ファイナンス理論 · 第10回 · 動画6 · インタラクティブ教材

先渡契約のカウンターパーティ・リスク:価格が急変すると大豆の取引が崩れる理由

I重要な公式

公式名称説明
Vロング=Q (ST−F0,T),Vショート=Q (F0,T−ST)V_{\text{ロング}} = Q\,(S_T - F_{0,T}), \quad V_{\text{ショート}} = Q\,(F_{0,T} - S_T)受渡し時の各側の価値数量 QQ、先渡価格 F0,TF_{0,T}、受渡日の現物価格 STS_T が必要です。一方の得は、そのままもう一方の損になります。現物価格が $100 なら、メーカーの契約の価値は 1,000 × ($100 − $165) = −$65,000、農家の契約の価値は +$65,000 です
リスクにさらされる金額=Q ∣ST−F0,T∣\text{リスクにさらされる金額} = Q\,\lvert S_T - F_{0,T} \rvert取引相手へのエクスポージャーお金を受け取る側が負います。ST=F0,TS_T = F_{0,T} のときはゼロで、価格がどちらの方向に動いても、その動きが大きいほど大きくなります
F0,T−SF0,T\dfrac{F_{0,T} - S}{F_{0,T}}競合他社のコスト面の優位現物価格で買う競合他社が、価格を固定した買い手より1トンあたりどれだけ安く払うかを表します。現物価格が $100 なら 65/165≈0.39465/165 \approx 0.394 で、約39%安くなります
(1−p) Q (F0,T−ST)>L(1-p)\,Q\,(F_{0,T} - S_T) > L契約から手を引くほうが得になるとき(この教材の説明用の例)仮定した訴訟のモデルです。確率 pp で裁判所が買い手に売り手の損失の全額を支払わせ、どちらの場合でも、契約違反には弁護士費用や評判の低下で LL のコストがかかります

ポイント:先渡契約の価値は、契約時にはどちらの側にとってもゼロです。価格が大きく動いたあとは、一方の損失が大きくなり、契約を履行するよりデフォルトするほうが得になりうるのです。だからカウンターパーティ・リスクは、価格が落ち着いているときに最も小さく、価格が大きく動いた後に最も大きくなります。

IIリスクにさらされるのはどちらか、そしてどれだけか

カウンターパーティ・リスクを負うのはお金を受け取る側で、受け取る額は価格の動きとともに大きくなります。

III履行するか、手を引くか

損をしている買い手にとっては、損失が訴えられる場合の期待コストを上回れば、契約から手を引くほうが安くつきます。

💡 この訴訟のモデルは動画のものではなく、この教材の説明用の例です。動画が言っているのは、裁判は示談で決着するかもしれないし、しないかもしれない、ということだけです。このモデルに含まれていない市場シェアの喪失を考えれば、メーカーはさらに契約から手を引く方向に傾くでしょう。

IV確認クイズ

問1 · リスクを負うのはどちらか

条件:製粉会社(ロング)が穀物ディーラー(ショート)と、3か月後に小麦500トンを1トン $240 で買うことに合意しました。受渡日に、小麦は1トン $210 で取引されています。どちらの側がデフォルトしたくなるか、そしてそうなった場合に、もう一方の側がいくら失うおそれがあるかを求めてください。

✅ 正解です! 製粉会社は価値 $210 の小麦に $240 を払わなければならないので、500×30=15,000500 \times 30 = 15{,}000 ドルの損をしています。それがちょうど、ディーラーが受け取るべき額であり、製粉会社が契約から手を引いた場合にディーラーが失う額です。
❌ 立場が逆です。 現物価格が先渡価格より下がったので、買い手は市場より高く払っています。損をしていてデフォルトしたくなるのはロング(製粉会社)で、ショート(ディーラー)は利益を受け取る側です。
❌ それは小麦の市場価値です。 500×210=105,000500 \times 210 = 105{,}000 ドルは、製粉会社が受け取りを拒んだ場合に、ディーラーの手元に残る小麦の価値です。ディーラーはそれを現物価格で売れるので、失うのは差額の 500×(240−210)=15,000500 \times (240 - 210) = 15{,}000 ドルだけです。
❌ 価値がゼロなのは契約時だけです。 現物価格が $240 から離れれば、一方の契約は正の価値を、もう一方は負の価値を持ち、正の価値を持つ側がリスクにさらされます。
❌ 惜しい! 現物価格と先渡価格を比べて損をしているのがどちらかを見極め、その差に数量を掛けてください。
解答を見る

Q=500Q = 500、F0,T=240F_{0,T} = 240、ST=210S_T = 210(1トンあたりのドル)として、受渡し時の各側の価値は次のとおりです。

Vロング=Q (ST−F0,T)=500×(210−240)=−15,000V_{\text{ロング}} = Q\,(S_T - F_{0,T}) = 500 \times (210 - 240) = -15{,}000 Vショート=Q (F0,T−ST)=500×(240−210)=15,000V_{\text{ショート}} = Q\,(F_{0,T} - S_T) = 500 \times (240 - 210) = 15{,}000

製粉会社(ロング)は、現物価格で買った場合より $15,000 損をしているので、契約から手を引く理由があります。ディーラー(ショート)はその $15,000 を受け取る立場にあり、それが、製粉会社がデフォルトした場合にリスクにさらされる金額です。

問2 · 競合他社はどれだけ安く買えるか

条件:ある製パン会社は、小麦の価格を1トン $240 で固定しています。受渡しを受ける頃には現物価格は1トン $180 になっていて、競合他社は現物価格で買います。競合他社がこの製パン会社より1トンあたり何%安く払っているかを求めてください。

✅ 正解です! 競合他社は、製パン会社が払う $240 ごとに $60 を節約しています。60/240=0.2560/240 = 0.25 なので、25%安くなります。
❌ 基準が違います。 60/180≈0.33360/180 \approx 0.333 は、製パン会社が競合他社より約33.3%多く払っていることを表します。「競合他社がどれだけ安く払うか」は、製パン会社の価格を基準に測ります。60/240=0.2560/240 = 0.25 です。
❌ それはドルでの差で、パーセントではありません。 差は1トンあたり $60 です。パーセントにするには、製パン会社が払う $240 で割ります。
❌ それは、製パン会社の価格に対する競合他社の価格の割合です。 180/240=0.75180/240 = 0.75 で、競合他社が払うのは製パン会社の価格の75%です。これは 1−0.75=0.251 - 0.75 = 0.25、つまり25%安いということです。
❌ 惜しい! 価格の差を、製パン会社が払う価格で割ってください。
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競合他社の優位は、製パン会社が固定した価格 F0,T=240F_{0,T} = 240 を基準に、現物価格 S=180S = 180 で測ります。

F0,T−SF0,T=240−180240=60240=0.25\frac{F_{0,T} - S}{F_{0,T}} = \frac{240 - 180}{240} = \frac{60}{240} = 0.25

競合他社は1トンあたり25%安く払っていて、それに合わせてパンの値段を下げることができます。これが、動画で豆腐メーカーが直面した、市場シェアの圧迫です。

問3 · 履行するか、手を引くか

条件:航空会社(ロング)は、供給業者からジェット燃料1,000,000ガロンを1ガロン $3.20 で買う先渡契約を結んでいます。受渡し時の現物価格は $2.60 です。次を仮定します(III節の説明用のモデル)。航空会社が契約から手を引いて現物価格で買うと、確率70%で裁判所が供給業者の損失の全額を航空会社に支払わせます。また、どちらの場合でも、契約違反には弁護士費用や評判の低下で $150,000 のコストがかかります。期待コストで見て安いのはどちらの選択か、そしてどれだけ安いかを求めてください。

✅ 正解です! 履行すると $3,200,000 かかります。手を引いた場合の期待コストは 2,600,000+420,000+150,000=3,170,0002{,}600{,}000 + 420{,}000 + 150{,}000 = 3{,}170{,}000 ドルで、$30,000 少なくなります。
❌ 訴訟を無視しています。 $600,000 は、この契約での航空会社の損失の全額です。手を引くのは契約違反で、0.7×600,000=420,0000.7 \times 600{,}000 = 420{,}000 ドルの損害賠償の期待値と、$150,000 のコストを伴います。
❌ 損害賠償が抜けています。 600,000−150,000=450,000600{,}000 - 150{,}000 = 450{,}000 は契約違反のコストを数えていますが、確率70%で供給業者の損失 $600,000 を支払うこと、つまり期待値 $420,000 を数えていません。
❌ 損害賠償は確実ではありません。 $600,000 の全額を確実に払い、さらに $150,000 がかかるなら、たしかに履行するほうが安くなります。しかし裁判所が損害賠償を命じるのは確率70%なので、損害賠償の期待値は $420,000 です。
❌ 惜しい! 履行するコストを、現物価格でのコスト + 損害賠償の期待値 + 契約違反のコストと比べてください。
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履行する場合。 航空会社は、全量について先渡価格を支払います。

1,000,000×3.20=3,200,0001{,}000{,}000 \times 3.20 = 3{,}200{,}000

手を引く場合。 現物価格で買い、供給業者の損失は 1,000,000×(3.20−2.60)=600,0001{,}000{,}000 \times (3.20 - 2.60) = 600{,}000 ドルです。

1,000,000×2.60⏟現物価格での燃料+0.7×600,000⏟損害賠償の期待値+150,000⏟契約違反のコスト=2,600,000+420,000+150,000=3,170,000\underbrace{1{,}000{,}000 \times 2.60}_{\text{現物価格での燃料}} + \underbrace{0.7 \times 600{,}000}_{\text{損害賠償の期待値}} + \underbrace{150{,}000}_{\text{契約違反のコスト}} = 2{,}600{,}000 + 420{,}000 + 150{,}000 = 3{,}170{,}000

期待コストで見ると、手を引くほうが 3,200,000−3,170,000=30,0003{,}200{,}000 - 3{,}170{,}000 = 30{,}000 ドル安くなります。同じことですが、(1−p) Q (F−S)=0.3×600,000=180,000>150,000=L(1-p)\,Q\,(F - S) = 0.3 \times 600{,}000 = 180{,}000 > 150{,}000 = L で、差はやはり $30,000 です。

問4 · デフォルトが得になるのはいつか

条件:問3と同じ航空会社の契約と、同じ仮定の訴訟モデルです。1,000,000ガロンを $3.20 で買う契約で、確率70%で供給業者の損失の全額を支払い、契約違反のコストは $150,000 です。手を引くほうが航空会社にとって安い選択になる、受渡し時の現物価格の範囲を求めてください。

✅ 正解です! 0.3×1,000,000×(3.20−S)0.3 \times 1{,}000{,}000 \times (3.20 - S) が150,000を超えると、つまり価格が50セントを超えて下がると、手を引くほうが得になります。小さな値動きではデフォルトの誘惑は生まれませんが、大きな値動きでは生まれます。
❌ 確率が違います。 70%を使うと 150,000/700,000≈0.214150{,}000 / 700{,}000 \approx 0.214 になります。手を引くことで節約できるのは、航空会社が損失を免れる部分で、それが起こる確率は 1−0.7=0.31 - 0.7 = 0.3 です。
❌ 損害賠償の期待値が抜けています。 150,000/1,000,000=0.15150{,}000 / 1{,}000{,}000 = 0.15 は、航空会社が損失の全額を免れるものとして扱っています。免れるのは確率30%だけなので、価格は 0.15/0.3=0.500.15 / 0.3 = 0.50 下がる必要があります。
❌ 損をしているだけでは足りません。 $3.20 を下回れば航空会社は損をしていますが、手を引くことにも期待コストがあるので、デフォルトが得になるのは、損失がそれを上回るほど大きくなったときだけです。
❌ 惜しい! 航空会社が免れる損失の部分 (1−p) Q (F−S)(1-p)\,Q\,(F - S) を契約違反のコストと等しいとおいて、SS について解いてください。
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手を引くコストは QS+pQ(F−S)+LQS + pQ(F - S) + L、履行するコストは QFQF です。手を引くほうが安くなるのは、次が成り立つときです。

QS+pQ(F−S)+L<QF  ⟺  (1−p) Q (F−S)>LQS + pQ(F - S) + L < QF \iff (1 - p)\,Q\,(F - S) > L

p=0.7p = 0.7、Q=1,000,000Q = 1{,}000{,}000、F=3.20F = 3.20、L=150,000L = 150{,}000 とすると、次のようになります。

0.3×1,000,000×(3.20−S)>150,000  ⟺  3.20−S>0.50  ⟺  S<2.700.3 \times 1{,}000{,}000 \times (3.20 - S) > 150{,}000 \iff 3.20 - S > 0.50 \iff S < 2.70

現物価格が1ガロン $2.70 を下回れば、手を引くほうが安くなります。ちょうど $2.70 なら、2つの選択のコストは同じです。これは、現物価格 $2.60 で手を引くほうが $30,000 安くなった問3と整合しています。供給業者は、小さな値下がりなら安全ですが、大きな値下がりのあとではリスクにさらされます。

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