ファイナンス理論 · 第16回 · 動画3 · インタラクティブ教材

どこまで過去を使うか:ポートフォリオ理論の入力を推定する

I重要な公式

公式名称何を推定するか
μ^i=1T∑t=1TRit\hat{\mu}_i = \dfrac{1}{T}\displaystyle\sum_{t=1}^{T} R_{it}標本平均株 ii の期待リターン(過去 TT 期間のデータから)
σ^ij=1T∑t=1T(Rit−μ^i)(Rjt−μ^j)\hat{\sigma}_{ij} = \dfrac{1}{T}\displaystyle\sum_{t=1}^{T} (R_{it} - \hat{\mu}_i)(R_{jt} - \hat{\mu}_j)標本共分散交差積の平均です。2つのリターンがそれぞれの平均の同じ側にあるとき正になります
σ^i=σ^ii\hat{\sigma}_i = \sqrt{\hat{\sigma}_{ii}}標本標準偏差株とそれ自身との共分散の平方根です
ρ^ij=σ^ijσ^i σ^j\hat{\rho}_{ij} = \dfrac{\hat{\sigma}_{ij}}{\hat{\sigma}_i\,\hat{\sigma}_j}標本相関共分散を、−1-1 から 11 のあいだに収まるよう目盛りを直したものです

ポイント: ハットは、私たちが決して観測できないパラメーターの推定値であることを示す印です。ウェイト ωi\omega_i はあなたが選び、それにかけ合わせる μ^i\hat{\mu}_i と σ^ij\hat{\sigma}_{ij} はデータが与えてくれます。ポートフォリオ理論は、こうした期待リターンと共分散が時間を通じて安定していると仮定します。何かを予測するわけでも、市場に勝とうとするわけでもありません。

II共分散は交差積の平均

各月の交差積は、2つの株がそれぞれの平均の同じ側にあるとき正になります。σ^GH\hat{\sigma}_{GH} はその平均です。

III標本の長さはどれくらいか

標本を長くすると推定誤差は小さくなりますが、非定常性を組み込んでしまいます。パラメーターが速く変化するほど、使う価値のある過去は短くなります。下の曲線はこのトレードオフを説明するための模式図で、データに当てはめたモデルではありません。意味をもつのは形だけです。

IV同じ名前、違う会社

長いリターンの系列は、その下にある会社が変わっても、同じ名前のままでありえます。

V確認クイズ

問1 · 標本共分散

条件: 説明用の4か月分のリターン(月あたりの%):ガーネット 33、−1-1、44、22、ホリス 66、00、22、44。標本共分散 σ^GH\hat{\sigma}_{GH} を求めてください(TT で割ります)。

✅ 正解です! 交差積 33、99、−2-2、00 の和は 1010 で、T=4T = 4 か月で平均すると 2.52.5(%2\%^2 単位)です。
❌ 平均が抜けています。 8.58.5 は RGtRHtR_{Gt} R_{Ht} そのものの平均です。共分散でかけ合わせるのは、平均 μ^G=2\hat{\mu}_G = 2 と μ^H=3\hat{\mu}_H = 3 からの偏差です。
❌ 足すだけでなく、平均しましょう。 1010 は4つの交差積の和です。推定量ではこれを T=4T = 4 で割ります。
❌ 3か月目の符号を確かめましょう。 ガーネットは平均より 22 上にあり、ホリスは自身の平均より 11 下にあります。反対側なので、その交差積は −2-2 です。+2+2 ではありません。
❌ 惜しい! 両方の平均を求め、月ごとに2つの偏差をかけ合わせてから、平均しましょう。
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平均:μ^G=14(3−1+4+2)=2\hat{\mu}_G = \tfrac{1}{4}(3 - 1 + 4 + 2) = 2、μ^H=14(6+0+2+4)=3\hat{\mu}_H = \tfrac{1}{4}(6 + 0 + 2 + 4) = 3(月あたりの%)。

偏差:ガーネット 11、−3-3、22、00、ホリス 33、−3-3、−1-1、11。

交差積:1⋅3=31 \cdot 3 = 3、(−3)(−3)=9(-3)(-3) = 9、2⋅(−1)=−22 \cdot (-1) = -2、0⋅1=00 \cdot 1 = 0。1か月目と2か月目は同じ側(正)、3か月目は反対側(負)で、4か月目はガーネットがちょうど平均の位置にあります。

σ^GH=14(3+9−2+0)=104=2.5 (%2)\hat{\sigma}_{GH} = \tfrac{1}{4}(3 + 9 - 2 + 0) = \tfrac{10}{4} = 2.5 \ (\%^2)

問2 · 正のリターン、負の共分散

条件: 説明用の4か月分のリターン(月あたりの%):ガーネット 33、11、44、00、ホリス 22、66、11、77。どちらの株も、リターンが負になった月はありません。標本共分散 σ^GH\hat{\sigma}_{GH} を求めてください。

✅ 正解です! どの月も、一方の株が平均より上にあるとき、もう一方は自身の平均より下にあるので、交差積はすべて負になります。
❌ 正のリターンは「平均より上」という意味ではありません。 +4+4 は、平均を引かずに RGtRHtR_{Gt} R_{Ht} を平均した(あるいは交差積の符号を落とした)ときに得られる値です。交差積の符号は、それぞれのリターンが自身の平均のどちら側にあるかで決まります(μ^G=2\hat{\mu}_G = 2、μ^H=4\hat{\mu}_H = 4)。
❌ 足すだけでなく、平均しましょう。 −16-16 は4つの交差積の和です。T=4T = 4 で割りましょう。
❌ 惜しい! 各株の平均を引き、月ごとに偏差をかけ合わせてから、4か月で平均しましょう。
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平均:μ^G=14(3+1+4+0)=2\hat{\mu}_G = \tfrac{1}{4}(3 + 1 + 4 + 0) = 2、μ^H=14(2+6+1+7)=4\hat{\mu}_H = \tfrac{1}{4}(2 + 6 + 1 + 7) = 4。

偏差:ガーネット 11、−1-1、22、−2-2、ホリス −2-2、22、−3-3、33。どの月も、2つの偏差の符号は反対です。

σ^GH=14[(1)(−2)+(−1)(2)+(2)(−3)+(−2)(3)]=14(−16)=−4 (%2)\hat{\sigma}_{GH} = \tfrac{1}{4}\big[(1)(-2) + (-1)(2) + (2)(-3) + (-2)(3)\big] = \tfrac{1}{4}(-16) = -4 \ (\%^2)

どちらの株も毎月0以上のリターンを得ていますが、平均に対しては反対の方向に動いています。共分散が測るのは平均のまわりでの連動で、リターンが正かどうかではありません。

問3 · データから相関へ

条件: 説明用の4か月分のリターン(月あたりの%):ガーネット 44、00、33、11、ホリス 44、22、55、11。すべて 1T\tfrac{1}{T} を使って、標本共分散と標本相関を求めてください。

標本共分散 σ^GH\hat{\sigma}_{GH}

標本相関 ρ^GH\hat{\rho}_{GH}

✅ 正解です! σ^GH=2\hat{\sigma}_{GH} = 2 で、2つの標準偏差はどちらも 2.5\sqrt{2.5} なので、ρ^GH=2/2.5=0.8\hat{\rho}_{GH} = 2/2.5 = 0.8 です。
❌ それは平均ではなく和です。 4つの交差積はどれも 22 です。その合計 88 を T=4T = 4 で割りましょう。
❌ それは分散です。 2.52.5 は σ^G2\hat{\sigma}_G^2(そして σ^H2\hat{\sigma}_H^2 でもあります)で、1つの株の偏差の2乗の平均です。2つの株の交差積の平均ではありません。
❌ それは共分散ではなく相関です。 0.80.8 は σ^GH\hat{\sigma}_{GH} を σ^Gσ^H\hat{\sigma}_G\hat{\sigma}_H で割ったものです。共分散そのものは交差積の単純な平均で、単位は %2\%^2 です。
❌ 惜しい! 平均(22 と 33)を引き、月ごとに偏差をかけ合わせて、平均しましょう。
❌ 分散ではなく、標準偏差で割りましょう。 2/(2.5×2.5)=0.322/(2.5 \times 2.5) = 0.32 は σ^G2σ^H2\hat{\sigma}_G^2 \hat{\sigma}_H^2 を使っています。相関では σ^Gσ^H=2.52.5=2.5\hat{\sigma}_G \hat{\sigma}_H = \sqrt{2.5}\sqrt{2.5} = 2.5 で割ります。
❌ 相関が 11 を超えることはありません。 2/2.5≈1.262/\sqrt{2.5} \approx 1.26 は標準偏差1つだけで割っています。分母は積 σ^Gσ^H\hat{\sigma}_G \hat{\sigma}_H です。
❌ 惜しい! 各株の標準偏差を、その株の偏差の2乗の平均の平方根として求め、共分散をその積で割りましょう。
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平均:μ^G=14(4+0+3+1)=2\hat{\mu}_G = \tfrac{1}{4}(4 + 0 + 3 + 1) = 2、μ^H=14(4+2+5+1)=3\hat{\mu}_H = \tfrac{1}{4}(4 + 2 + 5 + 1) = 3。

偏差:ガーネット 22、−2-2、11、−1-1、ホリス 11、−1-1、22、−2-2。

σ^GH=14[(2)(1)+(−2)(−1)+(1)(2)+(−1)(−2)]=84=2 (%2)\hat{\sigma}_{GH} = \tfrac{1}{4}\big[(2)(1) + (-2)(-1) + (1)(2) + (-1)(-2)\big] = \tfrac{8}{4} = 2 \ (\%^2) σ^GG=14(4+4+1+1)=2.5,σ^HH=14(1+1+4+4)=2.5\hat{\sigma}_{GG} = \tfrac{1}{4}(4 + 4 + 1 + 1) = 2.5, \qquad \hat{\sigma}_{HH} = \tfrac{1}{4}(1 + 1 + 4 + 4) = 2.5

したがって σ^G=σ^H=2.5≈1.58%\hat{\sigma}_G = \hat{\sigma}_H = \sqrt{2.5} \approx 1.58\%(月あたり)で、

ρ^GH=σ^GHσ^G σ^H=22.5 2.5=22.5=0.8\hat{\rho}_{GH} = \frac{\hat{\sigma}_{GH}}{\hat{\sigma}_G\,\hat{\sigma}_H} = \frac{2}{\sqrt{2.5}\,\sqrt{2.5}} = \frac{2}{2.5} = 0.8

問4 · 変化した平均

条件: あるアナリストが、過去 2020 年(240240 か月)のデータからホリスの期待リターンを推定します。説明のため、この会社は 88 年前に変わったとします。リターンの平均は月 0.5%0.5\%(最初の 1212 年)と月 1.5%1.5\%(最後の 88 年)で、月 1.5%1.5\% が今日の会社の期待リターンです。

20年の標本平均 μ^H\hat{\mu}_H

代わりに最後の8年だけから推定すると

✅ 正解です! 長い標本は2つの会社を混ぜてしまい、今日の 1.5%1.5\% から 0.60.6 パーセントポイントずれます。短い標本は、そのバイアスと引き換えに推定誤差を抱えます。
❌ 各期間に、その長さで重みをつけましょう。 12(0.5+1.5)=1.0\tfrac{1}{2}(0.5 + 1.5) = 1.0 は、1212 年と 88 年の期間を同じ長さとして扱っています。
❌ どの率がどの期間に対応するかを確かめましょう。 1.11.1 は 1.5%1.5\% の率を 1212 年に当てはめています。この率が当てはまるのは最後の 88 年だけです。
❌ それは推定値ではなく、目標の値です。 標本平均は 240240 か月すべてを平均し、そこには以前の会社の 144144 か月も含まれます。
❌ 惜しい! 標本平均は、240240 か月分の月次リターンすべての和を 240240 で割ったものです。
❌ 逆です。 観測値が少ないと、推定は正確になるのではなく、ノイズが大きくなります。推定が正確になるのは、何ひとつ変わらないまま T→∞T \to \infty となる場合だけです。
❌ ここでの推定値は、どれも予測ではありません。 どちらの窓も、標本期間を通じて安定していると仮定したパラメーターを推定しているだけで、来月の市場の動きを予測しているわけではありません。
❌ 惜しい! 最後の 88 年には今日の会社しか含まれないので、このバイアスは消えます。変わるのは、平均する月の数です。
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20年の平均。最初の 1212 年は 144144 か月で平均 0.5%0.5\%、最後の 88 年は 9696 か月で平均 1.5%1.5\% なので、すべてのリターンの和は 144(0.5)+96(1.5)=72+144=216144(0.5) + 96(1.5) = 72 + 144 = 216 です。

μ^H=216240=0.9%(月あたり)\hat{\mu}_H = \frac{216}{240} = 0.9\% \text{(月あたり)}

今日の会社の期待リターンは 1.5%1.5\% なので、長い標本はそれを 0.60.6 パーセントポイント過小評価します。これが非定常性によるバイアスです。平均しているパラメーターが、標本期間を通じて同じではなかったからです。

8年の窓。その中のどの月も今日の会社のものなので、このバイアスはなくなります。しかし推定のもとになるのは 9696 か月(240240 か月ではなく)なので、推定誤差は大きくなります。どちらを選ぶかは、パラメーターがどれだけ変化するかについて立場を決めることです。正しい長さが1つに決まるわけではありません。

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