ファイナンス理論 · 第21回 · 動画7 · インタラクティブ教材

符号だけではIRRは決まらない:NPVが見落とす政治

I重要な公式

公式名称説明
NPV=∑t=0kCFt xt,x=11+r\text{NPV} = \sum_{t=0}^{k} CF_t\,x^t,\quad x = \dfrac{1}{1+r}多項式としてのNPVkk 次の xx の多項式で、どのIRRもその零点
r>−100%  ⟺  x>0r > -100\% \iff x > 0認められる利率−100%-100\% を上回るIRRは、xx についての正の実数の零点
#IRRs=V−2m≥0,m=0,1,2,…\#\text{IRRs} = V - 2m \ge 0,\quad m = 0, 1, 2, \dotsデカルトの符号法則VV = CF0,CF1,…,CFkCF_0, CF_1, \dots, CF_k の符号の変化の回数。−100%-100\% を上回るIRRの個数は、VV か、それより偶数だけ少ない数(重なった零点は重複度の分だけ数える)
V=1  ⇒  IRRはちょうど1つV = 1 \;\Rightarrow\; \text{IRRはちょうど1つ}符号の変化が1回通常の流列(−- のあと ++)でも、ローン型の流列(++ のあと −-)でも成り立つ

ポイント:符号はIRRの個数の上限を決め、実際にどの個数になるかは大きさが決めます。4つの条件を外れると体系的な場合分けはできず、最終的な基準はNPVです。

II符号は同じでも、個数は違う

−$200、+$870、−$1,213、+CF3+CF_3 という流列は、ずっと − + − +-\,+\,-\,+ のパターンのままですが、IRRの個数は変わります。

💡 ここでは時点1のキャッシュフロー$870が、最初の−$200と符号が逆で、絶対値も大きくなっています。このユニットのこれまでの例すべてに共通していた特徴ですが、個数については何も決めません。

III符号の変化と横軸との交点

デカルトの符号法則によれば、IRRの個数は符号の変化の回数を超えません。符号の変化が1回なら、IRRはちょうど1つに決まります。

💡 チャレンジ:符号の変化が2回でIRRが2つある流列を作ってみてください。次に、符号の変化が2回でIRRが1つもない流列を作ってみてください。

IV確認クイズ

問1 · 符号の変化を数える

条件:あるプロジェクトのキャッシュフローは、時点0〜4に −$60、+$170、−$175、+$90、−$20 です。デカルトの符号法則によると、−100%-100\% を上回るIRRの個数としてありうるのはどれですか?

✅ 正解です! 符号 − + − + −-\,+\,-\,+\,- は4回変わるので、個数は 44 か、それより偶数だけ少ない数です。
❌ 惜しい! 符号の変化の回数は上限であって、個数そのものではありません。多項式の残りの零点が複素数かもしれないので、偶数だけ少なくなることがあります。
❌ 惜しい! 5つのキャッシュフローには隣り合う組が4つしかないので、符号の変化は最大4回です。数えるのはキャッシュフローの数ではなく、隣り合うキャッシュフローの間の変化です。
❌ 惜しい! 個数が符号の変化の回数から減るときは、2ずつしか減りません。実数係数の多項式では、複素数の零点が共役な組で現れるからです。
❌ 惜しい! 隣り合うキャッシュフローの間の符号の変化を数え、それより偶数だけ少ない数も認めてください。
解答を見る

x=1/(1+r)x = 1/(1+r) とおくと、NPVは4次式 −60+170x−175x2+90x3−20x4-60 + 170x - 175x^2 + 90x^3 - 20x^4 になり、r>−100%r > -100\% となるのはちょうど x>0x > 0 のときです。

符号の並び:− + − + −-\,+\,-\,+\,-。隣り合う組はすべて符号が反転するので、V=4V = 4 です。

デカルトの符号法則:−100%-100\% を上回るIRRの個数は、44、22、00 のいずれかです。

符号だけでは、どれになるかはわかりません。数値的に解くと、この流列にはたまたま2つあります:r≈−39.5%r \approx -39.5\% と r≈38.2%r \approx 38.2\% です。負のほうも −100%-100\% を上回っているので、数に入ります。

問2 · 共通の特徴はルールではない

条件:時点0〜3のキャッシュフローは −$400、+$1,400、−$1,629、+$630 です。同僚は、このユニットのこれまでの例と同じく、時点1のキャッシュフローが最初のキャッシュフローと符号が逆で絶対値も大きいことに気づき、このプロジェクトのIRRはちょうど1つだと結論づけました。利率 5%5\%、20%20\%、25%25\% を確かめてください。−100%-100\% を上回るIRRはいくつありますか?

✅ 正解です! 3つの利率はどれも、NPVをちょうどゼロにします。法則が許すのは最大3つなので、これですべてです。
❌ 惜しい! その特徴は、これまでの例にたまたま共通していただけで、ルールではありません。IRRが1つだと保証されるのは符号の変化が1回の場合だけで、この流列では3回です。
❌ 惜しい! 符号の変化が3回なら、IRRは3つか1つで、なしにはなりません。20%20\% を代入すると、NPVはちょうどゼロです。
❌ 惜しい! 符号の変化が3回なら、デカルトの符号法則が許すのは 33 か 11 です。2つはありえません。
❌ 惜しい! 3つの利率それぞれでNPVを計算してください。
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NPVの式に (1+r)3(1+r)^3 をかけ、g=1+rg = 1 + r とおきます:

−400g3+1400g2−1629g+630=0.-400g^3 + 1400g^2 - 1629g + 630 = 0.

因数分解の候補を展開します:

(g−1.05)(g−1.20)(g−1.25)=g3−3.5g2+4.0725g−1.575,(g - 1.05)(g - 1.20)(g - 1.25) = g^3 - 3.5g^2 + 4.0725g - 1.575,

これを −400-400 倍すると −400g3+1400g2−1629g+630-400g^3 + 1400g^2 - 1629g + 630 になります ✓。したがって 5%5\%、20%20\%、25%25\% はどれもIRRです。20%20\% で直接確かめると:

−400+14001.2−16291.22+6301.23=−4800+14000−13575+437512=0.-400 + \frac{1400}{1.2} - \frac{1629}{1.2^2} + \frac{630}{1.2^3} = \frac{-4800 + 14000 - 13575 + 4375}{12} = 0.

符号 − + − +-\,+\,-\,+ は3回変わるので、3つが最大です。この流列のIRRはちょうど3つです。符号が逆で絶対値の大きい時点1のキャッシュフローは、何も決めていませんでした。

問3 · 符号の変化が1回、正しく読む

条件:ある資金調達の取引で、企業は今日$205を受け取り、そのあと時点1、2、3に$36、$72、$216を支払います。資本コストは 25%25\% です。IRRの個数と判断を求めてください。

−100%-100\% を上回るIRRはいくつあり、どこにありますか?

資本コストが 25%25\% のとき、企業はこの取引を受けるべきですか?

✅ 正解です! 符号の変化が1回なので、IRRはちょうど1つ、20%20\% です。ローン型のキャッシュフローではルールが逆になり、25%25\% でのNPVは正です。
❌ 惜しい! 符号は + − − −+\,-\,-\,- で、変化は1回だけです。ですから法則により、IRRはちょうど1つです。
❌ 惜しい! ローン型のキャッシュフローにもIRRはあります。変わるのは、ルールでの読み方です。符号の変化が1回なら、IRRはちょうど1つに決まります。
❌ 惜しい! 25%25\% は資本コストで、IRRではありません。25%25\% では支払いの価値は 28.8+46.08+110.592=185.47228.8 + 46.08 + 110.592 = 185.472 で、受け取った$205より少ないので、25%25\% ではNPVはゼロになりません。
❌ 利率を確かめましょう。 各支払いを候補の利率で割り引き、受け取った$205と比べてください。
❌ 惜しい! 「IRRがハードルレートを上回れば採択」は、投資型のキャッシュフローのルールです。ここでは企業が先にお金を受け取るので、IRRは借入の金利です。資本コストを下回るときに採択します。
❌ 惜しい! 計算すると、205−28.8−46.08−110.592=19.528>0205 - 28.8 - 46.08 - 110.592 = 19.528 > 0 です。
❌ 惜しい! 25%25\% でのNPVを計算してください。
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個数。符号は + − − −+\,-\,-\,- で変化は1回なので、−100%-100\% を上回るIRRはちょうど1つです。

位置。20%20\% では、支払いの価値は

361.2+721.22+2161.23=30+50+125=205,\frac{36}{1.2} + \frac{72}{1.2^2} + \frac{216}{1.2^3} = 30 + 50 + 125 = 205,

となり、受け取った$205とちょうど等しくなります。ですからIRRは 20%20\% で、法則により、これが唯一のIRRです。

判断。資本コスト 25%25\% では、

NPV=205−361.25−721.252−2161.253=205−28.8−46.08−110.592=19.528,\text{NPV} = 205 - \frac{36}{1.25} - \frac{72}{1.25^2} - \frac{216}{1.25^3} = 205 - 28.8 - 46.08 - 110.592 = 19.528,

で、約+$19.53です。採択します。この取引は 20%20\% での借入で、この企業の資本コストは 25%25\% です。ローン型のキャッシュフローでは、IRR法は「IRRが資本コストを下回れば採択」に逆転します。

問4 · モデルが取りこぼすもの

条件:最高経営責任者(CEO)が、事業部を立て直すために、あなたを新しい事業部長として雇いました。着任して最初の四半期に、あなたは具体的な事業再編案を出します。その案が良いか悪いかは、まだ誰にもわかりません。

最も起こりやすい結果はどれですか?

こうした政治的な考慮は、上場企業の株価にすでに反映されていると考えてよいでしょうか?

✅ 正解です! どちらの答えも政治にかかっています。政治は損益(P&L)、NPV、資本コスト、リスク調整の外にありますが、企業の中でも市場でも、実際の意思決定を左右します。
❌ 惜しい! この予測は、案が賢いか愚かかを知らないまま立てるものなので、NPVやIRRの数字が決め手になることはありません。決め手は、雇われたばかりの人の立場です。
❌ 惜しい! 実績がないことは、逆向きに働きます。ある仕事のためにあなたを雇ったばかりの人は、あなたの判断を覆し始める前に、しばらくは任せるしかありません。
❌ 惜しい! CEOが何を知っているかを考えてください。案の良し悪しではなく、変革のためにあなたを雇ったばかりだということだけです。
❌ 惜しい! それこそが、動画が疑問を投げかけた伝統的な仮定です。アンドリュー・ローの見方では、リーマンの破綻を許したことを説明する経済的な理由があるのかどうかははっきりせず、政治的な説明ならありえます。
❌ 惜しい! 動画の答えは、単純なノーではありません。2008年には、個人投資家にとってさえ、政治が非常に大きな役割を果たしました。
❌ 惜しい! 2008年のベア・スターンズとリーマン・ブラザーズの対比を思い出してください。
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会社の中では。案の良し悪しを判断しなくても、結果は予測できます。CEOはおそらく同意します。事業部の立て直しのためにあなたを雇ったばかりの人は、しばらくはあなたを信じて任せるしかないからです。この予測は、損益(P&L)とも、NPVとも、資本コストやリスク調整とも関係ありません。それこそが「政治的な考慮」という言葉の意味であり、資本予算はそれを織り込まなければなりません。

市場では。答えはイエスでもありノーでもあります。ベア・スターンズは2008年3月、ニューヨーク連邦準備銀行の融資によって、JPモルガンとの合併に導かれました。一方、ある面ではそれ以上に大きく、より広く絡み合っていたリーマン・ブラザーズは、2008年9月15日に破産を申請しました。ローがあくまで憶測として示した推測は、ベアの救済への反発を受けて、2度目の救済は政治的にもう無理だった、というものです。個人投資家にとってさえ、政治は非常に大きな役割を果たしました。

NPVの最大化は、この講座の目的であることに変わりはありません。ただし、それははるかに複雑な現実の近似です。

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