ファイナンス理論 · 第13回 · 動画3 · インタラクティブ教材

二項モデルの価格はリスク中立確率による期待値:裁定が価格を決める

I重要な公式

公式名称説明
p∗≡r−du−d,1−p∗=u−ru−dp^* \equiv \dfrac{r-d}{u-d}, \quad 1-p^* = \dfrac{u-r}{u-d}リスク中立確率分子の和が u−du-d になるので、2つのウェイトの和は1です。rr、uu、dd だけから作られます(rr は1期間あたりのグロスの無リスク収益率)
C0=1r[p∗ Cu+(1−p∗) Cd]C_0 = \dfrac{1}{r}\left[p^*\,C_u + (1-p^*)\,C_d\right]二項モデルの価格p∗p^* のもとでの期待ペイオフを、無リスク金利で1期間分割り引いたもの
d<r<ud < r < u均衡の条件2つのウェイトはどちらも正です。r≤dr \le d なら誰も米国短期国債を持たず、r≥ur \ge u なら誰も株式を持ちません
C0=V0=S0 Δ∗+B∗C_0 = V_0 = S_0\,\Delta^* + B^*無裁定C0>V0C_0 > V_0 なら、コールを売ってポートフォリオを買う。C0<V0C_0 < V_0 なら、コールを買ってポートフォリオを売る。どちらの場合も、今日、無リスクの利益が得られます

ポイント:p∗p^* は本当の確率 pp ではありません。本当の pp は公式に一度も入ってきません。それはすでに今日の株価 S0S_0 の中に収まっているのです。

II可視化1 — ウェイトが確率になるとき

2つのウェイトの和は常に1です。どちらも正になるのは、ちょうど無リスク金利が dd と uu の間にあるときです。

III可視化2 — あなたの pp と p∗p^*

あなたの確率 pp は株価の予想を動かしますが、コールの価格は少しも動かしません。

IV可視化3 — 裁定が C0=V0C_0 = V_0 を守らせる

市場価格が V0V_0 以外なら、割高な側を売って割安な側を買い、その差を無リスクで手にできます。

構成要素ポジション今日明日・上昇(S1=30S_1 = 30)明日・下落(S1=10S_1 = 10)
コール
株式、Δ∗=0.5\Delta^* = 0.5
債券、B∗≈−4.85B^* \approx -4.85
正味

💡 このお金を生み出す装置が動くのは、モデルの前提が成り立っているあいだだけです。つまり、明日の株価がちょうど2通りであること、そして無リスク金利 rr で借りたり貸したりできることです。

V確認クイズ

問1 · リスク中立確率

条件(説明用の数値):ある株式の株価は $75 です。1期間で、株価は上昇なら u=1.35u = 1.35 倍、下落なら d=0.85d = 0.85 倍になり、無リスク金利は r=1.03r = 1.03(グロス、1期間あたり)です。アナリストは、上昇の確率を 0.650.65 と見ています。リスク中立確率 p∗p^* を求めてください。

✅ 正解です! p∗=(1.03−0.85)/(1.35−0.85)=0.18/0.5=0.36p^* = (1.03 - 0.85)/(1.35 - 0.85) = 0.18/0.5 = 0.36 で、アナリストの 0.650.65 はまったく関係ありません。
❌ 惜しいですが… 0.64=(u−r)/(u−d)0.64 = (u - r)/(u - d) は下落状態のウェイト (1−p∗)(1 - p^*) です。上昇状態のウェイトは、分子が r−dr - d です。
❌ 金利を確かめてください。 それは r=0.03r = 0.03 を使っています。この公式の rr はグロスの収益率 1.031.03 です。代わりにネットの金利を入れると、意味のない負のウェイトになります。
❌ 惜しい! 0.650.65 は本当の(主観的な)確率 pp です。リスク中立確率は、rr、uu、dd だけから作られます。
❌ 惜しい! グロスの金利を使って p∗=(r−d)/(u−d)p^* = (r - d)/(u - d) を計算してください。
解答を見る

r=1.03r = 1.03、u=1.35u = 1.35、d=0.85d = 0.85 より:

p∗=r−du−d=1.03−0.851.35−0.85=0.180.5=0.36,1−p∗=u−ru−d=0.320.5=0.64p^* = \frac{r - d}{u - d} = \frac{1.03 - 0.85}{1.35 - 0.85} = \frac{0.18}{0.5} = 0.36, \qquad 1 - p^* = \frac{u - r}{u - d} = \frac{0.32}{0.5} = 0.64

0.85<1.03<1.350.85 < 1.03 < 1.35 なので、どちらのウェイトも0と1の間にあります。株価の $75 とアナリストの確率 0.650.65 は必要ありません:p∗=0.36p^* = 0.36。

問2 · 株式と短期国債は共存できるか

条件(説明用の数値):一期間の経済の候補が4つあり、それぞれに株価のグロスの動き uu、dd と、グロスの無リスク金利 rr が与えられています。投資家が株式と米国短期国債の両方を持つことと整合するのはどれですか?

✅ 正解です! 0.90<1.04<1.150.90 < 1.04 < 1.15 なので、p∗=0.14/0.25=0.56p^* = 0.14/0.25 = 0.56 と 1−p∗=0.441 - p^* = 0.44 はどちらも正です。
❌ 惜しい! ここでは r=1.03<d=1.05r = 1.03 < d = 1.05 です。株式は最悪の結果でさえ短期国債に勝つので、誰も短期国債を持ちません。ウェイト p∗=(1.03−1.05)/0.20=−0.1p^* = (1.03 - 1.05)/0.20 = -0.1 は負です。
❌ 惜しい! ここでは r=1.10>u=1.08r = 1.10 > u = 1.08 です。株式は最良の結果でさえ短期国債に届かないので、誰も株式を持ちません。ウェイト 1−p∗=(1.08−1.10)/0.16=−0.1251 - p^* = (1.08 - 1.10)/0.16 = -0.125 は負です。
❌ 惜しいですが… r=dr = d なら、株式が短期国債より悪くなることはなく、良くなることはあるので、誰も短期国債を持ちません。条件は厳密な不等式で、ここでは p∗=0p^* = 0 です。
❌ 惜しい! d<r<ud < r < u が厳密に成り立つかを確かめてください。
解答を見る

株式と短期国債の両方が保有されるのは、d<r<ud < r < u が厳密に成り立つときだけです。それぞれの経済を確かめます:

  • (a) 0.90<1.04<1.150.90 < 1.04 < 1.15 ✓:p∗=1.04−0.901.15−0.90=0.56p^* = \frac{1.04 - 0.90}{1.15 - 0.90} = 0.56
  • (b) r=1.03<d=1.05r = 1.03 < d = 1.05:短期国債は優越されています。p∗=−0.1p^* = -0.1
  • (c) r=1.10>u=1.08r = 1.10 > u = 1.08:株式は優越されています。1−p∗=−0.1251 - p^* = -0.125
  • (d) r=d=1.00r = d = 1.00:株式が短期国債を弱い意味で優越します。p∗=0p^* = 0

成り立つのは経済 (a) だけです。

問3 · p∗p^* でコールの価格を求める

条件(説明用の数値):ある株式の株価は $150 で、1期間で上昇なら u=1.24u = 1.24 倍、下落なら d=0.92d = 0.92 倍になります。無リスク金利は r=1.04r = 1.04(グロス、1期間あたり)です。投資家は、上昇の確率を 0.60.6 と考えています。権利行使価格 $156 の一期間のヨーロピアン・コールの価格を求めてください。

✅ 正解です! p∗=0.375p^* = 0.375 のもとでの期待ペイオフは 0.375⋅30=11.250.375 \cdot 30 = 11.25 です。これを 1.041.04 で1期間分割り引くと、約 $10.82 になります。
❌ 惜しいですが… 11.2511.25 は p∗p^* のもとでの期待ペイオフで、受け取るのは明日です。今日の価値にするには r=1.04r = 1.04 で割ってください。
❌ 惜しい! それはペイオフに、投資家が考える確率 0.60.6 でウェイトをかけています。価格に使うのは p∗=(r−d)/(u−d)p^* = (r - d)/(u - d) で、本当の pp は決して使いません。
❌ ウェイトを確かめてください。 それは上昇状態に 1−p∗=0.6251 - p^* = 0.625 をかけています。上昇状態のウェイトは p∗=(r−d)/(u−d)=0.375p^* = (r - d)/(u - d) = 0.375 です。
❌ 惜しい! CuC_u、CdC_d、p∗p^* を求めてから、C0=[p∗Cu+(1−p∗)Cd]/rC_0 = [p^* C_u + (1 - p^*) C_d]/r を計算してください。
解答を見る

ペイオフ:uS0=1.24⋅150=186uS_0 = 1.24 \cdot 150 = 186、dS0=0.92⋅150=138dS_0 = 0.92 \cdot 150 = 138 なので

Cu=Max[186−156, 0]=30,Cd=Max[138−156, 0]=0C_u = \text{Max}[186 - 156,\ 0] = 30, \qquad C_d = \text{Max}[138 - 156,\ 0] = 0

リスク中立確率(0.92<1.04<1.240.92 < 1.04 < 1.24 なので有効):

p∗=1.04−0.921.24−0.92=0.120.32=0.375,1−p∗=0.625p^* = \frac{1.04 - 0.92}{1.24 - 0.92} = \frac{0.12}{0.32} = 0.375, \qquad 1 - p^* = 0.625

価格:

C0=11.04[0.375⋅30+0.625⋅0]=11.251.04≈10.82C_0 = \frac{1}{1.04}\left[0.375 \cdot 30 + 0.625 \cdot 0\right] = \frac{11.25}{1.04} \approx 10.82

コールの価値は約 $10.82 です。投資家が考える確率 0.60.6 は一度も入ってきません。

問4 · 価格が誤っているコールで裁定する

条件: 問3の株式とコールです(S0=150S_0 = 150、u=1.24u = 1.24、d=0.92d = 0.92、グロスの r=1.04r = 1.04、権利行使価格 $156、モデル価格は約 $10.82)。このコールは市場で $10.20 で取引されています。裁定取引と、それによって今日確定する、コール1単位あたりの無リスクの利益を求めてください。

どの取引ですか?

コール1単位あたりの、今日の無リスクの利益はいくらですか?

✅ 正解です! コールは割安です。$10.20 で買い、その複製を約 $10.82 で売れば、今日約 $0.62 が手元に残り、明日支払うものは何もありません。
❌ 方向を確かめてください。 その取引で利益が出るのは、コールが割高なときです。$10.20 のコールは V0≈10.82V_0 \approx 10.82 を下回っているので、買う側です。
❌ 債券の符号を確かめてください。 複製は約 $82.93 を借りる(B∗≈−82.93B^* \approx -82.93)ので、複製を売るとは、その額を貸し付けることです。ここでも借りてしまうと、明日は株を買い戻すうえに借入の $86.25 も返済しなければならず、コールの支払いをはるかに上回ります。
❌ 惜しい! 1株は複製ではありません。明日の価値は186か138で、コールの30か0とは違います。複製は Δ∗=0.625\Delta^* = 0.625 株と借入でできています。
❌ 取引を確かめてください。 割安な側を買い、割高な側を売ります。使うのは複製ポートフォリオ Δ∗\Delta^*、B∗B^* です。
❌ 惜しいですが… 11.25−10.2011.25 - 10.20 は、割り引く前の期待ペイオフと比べています。複製の今日の価値は V0=11.25/1.04≈10.82V_0 = 11.25/1.04 \approx 10.82 です。
❌ 惜しい! 17.3117.31 は、投資家が考える確率 0.60.6 でコールを評価した値で、複製が実現できる価格ではありません。V0≈10.82V_0 \approx 10.82 と比べてください。
❌ 惜しいですが… 0.62×1.04≈0.640.62 \times 1.04 \approx 0.64 は、その利益を1期間先に持ち越した値です。利益は今日受け取り、明日はそれ以上何も入ってきません。
❌ 利益を確かめてください。 利益は、複製の今日の価値から市場価格を引いた V0−10.20V_0 - 10.20 です。
解答を見る

複製ポートフォリオ(Cu=30C_u = 30、Cd=0C_d = 0):

Δ∗=Cu−Cd(u−d)S0=300.32⋅150=0.625,B∗=uCd−dCu(u−d)r=0−0.92⋅300.32⋅1.04≈−82.93\Delta^* = \frac{C_u - C_d}{(u - d)S_0} = \frac{30}{0.32 \cdot 150} = 0.625, \qquad B^* = \frac{uC_d - dC_u}{(u - d)r} = \frac{0 - 0.92 \cdot 30}{0.32 \cdot 1.04} \approx -82.93 V0=150⋅0.625−82.93≈93.75−82.93≈10.82V_0 = 150 \cdot 0.625 - 82.93 \approx 93.75 - 82.93 \approx 10.82

取引:市場価格10.20は V0V_0 を下回るので、コールを買って複製を売ります。つまり 0.6250.625 株を空売りし(93.75を受け取る)、約 $82.93 を貸し付けます。今日の現金:93.75−82.93−10.20≈0.6293.75 - 82.93 - 10.20 \approx 0.62。

明日:貸付の返済額は ∣B∗∣ r=27.60.3328⋅1.04=86.25|B^*|\,r = \frac{27.6}{0.3328} \cdot 1.04 = 86.25 です。

  • 上昇(S1=186S_1 = 186):0.6250.625 株の買い戻しに 116.25116.25 かかります。貸付の返済が 86.2586.25、コールの支払いが30なので、30+86.25−116.25=030 + 86.25 - 116.25 = 0。
  • 下落(S1=138S_1 = 138):0.6250.625 株の買い戻しに 86.2586.25 かかります。貸付の返済が 86.2586.25、コールの支払いが0なので、正味は0です。

どちらの状態でもポジションが打ち消し合うので、コール1単位あたりの $0.62 は無リスクの利益です。

正解数:0 / 4