ファイナンス理論 · 第13回 · 動画4 · インタラクティブ教材

コイン投げを繰り返すと:二項ツリーからブラック=ショールズへ

I重要な公式

公式名称説明
C0=1r2[p∗2Cuu+2p∗(1−p∗) Cud+(1−p∗)2Cdd]C_0 = \dfrac{1}{r^2}\Big[p^{*2} C_{uu} + 2p^*(1-p^*)\,C_{ud} + (1-p^*)^2 C_{dd}\Big]二期間のコール一期間の公式を各節点で使ったものです。係数の2は、udS0udS_0 で合流する2本の経路、つまり上がってから下がる経路と下がってから上がる経路を数えています。本当の確率 pp はどこにも現れません
C0=1rn∑k=0n(nk)p∗k(1−p∗)n−k Max[0, ukdn−kS0−K]C_0 = \dfrac{1}{r^n}\displaystyle\sum_{k=0}^{n}\binom{n}{k}p^{*k}(1-p^*)^{n-k}\,\mathrm{Max}\big[0,\ u^k d^{n-k} S_0 - K\big]nn 期間の二項公式上昇が kk 回の経路は (nk)\binom{n}{k} 本あり、どれもリスク中立確率は p∗k(1−p∗)n−kp^{*k}(1-p^*)^{n-k}、ペイオフは Max[0,ukdn−kS0−K]\mathrm{Max}[0, u^k d^{n-k}S_0 - K] です。その和を nn 期間分割り引きます。p∗=r−du−dp^* = \frac{r-d}{u-d} で、rr は一期間あたりの無リスクのグロスの収益率です
12σ2S2∂2C∂S2+rS∂C∂S+∂C∂t=rC\tfrac{1}{2}\sigma^2 S^2 \dfrac{\partial^2 C}{\partial S^2} + rS\dfrac{\partial C}{\partial S} + \dfrac{\partial C}{\partial t} = rCブラック=ショールズ=マートンの偏微分方程式(n→∞n \to \infty の極限)境界条件は C(S,T)=Max[S−K,0]C(S,T) = \mathrm{Max}[S-K, 0] と C(0,t)=0C(0,t) = 0 です。ここでの rr は連続複利の利率で、ボラティリティ σ\sigma は uu と dd が姿を変えて残ったものです

ポイント:二項公式のどこにも一期間の長さは指定されていないので、満期までの時間は必要なだけ細かく刻めます。極限では、複製の条件 C0=V0C_0 = V_0 がブラック=ショールズの偏微分方程式になり、pp も株式の期待リターンも一度も入ってきません。そのすべては、独立同一分布(IID)のコイン投げという仮定の上に成り立っています。

II二期間ツリーを後ろ向きに解く

満期から後ろ向きに、節点ごとに一期間の公式を使っていくと、ウェイト p∗2p^{*2}、2p∗(1−p∗)2p^*(1-p^*)、(1−p∗)2(1-p^*)^2 を使ったときと同じ C0C_0 が得られます。

III経路を数える:nn 期間の公式

2n2^n 本の経路が行き着く価格は、わずか n+1n+1 通りです。各価格の寄与は、経路の数 × 経路1本のリスク中立確率 × ペイオフです。

IV連続時間の極限

満期までの時間を固定したまま、それをどんどん多くの期間に刻んでいくと、二項モデルの価格はブラック=ショールズの価格に収束します。

💡 破線の ≈10.45\approx 10.45 は、この入力に対してブラック=ショールズ=マートンの偏微分方程式が与える値です(説明用:ボラティリティ σ\sigma は年20%、無リスク金利は連続複利で年5%)。どの nn でも、ツリーの一期間あたりの uu、dd、グロスの rr は、どんどん短くなる各期間について、その σ\sigma とその金利に合うように選んでいます。そのため、最終価格の散らばりは爆発することもつぶれることもありません。uu と dd をデータからどう選ぶかは、次の動画のテーマです。

V確認クイズ

問1 · 二期間のコール

条件: ある株式の株価は $50 です。株価は各期間に u=1.2u = 1.2 倍に上がるか d=0.9d = 0.9 倍に下がり、一期間あたりの無リスクのグロスの収益率は r=1.02r = 1.02 です(割り引くときは rr で割ります)。投資家は、上昇の確率を p=0.65p = 0.65 だと考えています。権利行使価格 $50、満期まで2期間のヨーロピアン・コールの今日の価値を求めてください。

✅ 正解です! p∗=0.4p^* = 0.4 なので、ウェイトは 0.160.16、0.480.48、0.360.36 です。p=0.65p = 0.65 という見込みは、価格にまったく関係しません。
❌ 係数の2が抜けています。 上がってから下がる経路と下がってから上がる経路の2本が udS0udS_0 に着くので、真ん中のペイオフのウェイトは 0.240.24 ではなく 2p∗(1−p∗)=0.482p^*(1-p^*) = 0.48 です。
❌ それは本当の確率を使っています。 複製によるコールの価格づけでは p∗=r−du−dp^* = \frac{r-d}{u-d} を使います。投資家は pp について意見が分かれても、価格では一致できます。
❌ 1回しか割り引いていません。 ペイオフが得られるのは2期間後なので、期待ペイオフは rr ではなく r2=1.0404r^2 = 1.0404 で割ります。
❌ 惜しい! p∗p^* と満期の3つの価格、そのペイオフを求め、ペイオフにウェイト p∗2p^{*2}、2p∗(1−p∗)2p^*(1-p^*)、(1−p∗)2(1-p^*)^2 をかけて足し、r2r^2 で割ります。
解答を見る

リスク中立確率は次のとおりです。

p∗=r−du−d=1.02−0.91.2−0.9=0.120.3=0.4,1−p∗=0.6p^* = \frac{r-d}{u-d} = \frac{1.02 - 0.9}{1.2 - 0.9} = \frac{0.12}{0.3} = 0.4, \qquad 1 - p^* = 0.6

2期間後の株価(単位:ドル)は u2S0=72u^2S_0 = 72、udS0=54udS_0 = 54、d2S0=40.5d^2S_0 = 40.5 のどれかなので、コールのペイオフは Cuu=22C_{uu} = 22、Cud=4C_{ud} = 4、Cdd=0C_{dd} = 0 です。したがって

C0=11.022[(0.4)2(22)+2(0.4)(0.6)(4)+(0.6)2(0)]=3.52+1.921.0404=5.441.0404≈5.23C_0 = \frac{1}{1.02^2}\Big[(0.4)^2(22) + 2(0.4)(0.6)(4) + (0.6)^2(0)\Big] = \frac{3.52 + 1.92}{1.0404} = \frac{5.44}{1.0404} \approx 5.23

コールの価値は約 $5.23 です。確率 p=0.65p = 0.65 は一度も使っていません。二期間の公式には現れないからです。

問2 · 経路、期間、満期の価格

条件: トレーダーたちは、ある株式について、これから5時間(300分)の間に、長さの等しい期間からなる再結合する二項ツリーの上で 1,0241{,}024 通りの価格の経路がありうる、と合意しています。期間の数と長さ、満期での異なる価格の数、そして上昇がちょうど3回のときに行き着く価格で終わる経路の数を求めてください。

期間

満期での異なる価格の数

上昇がちょうど3回の価格で終わる経路の数

✅ 正解です! 210=1,0242^{10} = 1{,}024 なので、30分の期間が10個です。ツリーは再結合して満期の価格は n+1=11n + 1 = 11 通りになり、そのうち u3d7S0u^3d^7S_0 で終わる経路は (103)=120\binom{10}{3} = 120 本です。
❌ 1ステップごとに経路の数は2倍になります。 2本ずつ増えるのではありません。nn ステップで経路は 2n2^n 本になるので、2n=1,0242^n = 1{,}024 を解きます。
❌ 平方根ではありません。 確かに 322=1,02432^2 = 1{,}024 ですが、経路の数は n2n^2 ではなく 2n2^n です。
❌ 経路1本につき1期間では多すぎます。 各期間で経路の数は2倍になるので、nn 期間ですでに 2n2^n 本になります。
❌ それは価格ではなく経路の数です。 上がってから下がっても、下がってから上がっても同じところに着くので、上昇の回数が同じ経路は満期の価格を共有します。
❌ 1つずれています。 上昇の回数 kk は 00 から nn までなので、n+1n + 1 通りあります。
❌ いろいろな順序で同じ節点に着きます。 10回の動きのうち3回が上昇なら、並び方によらず u3d7S0u^3d^7S_0 で終わります。
❌ 単純な掛け算ではありません。 10回の動きのうちどの3回を上昇にするかの選び方は (103)=10⋅9⋅83⋅2⋅1\binom{10}{3} = \frac{10 \cdot 9 \cdot 8}{3 \cdot 2 \cdot 1} 通りです。
❌ 経路は均等には分かれません。 満期の価格のうち真ん中のものには、両端よりはるかに多くの経路が集まります。各価格に集まる経路は (10k)\binom{10}{k} 本です。
❌ 期間を確認しましょう。 2n=1,0242^n = 1{,}024 を解き、300分を nn で割ります。
❌ 満期の価格を確認しましょう。 再結合ツリーでは、満期の価格は上昇の回数 kk だけで決まります。
❌ 経路の数を確認しましょう。 10期間のうちに3回の上昇を置く方法を数えます。
解答を見る

期間:各期間で経路の数は2倍になるので、nn 期間で経路は 2n2^n 本です。2n=1,024=2102^n = 1{,}024 = 2^{10} から n=10n = 10 で、一期間の長さは 300/10=30300/10 = 30 分です。

満期の価格:上昇が kk 回の経路は、動きの順序によらず ukd10−kS0u^k d^{10-k} S_0 で終わります。したがって満期の価格は k=0,1,…,10k = 0, 1, \dots, 10 で番号づけられ、異なる価格は n+1=11n + 1 = 11 通りです。

上昇3回の価格への経路:10回の動きのうちどの3回を上昇にするかの選び方の数は、次のとおりです。

(103)=10⋅9⋅83⋅2⋅1=120\binom{10}{3} = \frac{10 \cdot 9 \cdot 8}{3 \cdot 2 \cdot 1} = 120

検算:(10k)\binom{10}{k} をすべての kk について足すと、210=1,0242^{10} = 1{,}024 本の経路になります。

問3 · 三期間、2通りの求め方

条件: ある株式の株価は $100 です。株価は各期間に u=1.2u = 1.2 倍に上がるか d=0.9d = 0.9 倍に下がり、一期間あたりの無リスクのグロスの収益率は r=1.05r = 1.05 です(割り引くときは rr で割ります)。ヨーロピアン・コールの権利行使価格は $100、満期は3期間後です。1期間後の上昇の節点でのコールの価値 CuC_u と、今日の価値 C0C_0 を求めてください。

1期間後の上昇の節点での価値 CuC_u

今日の価値 C0C_0

✅ 正解です! Cu≈29.93C_u \approx 29.93 と Cd≈6.71C_d \approx 6.71 を経て後ろ向きに解いても、係数 1,3,3,11, 3, 3, 1 の三期間の公式を使っても、C0≈17.45C_0 \approx 17.45 になります。
❌ 1回しか割り引いていません。 上昇の節点からは、コールの満期までまだ2期間あるので、期待ペイオフは r2r^2 で割ります。
❌ 係数の2が抜けています。 uS0uS_0 からは2本の経路が u2dS0u^2dS_0 に着くので、そのペイオフのウェイトは 2p∗(1−p∗)=0.52p^*(1-p^*) = 0.5 です。
❌ それは今すぐ権利行使したときのペイオフです。 ヨーロピアン・コールは上昇の節点では権利行使できません。そこでの価値は、2期間後のペイオフのリスク中立期待値を割り引いたものです。
❌ 二項係数が抜けています。 u2dS0u^2dS_0 で終わる経路は3本あるので、そのペイオフにかかるのは p∗2(1−p∗)p^{*2}(1-p^*) ではなく (32)p∗2(1−p∗)\binom{3}{2}p^{*2}(1-p^*) です。
❌ 1回しか割り引いていません。 ペイオフが得られるのは3期間後なので、r3=1.157625r^3 = 1.157625 で割ります。
❌ イン・ザ・マネーの価格が1つ抜けています。 u3S0u^3S_0 のほかに、u2dS0u^2dS_0 も権利行使価格を上回るので、その項も加わります。
❌ CuC_u を確認しましょう。 uS0uS_0 から先は二期間のツリーです。満期の3つのペイオフにウェイトをかけて足し、r2r^2 で割ります。
❌ C0C_0 を確認しましょう。 n=3n = 3 の公式を使うか、CuC_u と CdC_d に一期間の公式を使います。
解答を見る

まず p∗=1.05−0.91.2−0.9=0.150.3=0.5p^* = \frac{1.05 - 0.9}{1.2 - 0.9} = \frac{0.15}{0.3} = 0.5 です。満期の価格(単位:ドル)は u3S0=172.8u^3S_0 = 172.8、u2dS0=129.6u^2dS_0 = 129.6、ud2S0=97.2ud^2S_0 = 97.2、d3S0=72.9d^3S_0 = 72.9 なので、ペイオフは 72.872.8、29.629.6、00、00 です。

CuC_u:uS0=120uS_0 = 120 からは2期間が残り、満期のペイオフは 72.872.8、29.629.6、00 です。

Cu=11.052[(0.5)2(72.8)+2(0.5)(0.5)(29.6)+(0.5)2(0)]=18.2+14.81.1025=331.1025≈29.93C_u = \frac{1}{1.05^2}\Big[(0.5)^2(72.8) + 2(0.5)(0.5)(29.6) + (0.5)^2(0)\Big] = \frac{18.2 + 14.8}{1.1025} = \frac{33}{1.1025} \approx 29.93

nn 期間の公式による C0C_0:n=3n = 3 とします(イン・ザ・マネーになるのは k=3k = 3 と k=2k = 2 だけです)。

C0=11.053[(33)(0.5)3(72.8)+(32)(0.5)3(29.6)]=9.1+11.11.157625=20.21.157625≈17.45C_0 = \frac{1}{1.05^3}\Big[\tbinom{3}{3}(0.5)^3(72.8) + \tbinom{3}{2}(0.5)^3(29.6)\Big] = \frac{9.1 + 11.1}{1.157625} = \frac{20.2}{1.157625} \approx 17.45

後ろ向きに解いて検算:dS0=90dS_0 = 90 からは Cd=11.1025[(0.5)2(29.6)]=7.41.1025≈6.71C_d = \frac{1}{1.1025}\big[(0.5)^2(29.6)\big] = \frac{7.4}{1.1025} \approx 6.71 で、そこから C0=11.05[0.5(29.93)+0.5(6.71)]≈17.45C_0 = \frac{1}{1.05}\big[0.5(29.93) + 0.5(6.71)\big] \approx 17.45 となります。コールの今日の価値は約 $17.45 です。

問4 · 極限が意味すること

条件: オプションの満期までの時間を固定したまま、二項モデルの期間の数を n→∞n \to \infty とし、uu と dd をどちらも1に近づけると、二項モデルの価格はブラック=ショールズの価格に収束します。この極限について正しい記述はどれですか。

✅ 正解です! この方程式は、裁定の条件を連続時間で書いたものです。pp がツリーの価格に一度も入らなかったのと同じように、期待リターンも偏微分方程式には入ってきません。
❌ その rr は無リスク金利です。 本当の確率 pp がツリーの価格に一度も入らなかったのと同じように、株式の期待リターンはこの方程式のどこにも現れません。
❌ 2つの rr は別物です。 ツリーの rr は一期間あたりのグロスの収益率(1 + 一期間分の利子率)ですが、偏微分方程式の rr は連続複利の利率です。
❌ 逆です。 uu と dd を固定したまま期間を増やしていくと、最終価格の散らばりは爆発してしまいます。散らばりが現実的な大きさに保たれるような速さで、1に向かって縮めなければなりません。
解答を見る

一期間では、価格は複製で決まります。Δ∗\Delta^* 株の株式と B∗B^* ドル分の債券がどちらの状態でもコールと一致し、コールの価格はそのポートフォリオのコスト C0=V0=S0Δ∗+B∗C_0 = V_0 = S_0\Delta^* + B^* に等しくなければなりません。この条件を無限に短い期間で無限回繰り返すと、次の偏微分方程式になります。

12σ2S2∂2C∂S2+rS∂C∂S+∂C∂t=rC\tfrac{1}{2}\sigma^2 S^2 \frac{\partial^2 C}{\partial S^2} + rS\frac{\partial C}{\partial S} + \frac{\partial C}{\partial t} = rC

係数に現れるのは、ボラティリティ σ\sigma(uu と dd が姿を変えて残ったもの)と連続複利の無リスク金利 rr です。pp が二項公式に現れないのと同じように、期待リターンはどこにも現れません。選択肢 (c) はツリーの一期間あたりのグロスの rr をこの連続複利の利率と混同しており、(d) は極限を逆にとらえています。動きは1に向かって縮まなければならず、そうでないと nn が大きくなるにつれて最終価格の散らばりが爆発します。

正解数:0 / 4