ファイナンス理論 · 第14回 · 動画1 · インタラクティブ教材

10%の損失を測る物差し:リターン、リスクプレミアム、標準偏差

I重要な公式

公式名称説明
Rit≡Dit+Pit−Pit−1Pit−1=Dit+PitPit−1−1R_{it} \equiv \dfrac{D_{it} + P_{it} - P_{it-1}}{P_{it-1}} = \dfrac{D_{it} + P_{it}}{P_{it-1}} - 1配当を含めたリターン配当と価格の変化の合計を、前の期の価格で割ったものです。価格の変化だけでは、配当利回り Dit/Pit−1D_{it}/P_{it-1} の分だけリターンを小さく見積もることになります。
E[Rit]\text{E}[R_{it}]
Rit−rfR_{it} - r_f
E[Rit]−rf\text{E}[R_{it}] - r_f
期待リターン
超過リターン
リスクプレミアム
リスクプレミアムは平均です。各期の超過リターンはその1つの実現値で、プレミアムを大きく上回ることも、大きく下回ることもあります。rfr_f は米国短期国債(Tビル)の金利です。
μi≡E[Rit]\mu_i \equiv \text{E}[R_{it}]
σi2≡E[(Rit−μi)2]\sigma_i^2 \equiv \text{E}[(R_{it} - \mu_i)^2],  σi=σi2\ \sigma_i = \sqrt{\sigma_i^2}
母集団の平均・分散・標準偏差誰も観測できない真の値です。σi\sigma_i はリターンと同じ単位(年率%)で、σi2\sigma_i^2 の単位は年あたりの (%)2(\%)^2 です。
μ^i=1T∑t=1TRit\hat{\mu}_i = \dfrac{1}{T}\displaystyle\sum_{t=1}^{T} R_{it}
σ^i2=1T−1∑t=1T(Rit−μ^i)2\hat{\sigma}_i^2 = \dfrac{1}{T-1}\displaystyle\sum_{t=1}^{T} (R_{it} - \hat{\mu}_i)^2
標本推定量TT 期分の過去のリターンから計算します。平均は TT で、分散は T−1T - 1 で割ります。また σ^i=σ^i2\hat{\sigma}_i = \sqrt{\hat{\sigma}_i^2} です。

ポイント:標準偏差は、上下どちら向きの変動も測ります。平均より 1010 ポイント上のリターンも、1010 ポイント下のリターンも、まったく同じだけ数えられます。1900年から2025年まで、米国株式の年率複利リターンは約 9.8%9.8\%、米国短期国債は約 3.4%3.4\% でした。リスクプレミアムは年 66 ポイント程度ということです。

II配当を含めたリターン

毎年のリターンは、価格の変化と配当利回りを積み上げたものです。どちらも前年の価格を基準に測ります。

III標本平均と標本標準偏差

6年分の年次リターンから平均が得られます。リターンがその平均から離れる典型的な距離が σ^\hat{\sigma} です。

IV標本分散はなぜ T−1T - 1 で割るのか

考えられるすべての中心 cc のうち、偏差の二乗和を最も小さくするのは標本平均です。

💡 標本平均はこの和を最小にするので、∑t(Rt−μ^)2\sum_t (R_t - \hat{\mu})^2 が未知の真の平均のまわりの和 ∑t(Rt−μ)2\sum_t (R_t - \mu)^2 より大きくなることはありません。しかも μ^≠μ\hat{\mu} \ne \mu のとき、つまりほとんどいつも、厳密に小さくなります。そのため、μ^\hat{\mu} から測った偏差の二乗は、ばらつきを過小に見積もります。TT ではなく T−1T - 1 で割ることで、その不足を平均的に埋め合わせます。これが σ^2\hat{\sigma}^2 を不偏にしているのです。

V確認クイズ

問1 · 配当のある年のリターン

条件: ケストレル・マイニング(説明用)の株を$50で買います。その年のうちに$1.50の配当が支払われ、年末の株価は$46になりました。その年のリターン RtR_t を求めてください。

✅ 正解です! $1.50の配当が、価格の下落した8ポイントのうち3ポイントを取り戻すので、その年のリターンは −5%-5\% です。
❌ それは価格の変化だけです。 リターンには、その年のうちに支払われた配当が含まれます。分子に DtD_t を加えてください。
❌ 惜しいですが、分母を確かめてください。 リターンは、年末の価格 PtP_t ではなく、買ったときの価格 Pt−1P_{t-1} を基準に測ります。
❌ それは配当利回りだけです。 −8%-8\% の価格の変化もリターンに含まれます。
❌ 惜しい! Rt=(Dt+Pt−Pt−1)/Pt−1R_t = (D_t + P_t - P_{t-1})/P_{t-1} を使ってください。
解答を見る

Pt−1=50P_{t-1} = 50、Dt=1.50D_t = 1.50、Pt=46P_t = 46(単位:ドル)とすると:

Rt=Dt+Pt−Pt−1Pt−1=1.50+46−5050=−2.5050=−0.05=−5.0%R_t = \frac{D_t + P_t - P_{t-1}}{P_{t-1}} = \frac{1.50 + 46 - 50}{50} = \frac{-2.50}{50} = -0.05 = -5.0\%

2つの部分に分けると、価格の変化は −4/50=−8.0%-4/50 = -8.0\%、配当利回りは 1.50/50=3.0%1.50/50 = 3.0\% で、−8.0%+3.0%=−5.0%-8.0\% + 3.0\% = -5.0\% です。

問2 · プレミアムか、実現値か

条件: ケストレル・マイニングの過去4年間の年次リターンは 18%18\%、−6%-6\%、23%23\%、1%1\%(説明用)で、米国短期国債の金利はその間ずっと rf=2.5%r_f = 2.5\% でした。この標本から、ケストレルのリスクプレミアム E[R]−rf\text{E}[R] - r_f の推定値を求めてください。

✅ 正解です! 標本平均 μ^=9%\hat{\mu} = 9\% が E[R]\text{E}[R] の推定値です。そこから rf=2.5%r_f = 2.5\% を引くと、プレミアムの推定値は 6.56.5 ポイントになります。
❌ それは期待リターンの推定値です。 リスクプレミアムは、その株が無リスク金利を平均してどれだけ上回って稼ぐかです。rfr_f を引いてください。
❌ それは昨年の超過リターン 1%−2.5%1\% - 2.5\% です。 1年の超過リターンは1つの実現値で、プレミアムはその平均です。
❌ それは1年目の超過リターン 18%−2.5%18\% - 2.5\% です。 1年の超過リターンは、プレミアムから大きく外れることがあります。4年すべてを平均してください。
❌ 惜しい! 標本平均で E[R]\text{E}[R] を推定し、そこから rfr_f を引いてください。
解答を見る

期待リターンを標本平均で推定します:

μ^=18+(−6)+23+14=364=9%\hat{\mu} = \frac{18 + (-6) + 23 + 1}{4} = \frac{36}{4} = 9\% E[R]−rf^=μ^−rf=9%−2.5%=6.5 パーセントポイント\widehat{\text{E}[R] - r_f} = \hat{\mu} - r_f = 9\% - 2.5\% = 6.5 \text{ パーセントポイント}

4年それぞれの超過リターンは 15.515.5、−8.5-8.5、20.520.5、−1.5-1.5 ポイントです。どれもプレミアムの上下に散らばった個々の実現値で、その平均はやはり 6.56.5 です。

問3 · 6年分から標準偏差へ

条件: ケストレル・マイニングの6年間の年次リターン(説明用)は 21%21\%、−13%-13\%、26%26\%、7%7\%、−4%-4\%、23%23\% でした。標本標準偏差 σ^\hat{\sigma} を求めてください。

✅ 正解です! σ^2=1280/5=256 (%)2\hat{\sigma}^2 = 1280/5 = 256\ (\%)^2 で、その平方根は年 16%16\% です。
❌ 惜しいですが、割る数を確かめてください。 偏差の二乗和を T=6T = 6 で割ると約 213.3213.3 になります。標本分散は T−1=5T - 1 = 5 で割ります。
❌ それは距離を二乗せずに平均しています。 分散は偏差の二乗を(T−1T - 1 で割って)平均したもので、σ^\hat{\sigma} はその平方根です。
❌ それは (%)2(\%)^2 単位の分散です。 平方根をとって、年率のパーセントに戻してください。
❌ 惜しい! μ^\hat{\mu} を求め、各偏差を二乗し、その和を T−1T - 1 で割ってから平方根をとってください。
解答を見る
μ^=21−13+26+7−4+236=606=10%\hat{\mu} = \frac{21 - 13 + 26 + 7 - 4 + 23}{6} = \frac{60}{6} = 10\%

μ^\hat{\mu} からの偏差は 11,−23,16,−3,−14,1311, -23, 16, -3, -14, 13 です(合計は 00)。その二乗は 121,529,256,9,196,169121, 529, 256, 9, 196, 169 です。

∑t(Rt−μ^)2=1280,σ^2=12806−1=256 (%)2,σ^=256=16%\sum_t (R_t - \hat{\mu})^2 = 1280, \qquad \hat{\sigma}^2 = \frac{1280}{6 - 1} = 256\ (\%)^2, \qquad \hat{\sigma} = \sqrt{256} = 16\%

T=6T = 6 で割ると約 213.3 (%)2213.3\ (\%)^2、約 14.6%14.6\% となり、リスクを過小に見積もってしまいます。

問4 · 大きな利益か、大きな損失か

条件: ケストレル・マイニングのリターンについて、説明用の4年間の期間が2つあります。期間A:2%2\%、2%2\%、2%2\%、26%26\%。期間B:14%14\%、14%14\%、14%14\%、−10%-10\%。標本標準偏差が大きいのはどちらの期間ですか?

✅ 正解です! どちらも平均は 8%8\% で、Bの偏差はAの偏差の符号を逆にしたものです。二乗すると符号は消えるので、この尺度では2つのリスクは等しくなります。
❌ 惜しい! 標準偏差は、平均を大きく下回るリターンを、同じだけ上回るリターンとまったく同じに数えます。損失だけを特別扱いすることはありません。
❌ 偏差はゼロからではなく、平均から測ります。 どちらの期間も平均は 8%8\% です。Aの大きな年は平均より 1818 ポイント上、Bの大きな年は 1818 ポイント下です。
❌ 惜しい! 標準偏差に使うのは、リターンとその平均だけです。rfr_f が関わるのは超過リターンとプレミアムで、σ^\hat{\sigma} には関わりません。
❌ 惜しい! それぞれの期間の平均と偏差を計算してください。
解答を見る

期間A:μ^=32/4=8%\hat{\mu} = 32/4 = 8\%、偏差は −6,−6,−6,+18-6, -6, -6, +18 です。

期間B:μ^=32/4=8%\hat{\mu} = 32/4 = 8\%、偏差は +6,+6,+6,−18+6, +6, +6, -18 です。

∑t(Rt−μ^)2=36+36+36+324=432(両方とも),σ^2=4324−1=144 (%)2,σ^=12%\sum_t (R_t - \hat{\mu})^2 = 36 + 36 + 36 + 324 = 432 \text{(両方とも)}, \qquad \hat{\sigma}^2 = \frac{432}{4 - 1} = 144\ (\%)^2, \qquad \hat{\sigma} = 12\%

Aの予想外の年は利益、Bの予想外の年は損失ですが、二乗すると両者はまったく同じに扱われます。2つを見分けるには、歪度のような別の統計量が必要です(Aは正の歪度、Bは負の歪度をもちます)。

正解数:0 / 4