのは(b)です。

企業 (a) は1つ目の見方の摩擦のない世界にあり、ヘッジは企業価値に無関係です。企業 (c) は、株主がまさに買ったリスクをヘッジしようとしています。企業 (d) は払いすぎているので、そのヘッジのNPVは負です。

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