ファイナンス理論 · 第18回 · 動画7 · インタラクティブ教材

市場が報いるのは分散で消せないリスクだけ:システマティック・リスクと固有リスク

I重要な公式

公式名称意味
βi=Cov[Ri,Rm]Var[Rm]=ρim σiσm\beta_i = \dfrac{\text{Cov}[R_i, R_m]}{\text{Var}[R_m]} = \rho_{im}\,\dfrac{\sigma_i}{\sigma_m}ベータどれだけ幅広く分散投資しても、ポートフォリオに残り続ける株のリスクの部分
σp=ω σm,βp=ω\sigma_p = \omega\,\sigma_m, \quad \beta_p = \omega効率的ポートフォリオ:ω\omega を M に、残りの (1−ω)(1 - \omega) をTビルにTビルはリスクを加えないので、σp\sigma_p はすべて市場リスク
βp=σpσm\beta_p = \dfrac{\sigma_p}{\sigma_m}効率的ポートフォリオに限るσ\sigma と β\beta は効率的ポートフォリオをまったく同じ順序に並べる
E[Ri]=Rf+βi (E[Rm]−Rf)\text{E}[R_i] = R_f + \beta_i\,(\text{E}[R_m] - R_f)証券市場線報酬が支払われるのは β\beta だけ。企業固有のリスクは何も稼がない

ポイント:分散 σi2\sigma_i^2 は、避けられるものも避けられないものも、株のリスクのすべてをまとめて測ります。ベータが測るのは、銘柄をいくら増やしても取り除けないシステマティックな部分だけで、市場が報酬を払うのはその部分だけです。

II分散投資のあとに残るのは市場リスクだけ

銘柄を1つ加えるごとに企業固有のリスクは縮みますが、その下にある市場リスクは分散投資では決して消えません。

説明用の数値で、市場データではありません:等ウェイトの NN 銘柄は、どれも年率 σ=40%\sigma = 40\%、β=1\beta = 1 で、どの2銘柄の共分散も σm2\sigma_m^2(ただし σm=16%\sigma_m = 16\%)とします。ポートフォリオ理論のユニットで見た等ウェイトの公式 σp2=σ2N+(1−1N)σm2\sigma_p^2 = \dfrac{\sigma^2}{N} + \left(1 - \dfrac{1}{N}\right)\sigma_m^2 は、σm2\sigma_m^2 に向かって下がっていきます。NN が大きくなるほど、共分散が支配的になるからです。

III効率的ポートフォリオでは σp\sigma_p がベータの物差しになる

資本市場線の上では、σp\sigma_p と βp\beta_p は βp=σp/σm\beta_p = \sigma_p / \sigma_m で結ばれています(σm=16%\sigma_m = 16\%)。

IVベータが同じなら報酬も同じ、リスクだけが大きい

個別株と、それと同じ β\beta をもつ効率的ポートフォリオ(効率的な双子)は、CAPM のもとで同じリターンを稼ぎます。株の余分な σ\sigma には報酬が支払われません。

V確認クイズ

問1 · レバレッジをかけた効率的ポートフォリオ

条件:ある効率的ポートフォリオは、資産の ω=1.4\omega = 1.4 倍をマーケット・ポートフォリオ M に投じ、超えた 0.4 はTビル金利で借り入れています。市場の標準偏差は年率 σm=16%\sigma_m = 16\% です。このポートフォリオの標準偏差とベータを求めてください。

σp は?

βp は?

✅ 正解です! σp=1.4×16%=22.4%\sigma_p = 1.4 \times 16\% = 22.4\%、βp=1.4\beta_p = 1.4 なので、βp=σp/σm=22.4/16=1.4\beta_p = \sigma_p / \sigma_m = 22.4 / 16 = 1.4 です。効率的ポートフォリオでは、2つの尺度が一致します。
❌ 惜しい! 借り入れた 0.4 に 16% をかけると 6.4% ですが、これは借入の部分しか数えていません。M に入っているのは 1.4 全体で、借入そのものにはリスクがないので、σp=1.4 σm\sigma_p = 1.4\,\sigma_m です。
❌ 惜しい! 無リスク金利での借入はそれ自体ではリスクを加えませんが、M の保有を拡大します。M が振れるたびに、資産の 1.4 倍が動くのです。
❌ 惜しい! 16/1.4≈11.416 / 1.4 \approx 11.4 はウェイトで割っています。Tビル(またはTビル金利での借入)にはリスクがないので、ポートフォリオの標準偏差は M へのウェイトかける σm\sigma_m です。
❌ σp を確かめましょう。 Tビル(またはTビル金利での借入)にはリスクがないので、ポートフォリオの標準偏差は M へのウェイトかける σm\sigma_m です。
❌ 惜しいですが… ω2=1.42=1.96\omega^2 = 1.4^2 = 1.96 は分散の拡大率です。市場との共分散はウェイトについて線形なので、Cov[Rp,Rm]=1.4 Var[Rm]\text{Cov}[R_p, R_m] = 1.4\,\text{Var}[R_m] となり、βp=1.4\beta_p = 1.4 です。
❌ 惜しい! β=1\beta = 1 は M そのもののベータです。資産の 1.4 倍を M で持てば、エクスポージャーも拡大します。Cov[Rp,Rm]=1.4 Var[Rm]\text{Cov}[R_p, R_m] = 1.4\,\text{Var}[R_m] なので、βp=1.4\beta_p = 1.4 です。
❌ 惜しい! 0.4 は借り入れた割合です。Tビル金利での借入は市場との共分散をもたないので、ベータは M で持つ 1.4 全体から生まれます。
❌ βp を確かめましょう。 ポートフォリオの市場との共分散 ω Var[Rm]\omega\,\text{Var}[R_m] を Var[Rm]\text{Var}[R_m] で割ります。
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Tビルにはリスクがなく、何とも共分散をもたないので、寄与するのは M に入っている ω=1.4\omega = 1.4 だけです。

σp=ω σm=1.4×16%=22.4%\sigma_p = \omega\,\sigma_m = 1.4 \times 16\% = 22.4\% βp=Cov[Rp,Rm]Var[Rm]=1.4 Var[Rm]Var[Rm]=1.4\beta_p = \frac{\text{Cov}[R_p, R_m]}{\text{Var}[R_m]} = \frac{1.4\,\text{Var}[R_m]}{\text{Var}[R_m]} = 1.4

検算:σp/σm=22.4/16=1.4=βp\sigma_p / \sigma_m = 22.4 / 16 = 1.4 = \beta_p。効率的ポートフォリオには企業固有のリスクがまったく残っていないので、その標準偏差は純粋に市場リスクです。

問2 · ボラティリティはベータではない

条件:株 K は年率 σK=32%\sigma_K = 32\% で、市場との相関は ρKm=0.35\rho_{Km} = 0.35 です。市場は年率 σm=16%\sigma_m = 16\% です。同級生は「K のボラティリティは市場の2倍なのだから、ベータは2のはずだ」と言います。βK\beta_K を求めてください。

✅ 正解です! βK=0.35×32/16=0.7\beta_K = 0.35 \times 32 / 16 = 0.7 です。K のボラティリティは市場の2倍なのに、抱えている市場リスクは市場そのものより小さいのです。
❌ 惜しいですが… σK/σm=2\sigma_K / \sigma_m = 2 がベータになるのは、K が効率的ポートフォリオのように市場と完全に連動する(ρ=1\rho = 1)場合だけです。K のボラティリティの大部分は企業固有のもので、相関がそれを取り除きます。
❌ 惜しい! 相関だけでは、K の振れが市場の振れに比べてどれだけ大きいかを無視しています。σK/σm\sigma_K / \sigma_m をかけましょう。
❌ 惜しい! 比が逆さまです:0.35×16/32=0.1750.35 \times 16 / 32 = 0.175。株のボラティリティを分子にして、βK=ρKm σK/σm\beta_K = \rho_{Km}\,\sigma_K / \sigma_m を使います。
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共分散を Cov[RK,Rm]=ρKm σK σm\text{Cov}[R_K, R_m] = \rho_{Km}\,\sigma_K\,\sigma_m と書き、Var[Rm]=σm2\text{Var}[R_m] = \sigma_m^2 で割ります。

βK=ρKm σK σmσm2=ρKm σKσm=0.35×3216=0.7\beta_K = \frac{\rho_{Km}\,\sigma_K\,\sigma_m}{\sigma_m^2} = \rho_{Km}\,\frac{\sigma_K}{\sigma_m} = 0.35 \times \frac{32}{16} = 0.7

同級生の σK/σm=2\sigma_K / \sigma_m = 2 は、K のボラティリティをすべて市場リスクとして扱っています。分散されたポートフォリオに残るのは市場と相関する部分だけなので、ベータに入るのもその部分だけです。

問3 · 効率的な双子

条件:株 Q は年率 σQ=34%\sigma_Q = 34\% で、市場との相関は ρQm=0.4\rho_{Qm} = 0.4 です。市場は年率 σm=16%\sigma_m = 16\% です。βQ\beta_Q を求め、次に、CAPM のもとで Q と同じ期待リターンをもつ効率的ポートフォリオ(M とTビルの組み合わせ)の標準偏差を求めてください。

βQ は?

CAPM の期待リターンが同じ効率的ポートフォリオの σ は?

✅ 正解です! βQ=0.85\beta_Q = 0.85 なので、双子は M に ω=0.85\omega = 0.85 を持ち、σp=13.6%\sigma_p = 13.6\% です。Q のボラティリティは 34%34\% なのに、ボラティリティ 13.6%13.6\% の効率的ポートフォリオと同じように価格がつきます。余分なボラティリティは、市場が報いないリスクなのです。
❌ 惜しいですが… σQ/σm=34/16=2.125\sigma_Q / \sigma_m = 34 / 16 = 2.125 は ρ=1\rho = 1 を仮定しています。ρQm=0.4\rho_{Qm} = 0.4 をかけましょう。
❌ 惜しい! 0.40.4 は相関だけです。Q の振れが市場の振れに比べてどれだけ大きいか、σQ/σm=34/16\sigma_Q / \sigma_m = 34 / 16 をかけましょう。
❌ 惜しい! 0.4×16/34≈0.190.4 \times 16 / 34 \approx 0.19 は比を逆さまにしています。ベータは、株のボラティリティを分子にした ρQm σQ/σm\rho_{Qm}\,\sigma_Q / \sigma_m です。
❌ 惜しい! 16%16\% は市場そのもの、つまり β=1\beta = 1 の効率的ポートフォリオです。Q の双子には βp=βQ\beta_p = \beta_Q が必要なので、ω=βQ\omega = \beta_Q、σp=βQ σm\sigma_p = \beta_Q\,\sigma_m です。
❌ 惜しい! 0.4×16%=6.4%0.4 \times 16\% = 6.4\% は相関に σm\sigma_m をかけています。双子の M へのウェイトは βQ\beta_Q であって ρQm\rho_{Qm} ではないので、σp=βQ σm\sigma_p = \beta_Q\,\sigma_m です。
❌ βQ を確かめましょう。 βQ=ρQm σQ/σm\beta_Q = \rho_{Qm}\,\sigma_Q / \sigma_m を使います。
❌ 惜しい! CAPM が期待リターンをそろえるのは β\beta によってであって、σ\sigma によってではありません。双子には βp=βQ\beta_p = \beta_Q が必要で、効率的ポートフォリオではそれは σp=βQ σm\sigma_p = \beta_Q\,\sigma_m を意味します。
❌ 双子を確かめましょう。 同じ β\beta ⇒ 証券市場線上の同じリターン。効率的ポートフォリオのベータは M へのウェイト ω\omega で、その σp=ω σm\sigma_p = \omega\,\sigma_m です。
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ステップ1:ベータ。

βQ=ρQm σQσm=0.4×3416=0.85\beta_Q = \rho_{Qm}\,\frac{\sigma_Q}{\sigma_m} = 0.4 \times \frac{34}{16} = 0.85

ステップ2:期待リターンが同じなら、ベータも同じ。証券市場線の上では、E[R]=Rf+β (E[Rm]−Rf)\text{E}[R] = R_f + \beta\,(\text{E}[R_m] - R_f) は β\beta だけで決まるので、双子には βp=0.85\beta_p = 0.85 が必要です。効率的な組み合わせでは βp=ω\beta_p = \omega なので、ω=0.85\omega = 0.85 です(残りの 0.15 はTビル)。

ステップ3:そのリスク。

σp=ω σm=0.85×16%=13.6%\sigma_p = \omega\,\sigma_m = 0.85 \times 16\% = 13.6\%

Q と双子の期待リターンは同じですが、Q の σ\sigma は双子の2.5倍です。Q の余分なボラティリティはアイリッシュ・ジグです。Q を持つ人が自分から負うことを選んだリスクで、報酬は支払われません。

問4 · 勤め先の株を売る

条件:あるエンジニアは、貯蓄のすべてを勤め先の株で持っています。その株は β=1.4\beta = 1.4、年率 σ=45%\sigma = 45\% です。彼女はそれを売り、さまざまな業界の60銘柄からなる等ウェイト・ポートフォリオを買います。どの銘柄も β=1.4\beta = 1.4 です。CAPM によれば、何が起こりますか?

✅ 正解です! 彼女は価格がつくリスクをすべて保ったまま、価格がつかないリスクだけを手放します。期待リターンは同じで、ボラティリティはずっと小さくなります。1銘柄だけを持つことが、ジグだったのです。
❌ 惜しい! ポートフォリオのベータは、保有銘柄のベータの加重平均です:βp=∑iwi βi=1.4\beta_p = \sum_i w_i\,\beta_i = 1.4。分散投資が取り除くのは企業固有のリスクで、市場へのエクスポージャーではありません。
❌ 惜しい! 彼女が手放したのは企業固有のリスクで、市場はもともとそれに報酬を払っていません。期待リターンは β\beta だけで決まり、それは1.4のままです。
❌ 惜しい! ベータは変わりませんが、σ\sigma は変わります。さまざまな業界の60銘柄が抱える企業固有のリスクは大部分が打ち消し合いますが、1銘柄ではそうはいきません。
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ベータ。市場との共分散はウェイトについて線形なので、

βp=∑i=160160 (1.4)=1.4\beta_p = \sum_{i=1}^{60} \tfrac{1}{60}\,(1.4) = 1.4

期待リターン。証券市場線から E[Rp]=Rf+1.4 (E[Rm]−Rf)\text{E}[R_p] = R_f + 1.4\,(\text{E}[R_m] - R_f) となり、勤め先の株だけを持っていたときと同じです。

リスク。60銘柄あれば、個々の会社に固有の振れは大部分が平均されて消えるので、σp\sigma_p は45%を大きく下回ります。残るのは、β=1.4\beta = 1.4 が測る市場リスクです。

彼女は期待リターンを何も手放さずに、負っても報酬が支払われなかったリスクを取り除きます。勤め先の株に集中したポジションが、ポートフォリオの観点から弁護しにくいのはこのためです。

正解数:0 / 4