ファイナンス理論 · 第7回 · 動画3 · インタラクティブ教材

裁定にはなぜ空売りが必要か:ストリップス債、取引コスト、2008年の空売り禁止

I重要な公式

公式名称説明
P=C P0,1+C P0,2+⋯+(C+F) P0,TP = C\,P_{0,1} + C\,P_{0,2} + \cdots + (C+F)\,P_{0,T}利付債 = そのストリップス債まったく同じキャッシュフローには一つの価格がつきます。動画の3年物、クーポン・レート5%の債券の価格は $961.36 です
P−[C P0,1+⋯+(C+F) P0,T]>0P - \big[C\,P_{0,1} + \cdots + (C+F)\,P_{0,T}\big] > 0今日の裁定利益債券を空売りし、各満期のストリップス債を CC 単位ずつ、さらに満期 TT のものを FF 単位追加で買います。その後のどの時点も差し引き0です(債券が $970.00 なら $8.64)
∣P−詰め合わせの費用∣>k+b\lvert P - \text{詰め合わせの費用} \rvert > k + b取引がもうかる条件kk は取引コスト、bb は空売りする側を借りるための貸借料です。これより小さいずれは残り、空売り禁止は b=∞b = \infty とすることにあたります
今日の現金=P−詰め合わせの費用\text{今日の現金} = P - \text{詰め合わせの費用}保有者の取引保有者が自分の持つ債券を売り、ストリップス債を買います。空売りは不要で、将来の受け取りも変わりません($110 − $100 = $10)

ポイント:この等式を成り立たせているのは、需要と供給の一致ではなく、取引です。空売りを奪うと、2つの価格を近づけられるのは割高な側の保有者だけになります。しかもその保有者は、ずれに気づき、行動できなければなりません。価格は近づきますが、ぴったりの等式にはなりません。

II摩擦が残す範囲

債券とそのストリップス債のずれが裁定になるのは、それが取引コストと貸借料の合計を上回るときだけです。

💡 貸借料の水準は説明のための例です。ローの議論に必要なのは、その大小関係だけです。3倍や4倍の貸借料なら範囲は有限のままですが、禁止すれば貸借料も範囲も無限大になります。ここと次のパネルの「禁止」の設定は、この債券については仮定の話です。2008年9月の命令の対象は金融会社の株で、米国債ではありませんでした。ただし、理屈はどんな証券でも同じです。

III空売りできなければ、売れるのは保有者だけ

空売り禁止のもとでは、割高な側をすでに持っている人がずれに気づき、取引できる場合にだけ、ずれが埋まります。

IV確認クイズ

問1 · 裁定取引

条件:額面 $1,000、年間クーポン $60 の3年物の債券の価格が $1,020.00 です。1ドルあたりのストリップス債の価格は P0,1=0.95P_{0,1} = 0.95、P0,2=0.90P_{0,2} = 0.90、P0,3=0.85P_{0,3} = 0.85 です。裁定取引の差し引きのキャッシュフローを求めてください。

✅ 正解です! 詰め合わせの費用は $1,012.00 なので、債券を $1,020.00 で空売りしてストリップス債を買うと $8.00 が手元に残ります。その後のストリップス債の支払いは、すべてそのまま債券の貸し手に渡ります。
❌ 惜しい! 債券と比べるのは、額面の $1,000 ではなく、そのストリップス債の詰め合わせの費用 $1,012.00 です。
❌ 惜しい! それは債券を買ってストリップス債を空売りする取引で、割高な側にお金を払い、割安な側を売っています。高いほうを売り、安いほうを買いましょう。
❌ 惜しい! ストリップス債の支払いは、あなたの手元には残りません。空売りした側として、債券の $60、$60、$1,060 を貸し手に支払う義務があり、ストリップス債はちょうどその額を支払うので、その後の時点は差し引きゼロです。
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債券を再現する詰め合わせは、1年物のストリップス債60単位、2年物60単位、3年物1,060単位です:

60(0.95)+60(0.90)+1,060(0.85)=57.00+54.00+901.00=1,012.0060(0.95) + 60(0.90) + 1{,}060(0.85) = 57.00 + 54.00 + 901.00 = 1{,}012.00

$1,020.00 の債券のほうが高いので、それを空売りし、詰め合わせを買います:

ポジション時点0時点1時点2時点3
利付債の空売り+1,020.00−60−60−1,060
ストリップス債の購入−1,012.00+60+60+1,060
差し引き+8.00000

今日 $8.00 を受け取り、その後の支払い義務はなく、自分のお金は一切いりません。

問2 · 取引コストの範囲内で

条件:動画の債券は、ストリップス債の詰め合わせの費用が $961.36 で、価格は $965.00 です。取引を実行するには、債券1本あたり合計 $5.00 かかります(スプレッド、手数料、貸借料)。裁定機会はありますか?

✅ 正解です! 価格の式は、取引コストの範囲内でしか成り立ちません。$3.64 のずれが残りうるのは、それを埋めるコストのほうが、得られる利益より大きいからです。
❌ 惜しい! $3.64 はコスト控除前のずれです。$5.00 を織り込んだうえで、なおもうけが出るかを確かめましょう:3.64 − 5.00 = −1.36。
❌ 惜しい! ある方向の取引が損になるからといって、逆の取引がもうかるわけではありません。割高な債券を買い、割安なストリップス債を空売りすると、ずれとコストの両方を失います:−3.64 − 5.00 = −8.64。
❌ 惜しい! ぴったりの等式は、摩擦のない理想化された世界の話です。コストがあれば、価格は $961.36 のまわりの範囲のどこにあっても、もうかる取引を生みません。
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債券のほうが割高なので、考えられる取引は、債券を空売りしてストリップス債を買うことです。コスト控除前に手元に残るのは

965.00−961.36=3.64965.00 - 961.36 = 3.64

$5.00 のコストを差し引くと

3.64−5.00=−1.363.64 - 5.00 = -1.36

価格 $965.00 は、$956.36 から $966.36 までの範囲 961.36±5.00961.36 \pm 5.00 の内側にあるので、ずれを埋めて利益を得られる人はおらず、ずれは残ります。

問3 · 禁止せず、コストを上げる

条件:ある債券の価格が、そのストリップス債の詰め合わせより $12.00 高くなっています。取引コストは債券1本あたり $2.50、債券を借りる通常の貸借料は $1.50 です。規制当局は空売りを禁止する代わりに、貸借料を4倍に引き上げます。

空売りによる裁定で、いま債券1本あたり差し引きいくら得られますか?

空売りによるもうかる取引が生じずに残りうる、最大のずれはいまいくらですか?

✅ 正解です! 4倍の貸借料は $6.00 なので、取引の差し引きは $3.50 で、埋められるのは $8.50 を超えるずれだけです。コストは高くなっても有限なので、取引はまだ行われます。
❌ 差し引きを確かめましょう。 新しい貸借料 4 × 1.50 = 6.00 を使って、ずれから両方の摩擦を差し引いてください。
❌ 範囲を確かめましょう。 ずれが取引コストと新しい貸借料の合計以下である限り、そのずれは残ります。
❌ 惜しい! それは、貸借料を無限大にする禁止がもたらす結果です。4倍の貸借料は有限なので、それを払ってもいい人には取引の道が残ります。
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新しい貸借料:b=4×1.50=6.00b = 4 \times 1.50 = 6.00。両方の摩擦を差し引くと:

12.00−2.50−6.00=3.5012.00 - 2.50 - 6.00 = 3.50

取引がもうかるのは、ずれが k+bk + b を超えるときだけです:

k+b=2.50+6.00=8.50k + b = 2.50 + 6.00 = 8.50

変更前の範囲は 2.50+1.50=4.002.50 + 1.50 = 4.00 で、取引の差し引きは $8.00 でした。変更後は範囲が $8.50、取引の差し引きは $3.50 です。禁止のもとでは b=∞b = \infty となり、空売りによる取引ではどんなずれも埋まりません。

問4 · 保有者の取引

条件:この債券の空売りは禁止されています(仮定の話です。2008年の命令は米国債を対象にしていませんでした)。ある年金基金が、額面 $1,000、年間クーポン $70 の2年物の債券を保有しており、その価格は $1,015.00 です。ストリップス債の価格は P0,1=0.94P_{0,1} = 0.94、P0,2=0.88P_{0,2} = 0.88 です。それでもずれを縮められるのは何で、いくら得られますか?

✅ 正解です! 自分が持っているものを売るのに、空売りは必要ありません。基金がずれに気づき、取引できるなら、その売りが価格を近づけます。ただし、ぴったりの等式になる保証はありません。
❌ 惜しい! 金額は合っていますが、その取引は空売りから始まります。それこそが禁止されていることです。
❌ 惜しい! 基金は債券をそのストリップス債の詰め合わせに置き換えます。その費用は額面の $1,000 ではなく、$1,007.40 です。
❌ 惜しい! 禁止で止められるのは、債券を持っていない人です。割高な側をすでに持っている人なら、まだそれを売れます。
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債券の $70 と $1,070 を再現する詰め合わせは:

70(0.94)+1,070(0.88)=65.80+941.60=1,007.4070(0.94) + 1{,}070(0.88) = 65.80 + 941.60 = 1{,}007.40

基金は保有する債券を $1,015.00 で売り、詰め合わせを買います:

1,015.00−1,007.40=7.601{,}015.00 - 1{,}007.40 = 7.60

将来の受け取りは変わりません。時点1に $70、時点2に $1,070 で、いまはストリップス債が支払います。借入は一切ありません。この取引が行われるかどうかは、基金がずれを知っていて、取引する意思と能力があるかどうかにかかっています。だから禁止のもとでは、価格は近づいても、ぴったり一致するとは限らないのです。

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