ファイナンス理論 · 第9回 · 動画1 · インタラクティブ教材

普通株はなぜイノベーションを支えるのか:残余請求権・有限責任・議決権・空売り

I重要な公式

公式名称説明
債券保有者=min⁡(V, F)\text{債券保有者} = \min(V,\ F)上限のある第一の請求権VV は負債の返済期日における企業の価値、FF は約束された支払い(額面とクーポンの合計)です(動画のペイオフ図に合わせた当サイトの記号)。債券保有者は最初に支払いを受けますが、FF を超えて受け取ることはありません
株主=max⁡(V−F, 0)\text{株主} = \max(V - F,\ 0)有限責任つきの残余請求権債券保有者に支払った後に残るすべてで、天井はありません。00 に床があるので、株主が失いうるのは最大でも自分が出した額までです
株式の価値=配当+キャピタル・ゲイン\text{株式の価値} = \text{配当} + \text{キャピタル・ゲイン}株の価値の2つの部分現金配当または株式配当(成長企業は払わないことが多い)と、売ることで手にする値上がり益です。債券の約束されたクーポンと違い、どちらも金額とタイミングが不確実です
空売りの利益=P売却−P買い戻し\text{空売りの利益} = P_{\text{売却}} - P_{\text{買い戻し}}空売り(1株あたり)株を借りて売り、後で買い戻して返します。価格が下がれば利益が出るので、悪いニュースが価格に届く経路の1つになります

ポイント:2つの請求権は企業をぴったり分け合います:min⁡(V,F)+max⁡(V−F,0)=V\min(V, F) + \max(V - F, 0) = V。債券保有者の取り分に上限があるので、上値(アップサイド)はすべて株主のものになり、有限責任は株主の下値を出資額までに抑えます。そこに大勢の所有者のための議決権と、彼らを呼び込む公開市場が加われば、株式は、リスクが高く野心的な事業に資金を出すための仕組みになります。

II上限のある請求権と残余請求権

債券保有者が約束された額を超えて受け取ることはありません。株主はそれを上回る分をすべて受け取り、有限責任のもとでは、失うのは最大でも出資額までです。

III8回の倒産、そして9社目

有限責任があったから、ロー教授が紹介した講演者は8回の倒産から手を引いて次に挑めました。1回失敗したら終わりというルールなら、最初の1社で止まっていたはずです。

IV空売りが悪いニュースを価格に取り込む

株が無価値だと知っていても空売りできないトレーダーは、価格が0に近づくずっと前に、売る株がなくなってしまいます。

💡 講座の前半で取り上げた2008年9月のSECによる空売り禁止は、金融株だけが対象でした。それらの株については、この経路が断たれたことになります。

V確認クイズ

問1 · 満期に誰が何を受け取るか

条件:ある企業の債券保有者は、額面1億ドルと最終クーポン1,000万ドルを今日受け取ることになっています。企業の資産の価値は5億ドルです。株主が受け取る額を求めてください。

✅ 正解です! 債券保有者が約束された 100+10=110100 + 10 = 110(単位:100万ドル)を先に受け取り、残りの 500−110=390500 - 110 = 390 が株主のものになります。
❌ 惜しいですが… 債券保有者の請求権は、額面に途中のクーポンを加えた額です。額面の1億ドルだけでなく、1億1,000万ドル全体を差し引きます。
❌ 惜しい! 株主は残余請求権者です。最初に支払いを受ける債券保有者の後ろに並びます。
❌ 惜しい! 1億1,000万ドルは、上限のある債券保有者の請求権です。株主はそれ以外のすべてを受け取ります。
❌ 惜しい! まず債券保有者に約束された支払いをします。株主が受け取るのは、その残りです。
解答を見る

単位を100万ドルとすると、約束された支払いは F=100+10=110F = 100 + 10 = 110、企業の価値は V=500V = 500 です。

債券保有者=min⁡(500, 110)=110\text{債券保有者} = \min(500,\ 110) = 110 株主=max⁡(500−110, 0)=390\text{株主} = \max(500 - 110,\ 0) = 390

株主が受け取るのは3億9,000万ドルです。企業の価値がもし50億ドルだったとしても、債券保有者が受け取るのは1億1,000万ドルのままで、増えた1ドル1ドルはすべて株主のものになります。債券保有者の請求権には上限があり、残余にはありません。

問2 · 失いうる最大の額

条件:あなたはあるスタートアップの普通株を$50,000分買います。そのスタートアップは、債権者に300万ドルの債務を負ったまま倒産し、資産の価値は100万ドルしかありません。株主としてあなたが失いうる最大の額を求めてください。

✅ 正解です! 有限責任です。株主が失いうるのは最大で、自分が出したお金の全部であって、持っているものすべてではありません。債権者が100万ドルの資産を受け取り、残りの損失を負担します。
❌ 惜しい! 200万ドルの不足額は債権者の損失です。株主は出資額を超えて何も負いません。
❌ 惜しい! それは無限責任のもとでの損失です。近代的な株式会社が登場する前の世界では、所有者が会社の債務を肩代わりしなければなりませんでした。
❌ 惜しい! 「全部」とは自分が出したお金の全部のことで、家や貯金や自由ではありません。それを保証するのが有限責任です。
解答を見る

単位を100万ドルとすると、債権者への債務は F=3F = 3、企業の価値は V=1V = 1 です:

債権者=min⁡(1, 3)=1,株主=max⁡(1−3, 0)=0\text{債権者} = \min(1,\ 3) = 1, \qquad \text{株主} = \max(1 - 3,\ 0) = 0

あなたの株は何も払わないので、株に払った$50,000を失いますが、それ以上は1セントも失いません。不足額 3−1=23 - 1 = 2(100万ドル)は債権者が負担します。無限責任のもとでは、その200万ドルをあなたが個人で負うことになり、昔なら、返せなければ牢屋に入れられることもありえました。

問3 · 天井のない上値と上限のある上値

条件:創業者が企業に200万ドルの自己資本を出資し、銀行が企業に500万ドルを期間1年、金利8%で貸すので、企業は540万ドルを返済しなければなりません。企業は有限責任です。以下のそれぞれのリターンを求めてください。

1年後に企業の価値が1,240万ドルなら、創業者のリターンは

代わりに企業の価値が400万ドルなら、銀行のリターンは

✅ 正解です! 良い状態では、創業者が +250%+250\% を得る一方、銀行は上限の +8%+8\% にとどまります。悪い状態では、銀行が400万ドル全部を受け取っても 20%20\% の損失を出し、創業者は200万ドルの出資を失いますが、それ以上は失いません。
❌ 惜しいですが… 創業者が受け取るのは700万ドルで、出資額の 3.5×3.5\times です。リターンは出した200万ドルを差し引いて求めます:(7.0−2.0)/2.0=250%(7.0 - 2.0)/2.0 = 250\%。
❌ 惜しい! 12.4/2.0−112.4/2.0 - 1 は企業全体を創業者のものとして扱っています。銀行が先に540万ドルを受け取ります。
❌ 惜しい! 12.4/5.0−112.4/5.0 - 1 は融資額で割っています。創業者のリターンは、残余 12.4−5.412.4 - 5.4 を創業者自身の200万ドルと比べたものです。
❌ 惜しい! +8%+8\% は約束されたリターンで、銀行が得られる最大のリターンです。企業に400万ドルしかなければ、全額は支払われません。
❌ 惜しいですが… 4.0/5.4−14.0/5.4 - 1 は、受け取る額を約束された額と比べています。リターンは、銀行が実際に貸した500万ドルと比べて測ります。
❌ 惜しい! −100%-100\% はこの状態での創業者のリターンです。列の先頭にいる銀行は、400万ドルをすべて受け取ります。
❌ 創業者のリターンを確かめましょう。 まず銀行に540万ドルを払い、残りを200万ドルの出資額と比べます。
❌ 銀行のリターンを確かめましょう。 銀行が受け取るのは min⁡(V,5.4)\min(V, 5.4) です。それを貸した500万ドルと比べます。
解答を見る

単位を100万ドルとすると、F=5.0×1.08=5.4F = 5.0 \times 1.08 = 5.4 です。

企業の価値が12.4の場合:銀行は min⁡(12.4,5.4)=5.4\min(12.4, 5.4) = 5.4 を受け取り、リターンは 5.4/5.0−1=8%5.4/5.0 - 1 = 8\% です。創業者が受け取るのは

max⁡(12.4−5.4, 0)=7.0,rE=7.0−2.02.0=2.50=250%\max(12.4 - 5.4,\ 0) = 7.0, \qquad r_E = \frac{7.0 - 2.0}{2.0} = 2.50 = 250\%

企業の価値が4.0の場合:銀行がすべてを受け取ります。min⁡(4.0,5.4)=4.0\min(4.0, 5.4) = 4.0 なので:

rB=4.0−5.05.0=−0.20=−20%r_B = \frac{4.0 - 5.0}{5.0} = -0.20 = -20\%

創業者が受け取るのは max⁡(4.0−5.4,0)=0\max(4.0 - 5.4, 0) = 0 で、リターンは −100%-100\% です。損失は200万ドルの出資額で止まります。銀行のリターンが +8%+8\% を上回ることはありませんが、創業者のリターンには天井がありません。

問4 · 悪いニュースで利益を得る

条件:あるトレーダーが200株を借り、1株$25で空売りします。悪いニュースが市場に届いて価格は$5まで下がり、トレーダーは200株を買い戻して返します。トレーダーの損益を求めてください。

✅ 正解です! 200×25=5000200 \times 25 = 5000 で売り、200×5=1000200 \times 5 = 1000 で買い戻したので、$4,000の利益です。空売りは価格が下がると利益が出るので、悪いニュースを価格に押し込む働きをします。
❌ 向きを確かめましょう。 価格の下落で損をするのは、株を持っている人です。空売りをする人は先に売って後で買い戻すので、下落は利益になります。
❌ 惜しい! $5,000は空売りで得た代金ですが、借りた株は買い戻して返さなければならず、それに$1,000かかります。
❌ 惜しい! $1,000は株を買い戻す費用です。利益は、売却代金からその費用を引いたものです。
❌ 惜しい! 1株あたりの利益は P売却−P買い戻しP_{\text{売却}} - P_{\text{買い戻し}} です。それに株数を掛けます。
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1株あたりの利益=P売却−P買い戻し=25−5=20\text{1株あたりの利益} = P_{\text{売却}} - P_{\text{買い戻し}} = 25 - 5 = 20 利益の合計=200×20=4000\text{利益の合計} = 200 \times 20 = 4000

トレーダーの利益は$4,000です。空売りのたびに、トレーダーが割高だと考える株に売りの圧力が加わるので、株を持っていないトレーダーでも、価格を悪いニュースのほうへ動かせます。空売りが禁止されていれば、このトレーダーはそのニュースにまったく反応できなかったはずです。

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