ファイナンス理論 · 第21回 · 動画5 · インタラクティブ教材

一つのプロジェクトに三つのIRR:収益率でプロジェクトを順位づけできない理由

I重要な公式

公式名称説明
NPV(r)=CF0+∑t=1TCFt(1+r)t,NPV(IRR)=0\text{NPV}(r) = CF_0 + \sum_{t=1}^{T} \dfrac{CF_t}{(1+r)^t}, \quad \text{NPV}(\text{IRR}) = 0NPV の曲線と IRRIRR はどれも、NPV の曲線がゼロを横切る点
(1+r)T NPV(r)=CF0(1+r)T+CF1(1+r)T−1+⋯+CFT(1+r)^T\,\text{NPV}(r) = CF_0(1+r)^T + CF_1(1+r)^{T-1} + \dots + CF_TIRR の多項式1+r1+r についての TT 次式:実数の IRR は多くても TT 個で、いくつもあることも、1つもないこともある
(1+r)3 NPV2=−500,000 (r−0.04)(r−0.07)(r−0.10)(1+r)^3\,\text{NPV}_2 = -500{,}000\,(r-0.04)(r-0.07)(r-0.10)動画のプロジェクト2実数の根が3つ:4%4\%、7%7\%、10%10\%
ΔCFt=CFtB−CFtA,NPV(Δ)=NPVB−NPVA\Delta CF_t = CF^B_t - CF^A_t, \quad \text{NPV}(\Delta) = \text{NPV}_B - \text{NPV}_A増分キャッシュフロー小さいほうのプロジェクトがハードルを超えたら、大きいほうを選ぶのは IRR(Δ)\text{IRR}(\Delta) がハードルを上回るときだけ

ポイント:IRR は率でプロジェクトの順位をつけますが、企業が求めているのはドルの価値です。キャッシュフローの符号が2回以上変わるとき、あるいはプロジェクトの規模やタイミングが違うときは、NPV で順位をつけましょう。

II可視化1 — IRR は1つか3つか

その後のキャッシュフローを6%未満ずらすだけで、1つだった IRR が3つになります。

III可視化2 — ソルバーはどこに落ち着くか

根を求める手法は、推測値から出発して接線をたどって進むので、どの IRR を返すかは推測値で決まります。

IV可視化3 — 増分による修正

IRR は常に A を1位にします。増分 B − A は、B が追加で投じるドルがハードルを超えるかどうかを問います。

V確認クイズ

問1 · 損益分岐となる2つの率

条件:あるプロジェクトは、今日 $400,000 かかり、1年後に $916,000 を受け取り、2年後に $524,160 を支払わなければなりません。その IRR をすべて求めてください。

✅ 正解です! キャッシュフローの符号は2回変わり(−, +, −)、二次方程式は2つの実数の根 x=1.12x = 1.12 と x=1.17x = 1.17 を持ちます。したがって IRR は 12%12\% と 17%17\% です。
❌ 符号を確かめましょう。 二次方程式の根は x=1+r=1.12x = 1+r = 1.12 と 1.171.17 です。1を引くと、正の率になります。
❌ もう少しです。 1.121.12 と 1.171.17 は、グロスの収益率 x=1+rx = 1 + r の値です。IRR は x−1x - 1 です。
❌ 惜しい! x=1.145x = 1.145 は二次式が最大になる点で、ゼロになる点ではありません。判別式が正の二次方程式には実数の根が2つあり、どちらも IRR です。
❌ 惜しい! NPV に (1+r)2(1+r)^2 をかけ、x=1+rx = 1 + r についての二次方程式を解きましょう。
解答を見る

NPV をゼロとおき、両辺に (1+r)2(1+r)^2 をかけて、x=1+rx = 1 + r と書きます。

−400,000 x2+916,000 x−524,160=0-400{,}000\,x^2 + 916{,}000\,x - 524{,}160 = 0

−40,000-40{,}000 で割ると、

10x2−22.9x+13.104=010x^2 - 22.9x + 13.104 = 0 x=22.9±22.92−4(10)(13.104)20=22.9±524.41−524.1620=22.9±0.520x = \frac{22.9 \pm \sqrt{22.9^2 - 4(10)(13.104)}}{20} = \frac{22.9 \pm \sqrt{524.41 - 524.16}}{20} = \frac{22.9 \pm 0.5}{20}

よって x=1.17x = 1.17 または x=1.12x = 1.12 で、IRR は r=17%r = 17\% と r=12%r = 12\% です。同じことを次のようにも書けます。

(1+r)2 NPV(r)=−400,000 (r−0.12)(r−0.17).(1+r)^2\,\text{NPV}(r) = -400{,}000\,(r - 0.12)(r - 0.17).

キャッシュフローの符号が2回変わる(−, +, −)ので根が2つありうるのですが、ここではその両方が実数です。

問2 · 2つの IRR がどちらもハードルを超える

条件:問1と同じプロジェクトで、今日 −$400,000、1年後に $916,000、2年後に −$524,160 のキャッシュフローがあり、IRR は 12%12\% と 17%17\% です。資本の機会費用は 11%11\% です。このプロジェクトを採択するかどうかを判断してください。

✅ 正解です! NPV が正になるのは2つの根のあいだだけです。両方の根より低い 11%11\% では、どの IRR もハードルを「超えて」いるのに、このプロジェクトは価値を失わせます。
❌ それが IRR の落とし穴です。 キャッシュフローが −, +, − なら、NPV は 12%12\% より下と 17%17\% より上で負になります。11%11\% では負なので、ここではハードルを超えることは何の意味も持ちません。
❌ 符号を確かめましょう。 (1.11−1.12)(1.11−1.17)=(−0.01)(−0.06)=+0.0006(1.11 - 1.12)(1.11 - 1.17) = (-0.01)(-0.06) = +0.0006 で、これに −400,000-400{,}000 をかけると負になります。
❌ 惜しい! いくつもある IRR から1つを選ぶ基準はありませんし、平均をとることも基準にはなりません。11%11\% での NPV を計算しましょう。
❌ 惜しい! 資本コストで NPV を計算しましょう。
解答を見る

問1の因数分解した形に r=0.11r = 0.11 を代入します。

(1.11)2 NPV(11%)=−400,000 (0.11−0.12)(0.11−0.17)=−400,000 (0.0006)=−240(1.11)^2\,\text{NPV}(11\%) = -400{,}000\,(0.11 - 0.12)(0.11 - 0.17) = -400{,}000\,(0.0006) = -240 NPV(11%)=−2401.2321≈−194.79\text{NPV}(11\%) = \frac{-240}{1.2321} \approx -194.79

NPV は約 −$194.79 と負なので、棄却です。最高次の係数が負なので、NPV が正になるのは 12%<r<17%12\% < r < 17\% のときだけです。11%11\% のハードルは両方の IRR より下にあり、「IRR がハードルを上回れば採択」という基準は間違った答えを出します。

問3 · 規模と増分

条件:資本コストが 11%11\% のもとで、期間1年の相互排他的なプロジェクトが2つあります。A:今日 −$200,000、1年後に $254,000(IRR 27%27\%)。B:今日 −$500,000、1年後に $610,000(IRR 22%22\%)。増分キャッシュフロー B − A の IRR を求め、プロジェクトを選んでください。

B − A の IRR

どちらのプロジェクトですか?

✅ 正解です! A は 11%11\% を超え、追加の $300,000 も約 18.7%18.7\% を稼ぐので、やはり 11%11\% を上回ります。B の NPV(約 $49,549.55)は A の NPV(約 $28,828.83)より大きくなります。
❌ もう少しです。 356,000/300,000≈1.187356{,}000 / 300{,}000 \approx 1.187 は 1+IRR1 + \text{IRR} です。1を引きましょう。
❌ 惜しい! 増分の IRR は、2つの IRR の差ではありません。キャッシュフローどうしを引き、その NPV をゼロにする率を求めます。
❌ 惜しい! IRR を平均しても意味はありません。増分は、今日 −$300,000、1年後に $356,000 です。
❌ それが規模の落とし穴です。 A の高い率が当てはまるのは $200,000 だけです。B で追加する $300,000 は約 18.7%18.7\% を稼ぎ、11%11\% の資本コストを上回るので、B のほうが多くのドルの価値を生みます。
❌ 増分を確かめましょう。 B − A は、今日 −$300,000、1年後に $356,000 です。
❌ 判断を確かめましょう。 増分の IRR を 11%11\% のハードルと比べます。
解答を見る

ステップ1:小さいほうのプロジェクトを確かめる。A の IRR 27%27\% は 11%11\% を超えています。

ステップ2:増分。B − A は、今日 −500,000−(−200,000)=−300,000-500{,}000 - (-200{,}000) = -300{,}000、1年後に 610,000−254,000=356,000610{,}000 - 254{,}000 = 356{,}000 です。

−300,000+356,0001+IRR=0  ⇒  1+IRR=356,000300,000=8975  ⇒  IRR=1475≈18.7%-300{,}000 + \frac{356{,}000}{1 + \text{IRR}} = 0 \;\Rightarrow\; 1 + \text{IRR} = \frac{356{,}000}{300{,}000} = \frac{89}{75} \;\Rightarrow\; \text{IRR} = \frac{14}{75} \approx 18.7\%

ステップ3:判断する。18.7%>11%18.7\% > 11\% なので、追加の投資を行います。B を選びます。

NPV で検算:

NPVA=−200,000+254,0001.11≈28,828.83,NPVB=−500,000+610,0001.11≈49,549.55\text{NPV}_A = -200{,}000 + \frac{254{,}000}{1.11} \approx 28{,}828.83, \qquad \text{NPV}_B = -500{,}000 + \frac{610{,}000}{1.11} \approx 49{,}549.55 NPV(Δ)=−300,000+356,0001.11≈20,720.72=49,549.55−28,828.83\text{NPV}(\Delta) = -300{,}000 + \frac{356{,}000}{1.11} \approx 20{,}720.72 = 49{,}549.55 - 28{,}828.83

問4 · タイミング:早く回収するか、永久年金か

条件:資本コストが 11%11\% のもとで、相互排他的なプロジェクトが2つあり、どちらも今日 $300,000 かかります。A は今後3年間、毎年末に $150,000 を支払います(IRR ≈23.4%\approx 23.4\%)。B は来年から毎年 $45,000 を永久に支払います(IRR 15%15\%)。増分 B − A の 11%11\% での NPV を求め、プロジェクトを選んでください。

11% での B − A の NPV

どちらのプロジェクトですか?

✅ 正解です! 増分の今日の価値は約 $42,533.70 で、ちょうど NPVB−NPVA\text{NPV}_B - \text{NPV}_A に等しくなります。IRR は低くても、B が勝ちます。
❌ もう少しです。 増分に含まれる $45,000 の永久年金は4年目に始まるので、45,000/0.1145{,}000/0.11 は3年目の時点での価値です。1.1131.11^3 で割り引きましょう。
❌ 惜しい! それは NPVB\text{NPV}_B だけです。増分では、A のキャッシュフローを年ごとに引きます。
❌ 惜しい! それは増分の1〜3年目しか数えていません。4年目以降、B − A は毎年 $45,000 が永久に続きます。
❌ それがタイミングの落とし穴です。 A の率が高いのは、早く回収できるからです。11%11\% で割り引くと、B の長く続くキャッシュフローのほうが価値が大きくなります。
❌ 惜しい! 早く回収できるほうを好むのは回収期間法の考え方で、B が3年目より後に支払う分をすべて無視しています。増分の NPV は正です。
❌ 増分を確かめましょう。 B − A は、今日 00、1〜3年目に −$105,000、その後は毎年 $45,000 が永久に続きます。
❌ 判断を確かめましょう。 増分の NPV が正なら、A から B に切り替えることで価値が増えます。
解答を見る

ステップ1:増分 B − A。0年目:−300,000−(−300,000)=0-300{,}000 - (-300{,}000) = 0。1〜3年目:45,000−150,000=−105,00045{,}000 - 150{,}000 = -105{,}000。4年目以降:毎年 45,00045{,}000 が永久に続きます。

ステップ2:11% で評価する。3年間の年金現価係数は 11.11+11.112+11.113≈2.44371472\frac{1}{1.11} + \frac{1}{1.11^2} + \frac{1}{1.11^3} \approx 2.44371472 です。4年目からの永久年金は、3年目の時点で 45,000/0.11≈409,090.9145{,}000/0.11 \approx 409{,}090.91 の価値があります。

NPV(Δ)≈−105,000(2.44371472)+409,090.911.113≈−256,590.05+299,123.75=42,533.70\text{NPV}(\Delta) \approx -105{,}000(2.44371472) + \frac{409{,}090.91}{1.11^3} \approx -256{,}590.05 + 299{,}123.75 = 42{,}533.70

ステップ3:検算。

NPVA≈150,000(2.44371472)−300,000≈66,557.21,NPVB=45,0000.11−300,000≈109,090.91\text{NPV}_A \approx 150{,}000(2.44371472) - 300{,}000 \approx 66{,}557.21, \qquad \text{NPV}_B = \frac{45{,}000}{0.11} - 300{,}000 \approx 109{,}090.91

109,090.91−66,557.21=42,533.70109{,}090.91 - 66{,}557.21 = 42{,}533.70 で、増分の NPV に一致します。増分の IRR は約 12.6%12.6\% で、11%11\% のハードルを上回ります。IRR法では A が1位ですが(23.4%23.4\% 対 15%15\%)、B を選びます。

正解数:0 / 4