ファイナンス理論 · 第12回 · 動画7 · インタラクティブ教材

賭博師の原則から熱伝導方程式へ:オプション価格理論のはじまり

I重要な公式

公式名称説明
Et[Wt+1]=WtE_t[W_{t+1}] = W_tマルチンゲール(公正なゲーム)時点 tt で分かっていることをすべて踏まえた次の期の富の期待値が、今日の富に等しくなります。勝ち分の期待値はゼロです
Et[Wt+1]=p(Wt+1)+(1−p)(Wt−1)=Wt+(2p−1)E_t[W_{t+1}] = p(W_t + 1) + (1-p)(W_t - 1) = W_t + (2p - 1)コインに$1を1回賭ける公正なのは p=12p = \tfrac{1}{2} のときだけです。p=0.6p = 0.6 では期待利益は 0.20.2、つまり1ドル賭けるごとに20セントです
1c∂P∂t−∂2P∂x2=0\dfrac{1}{c}\dfrac{\partial \mathcal{P}}{\partial t} - \dfrac{\partial^2 \mathcal{P}}{\partial x^2} = 0熱伝導方程式(バシュリエ、1900年)xx = 出発点からの価格の動き、tt = 時間、P\mathcal{P} = その動きの確率密度(プット価格ではありません)
P(x,t)=14πct e−x2/(4ct),Var⁡=2ct\mathcal{P}(x,t) = \dfrac{1}{\sqrt{4\pi c t}}\, e^{-x^2/(4ct)}, \quad \operatorname{Var} = 2ctガウスの法則(正規分布)一点から出発すると、とりうる動きの広がりは t\sqrt{t} に比例して大きくなります

ポイント:カルダーノの言う等しい条件は、マルチンゲールになりました。公正な賭けをたくさん足し合わせるとランダムウォークになり、連続時間ではブラウン運動になります。バシュリエのオプション価値は、広がっていく釣鐘型の曲線の上でペイオフを平均したものなので、彼のモデルでオプションの価格を求めることは、熱伝導方程式を解くことに帰着します。

II公正なゲームか、細工したコインか

コインへの$1の賭けがマルチンゲールになるのは、次の期の富の期待値がちょうど今日の富に一致するときだけです。

IIIランダムウォークからブラウン運動へ

公正な一歩を小さく、回数を多くしていくと、ぎざぎざのウォークはブラウン運動になります。それでも時間 tt 後の広がりは t\sqrt{t} のままです。

IV確率の放射

ランダムウォークの結果は、熱い一点から熱が広がるのと同じように積み重なり、分散 2ct2ct の釣鐘型の曲線になります。

💡 バシュリエの公正なゲームのモデルでは、オプションの価値はこの釣鐘型の曲線の上でペイオフを平均したものです。その平均ペイオフが本当にオプションの価格なのかという問いに取り組んだのが、ブラック、ショールズ、マートンです。

V確認クイズ

問1 · 細工したコイン

条件: 今日のあなたの富は$20です。勝つ確率が p=0.65p = 0.65 のコインに$1を賭けます。次の期の富の期待値と、この賭けに対するカルダーノの判定を求めてください。

次の期の富の期待値

カルダーノの判定

✅ 正解です! 期待利益は 2p−1=0.302p - 1 = 0.30、つまり1ドル賭けるごとに30セントで、あなたに有利に傾いています。
❌ それは公正なゲームの答えです。 富の期待値が変わらないのは p=12p = \tfrac{1}{2} のときだけです。このコインはあなたに有利です。
❌ 惜しい! 利益は pp そのものではありません。確率 1−p=0.351 - p = 0.35 で1ドルを失うこともあるので、期待利益は 0.65−0.350.65 - 0.35 です。
❌ 惜しいですが… p−12=0.15p - \tfrac{1}{2} = 0.15 はコインの傾きの大きさにすぎません。傾きは勝つ確率を上げると同時に負ける確率を下げるので、期待利益は 2p−12p - 1 です。
❌ 富の期待値を確かめましょう。 それぞれの結果を確率で重みづけします:0.65×21+0.35×190.65 \times 21 + 0.35 \times 19。
❌ 判定を確かめましょう。 平等から外れて相手に有利なら、あなたは愚か者です。自分に有利なら不正です。p=0.65p = 0.65 はどちらに傾いているでしょうか?
❌ 向きが逆です。 愚か者とは、相手に有利に傾いた勝負を受ける人のことです。p=0.65p = 0.65 では、コインはあなたに有利です。
❌ 公正なゲームではありません。 条件が等しくなるには p=12p = \tfrac{1}{2} でなければなりません。ここでは富の期待値が今日の富を上回ります。
解答を見る

Wt=20W_t = 20(単位はドル)のとき、2つの結果は確率 0.650.65 で21、確率 0.350.35 で19です:

Et[Wt+1]=0.65(21)+0.35(19)=13.65+6.65=20.30E_t[W_{t+1}] = 0.65(21) + 0.35(19) = 13.65 + 6.65 = 20.30

同じことを Et[Wt+1]=Wt+(2p−1)=20+0.30E_t[W_{t+1}] = W_t + (2p - 1) = 20 + 0.30 と書くこともできます。富の期待値は$20.30なので、これはマルチンゲールではありません。この賭けには1ドルあたり30セントの期待利益があります。傾きはあなたに有利で、カルダーノの原則ではそれは不正です。

問2 · 五分五分でなくても公正

条件: さいころを1つ振ります。6の目なら$6、5の目なら$2を得て、1から4の目なら$2を失います。今日のあなたの富は$10です。あなたの富はマルチンゲールでしょうか?

✅ 正解です! 大きい2つの勝ちが、より頻繁に起こる負けをちょうど打ち消すので、勝ち分の期待値はゼロです。
❌ 惜しい! どれだけ頻繁に負けるかは話の半分にすぎません。マルチンゲールの条件が問うのは期待値で、勝ちは負けより大きいのです。
❌ 確率を確かめましょう。 (6+2−2)/3=2(6 + 2 - 2)/3 = 2 は3つの結果を同じ確率として扱っていますが、負けは6つの目のうち4つにあたります。
❌ 負ける目を確かめましょう。 16(6)+16(2)−16(2)=1\tfrac{1}{6}(6) + \tfrac{1}{6}(2) - \tfrac{1}{6}(2) = 1 は負けを1つの目の分しか数えていません。負けは4つの目で起こり、その確率は 46\tfrac{4}{6} です。
解答を見る

Wt=10W_t = 10(単位はドル)のとき、次の期の富は確率 16\tfrac{1}{6} で16、確率 16\tfrac{1}{6} で12、確率 46\tfrac{4}{6} で8です:

Et[Wt+1]=16(16)+16(12)+46(8)=16+12+326=606=10=WtE_t[W_{t+1}] = \tfrac{1}{6}(16) + \tfrac{1}{6}(12) + \tfrac{4}{6}(8) = \tfrac{16 + 12 + 32}{6} = \tfrac{60}{6} = 10 = W_t

1回あたりの期待利益は 16(6)+16(2)−46(2)=0\tfrac{1}{6}(6) + \tfrac{1}{6}(2) - \tfrac{4}{6}(2) = 0 です。マルチンゲールの条件が求めるのは、次の期の富の期待値が今日の富に等しいことだけなので、この偏ったゲームもやはり公正なゲームです。

問3 · バシュリエの広がる釣鐘型の曲線

条件: バシュリエのモデルでは、tt 日後の価格の動き xx の密度は P(x,t)=14πct e−x2/(4ct)\mathcal{P}(x,t) = \frac{1}{\sqrt{4\pi c t}}\, e^{-x^2/(4ct)} で、c=0.09c = 0.09 とします(xx の単位はドル、tt の単位は日。説明用の数値です)。50日後の動きの標準偏差と、それが$6に達するまでの日数を求めてください。

50日後の標準偏差

標準偏差が$6になるまでの日数

✅ 正解です! 広がりは t\sqrt{t} に比例して大きくなるので、広がりを2倍にするには4倍の時間がかかります。
❌ それは分散です。 2ct=92ct = 9 の単位はドルの2乗です。標準偏差はその平方根です。
❌ 2倍が抜けています。 この密度の分散は ctct ではなく 2ct2ct です。指数にある 4ct4ct は分散の2倍です。
❌ 惜しい! ct=4.5ct = 4.5 は分散(2ct2ct)でも標準偏差(2ct\sqrt{2ct})でもありません。
❌ 広がりは時間に比例しません。 時間を2倍にすると分散は2倍になるので、標準偏差は 2\sqrt{2} 倍にしかなりません。標準偏差を2倍にするには4倍の時間が必要です。
❌ どの量が時間に比例して増えるかを確かめましょう。 2ct=62ct = 6 とおくと、標準偏差を分散として扱ったことになります。分散が 62=366^2 = 36 に達する必要があります。
❌ 標準偏差を確かめましょう。 まず分散 2ct2ct を計算し、それから平方根をとります。
❌ 時間を確かめましょう。 標準偏差が6なら分散は36です。2ct=362ct = 36 を解きます。
解答を見る

ステップ1:50日後の分散

Var⁡=2ct=2(0.09)(50)=9,9=3\operatorname{Var} = 2ct = 2(0.09)(50) = 9, \qquad \sqrt{9} = 3

価格の動きの標準偏差は$3です。

ステップ2:標準偏差が6になるまでの時間 分散が 62=366^2 = 36 でなければなりません:

2(0.09) t=36  ⇒  t=360.18=2002(0.09)\,t = 36 \;\Rightarrow\; t = \frac{36}{0.18} = 200

200日かかります。標準偏差 2ct\sqrt{2ct} は時間の平方根に比例して大きくなるので、広がりを2倍にするには50日の4倍の時間が必要です。

問4 · 1つの方程式、2つの世界

条件: 長い棒の真ん中の一点を熱します。9分後、棒に沿った温度の分布は、標準偏差3 cmの釣鐘型の曲線です。同じ熱伝導方程式が、バシュリエの価格の動きも支配しています。36分後の標準偏差と、バシュリエの読み替えで温度の役割を果たすものを求めてください。

36分後の広がり

位置 x、時間 t での温度に対応する、バシュリエのモデルの量

✅ 正解です! 棒でも価格でも、4倍の時間で広がりは2倍になります。温度の分布は、価格の動きの密度と読み替えられます。
❌ 広がりは tt ではなく t\sqrt{t} に比例します。 時間を4倍にすると、分散は4倍、標準偏差は2倍になります。
❌ 惜しい! 3×16=483 \times 16 = 48 は時間の比を2乗しています。標準偏差は比の平方根、つまり 4=2\sqrt{4} = 2 倍になります。
❌ 広がりは一定ではありません。 分散 2ct2ct は時間に比例して大きくなるので、熱(あるいは確率)が広がるにつれて、釣鐘型の曲線は広がり続けます。
❌ 惜しい! 温度は、各時点で xx に沿って分布する量です。それに対応するのは、とりうる価格の動き xx の上に確率がどう分布しているかであって、1つの期待リターンではありません。
❌ 惜しい! P\mathcal{P} はオプション価格ではなく確率密度です。バシュリエのモデルでは、オプションの価値はその密度の上でペイオフを平均したものです。
❌ 広がりを確かめましょう。 分散 2ct2ct は時間に比例して大きくなります。標準偏差はその平方根です。
❌ 類比を確かめましょう。 熱伝導方程式 1c∂P∂t−∂2P∂x2=0\frac{1}{c}\frac{\partial \mathcal{P}}{\partial t} - \frac{\partial^2 \mathcal{P}}{\partial x^2} = 0 で温度が表しているのは、xx に沿って広がっていく量です。
解答を見る

広がり 一点から出発した解の分散は 2ct2ct なので、標準偏差は 2ct\sqrt{2ct} で、t\sqrt{t} に比例します:

σ36=σ9369=3×2=6 cm\sigma_{36} = \sigma_9 \sqrt{\tfrac{36}{9}} = 3 \times 2 = 6 \text{ cm}

類比 物理学では、P(x,t)\mathcal{P}(x,t) は棒の上の位置 xx での温度です。バシュリエの論文では、同じ方程式が P(x,t)\mathcal{P}(x,t)、つまり時間 tt 後に価格が xx だけ動いている確率密度を表します。熱い一点から広がる熱は、今日の価格から「放射」される確率にあたります。ポアンカレが、フーリエの推論がほとんどそのまま当てはまると見たのはこのためです。

正解数:0 / 4