ファイナンス理論 · 第9回 · 動画2 · インタラクティブ教材

一つの株に二つの市場:新規発行は景気で浮き沈み、売買は揺れが小さい

I重要な公式

公式名称説明
会社に入る現金=∑発行市場での売却株数×価格\text{会社に入る現金} = \sum_{\text{発行市場での売却}} \text{株数} \times \text{価格}発行市場と流通市場発行した会社の資金になるのは、その株が最初に売られるときだけです。ベンチャー・キャピタルによる私的な資金調達、IPO、その後の公募増資がそれにあたります。流通市場での転売では、お金は売った投資家に入り、会社には入りません
スプレッド=P売り気配−P買い気配\text{スプレッド} = P_{\text{売り気配}} - P_{\text{買い気配}}ビッド・アスク・スプレッド仲介業者を通すと、買うときは売り気配で買い、売るときは買い気配で売ることになります。この2つの差が仲介業者の取り分です
P仲値=12(P買い気配+P売り気配),P売り気配−P仲値=P仲値−P買い気配=12 スプレッドP_{\text{仲値}} = \tfrac{1}{2}\left(P_{\text{買い気配}} + P_{\text{売り気配}}\right),\quad P_{\text{売り気配}} - P_{\text{仲値}} = P_{\text{仲値}} - P_{\text{買い気配}} = \tfrac{1}{2}\,\text{スプレッド}ECNでの仲値の取引ECN では買い手と売り手が仲介業者を通さず、スプレッドの真ん中(仲値)で取引するので、それぞれがスプレッドの半分を節約できます
%Δ=X終わり−X始めX始め\%\Delta = \dfrac{X_{\text{終わり}} - X_{\text{始め}}}{X_{\text{始め}}}変化率(当サイトの物差し)単位の異なる系列を1つの尺度にそろえます。2000年から2001年のIPOの調達額は 36−7676≈−52.6%\tfrac{36 - 76}{76} \approx -52.6\%、同じ1年のニューヨーク証券取引所の売買高は 1240−10421042≈+19.0%\tfrac{1240 - 1042}{1042} \approx +19.0\%

ポイント:発行市場(プライマリー市場)は会社のために資金を集める市場で、景気循環と信用循環に合わせて浮き沈みします。既存の株が投資家から投資家へと渡っていく流通市場(セカンダリー市場)は価格を決める市場で、その売買高は長い目で見れば、新規発行よりずっと小さな振れ幅で伸びてきました。

II会社にお金が入るのは最初の売却だけ

説明用の数字で見ると、会社に現金が入るのは発行市場での売却だけで、それ以外の売却はすべて投資家どうしの取引です。

III新規発行は大きく揺れ、売買は伸びる

1990年から2004年にかけて、IPOの調達額は景気の周期とともに膨らんでは崩れましたが、ニューヨーク証券取引所の売買高はほぼ毎年伸びました。

💡 金融危機の年で、売買も活発だった2008年の後、このパターンは崩れました。米国のすべての取引の場を合わせて数えると、売買高はその後の数年でおよそ3分の1減り、記録を更新したのは2020年代に入ってからです。2025年は1日平均176億株、2026年は8月までで1日平均193億株でした(米国証券業金融市場協会、SIFMA)。

IV仲介業者を通さない

説明用の価格で見ると、仲値で取引すれば、仲介業者の取り分だったスプレッドを買い手と売り手が等分します。

💡 その後、電子執行は取引を上場先の取引所の外へと移しました。2025年には、取引所外の場(代替取引システムとブローカー・ディーラー)が米国の統合売買高全体の50.6%を扱い、はじめて半分を超えました。2026年もここまで半分弱です。

V確認クイズ

問1 · お金はどこへ行くか

条件:株の売却が4つあります。売られる株の発行会社に新しいお金を入れるのはどれでしょうか。

✅ 正解です! 公募増資は発行市場での売却です。株が新しく発行されるので、現金は会社に入ります。
❌ 惜しい! これはベンチャー・キャピタリストが公開市場の価格で現金化する取引です。株はすでに存在しているので、お金は会社ではなく、ベンチャー・キャピタル・パートナーシップに入ります。
❌ 惜しい! ECNは流通市場の取引の場です。既存の株がある投資家から別の投資家に渡るだけで、会社には何も入りません。
❌ 惜しい! 既存の株の転売は、価格がいくらであっても流通市場での取引です。お金は売った投資家に入ります。
解答を見る

発行した会社の資金になるのは、その株の最初の売却だけです。発行市場には、ベンチャー・キャピタル・パートナーシップへの私的な売却、IPO、そしてすでに上場している会社の場合は、追加の株を発行する公募増資が含まれます。

選択肢 (a)、(b)、(d) はどれも、すでに存在する株の転売です。取引の場がニューヨーク証券取引所でもECNでも、売り手が誰であっても、流通市場での持ち主から持ち主への取引です。新しい株を発行するのは (c) だけなので、会社に現金が入るのも (c) だけです。

問2 · スプレッドの半分

条件:ディーラーが買い気配$40.00、売り気配$40.12を提示しています(説明用の価格)。5,000株の大口の買い手と大口の売り手が、代わりにECNで出会い、仲値で取引します。ディーラーから買う場合と比べて、買い手は合計でいくら節約できるでしょうか。

✅ 正解です! 買い手は売り気配の$40.12ではなく仲値の$40.06を払うので、5,000株の1株ごとに$0.06を節約します。
❌ 惜しいですが… $600は5,000株分のスプレッド全体で、ディーラーの取り分のすべてです。仲値での取引ではこの節約分を分け合い、半分を買い手が、半分を売り手が得ます。
❌ 惜しい! 2回半分にしています。仲値は売り気配よりスプレッドの半分だけ低いので、買い手の1株あたりの節約は$0.03ではなく$0.06です。
❌ 惜しい! それは買い手が仲値で払う合計額で、節約額ではありません。
解答を見る

スプレッドは売り気配から買い気配を引いたもので、1株あたり$40.12 − $40.00 = $0.12です。仲値は

P仲値=12(40.00+40.12)=40.06P_{\text{仲値}} = \tfrac{1}{2}(40.00 + 40.12) = 40.06

なので、買い手は$40.12ではなく$40.06を払い、1株あたり$0.06、つまりスプレッドの半分を節約します。5,000株では:

5,000×0.06=3005{,}000 \times 0.06 = 300

買い手の節約額は$300です。売り手も買い気配の$40.00ではなく$40.06を受け取り、残りの$300を得ます。ディーラーに渡るはずだった$600を、2人で分け合うわけです。

問3 · 2つの市場と1つの景気後退

条件:講義スライドによると、米国のIPOの調達額は2000年に760億ドル、2003年に160億ドルで、ニューヨーク証券取引所の1日平均売買高は、それぞれ1日10億4,200万株と13億9,800万株でした。2000年から2003年への変化率を、それぞれ求めてください。

IPOの調達額の変化率は?

ニューヨーク証券取引所の売買高の変化率は?

✅ 正解です! IPOの調達額がほぼ5分の4減った一方で、既存の株の売買は約3分の1増えました。同じ景気後退の中で、2つの市場は逆の方向に動いたのです。
❌ 基準を確かめましょう。 変化率は、終わりの値(2003年)ではなく、始めの値(2000年)を基準に測ります。
❌ 率になっていません。 それは元の単位(10億ドル、または1日あたり100万株)での変化です。始めの値で割ります。
❌ あと一歩! それは終わりの値と始めの値の比を、変化率のように書いたものです。先に比から1を引きます。
❌ IPOの変化を確かめましょう。 始めの値を76として、(終わり − 始め)/始め を使います。
❌ 売買高の変化を確かめましょう。 始めの値を1,042として、(終わり − 始め)/始め を使います。
解答を見る

IPOの調達額(10億ドル)。始め76、終わり16:

%Δ=16−7676=−6076≈−0.789=−78.9%\%\Delta = \frac{16 - 76}{76} = \frac{-60}{76} \approx -0.789 = -78.9\%

ニューヨーク証券取引所の売買高(1日あたり100万株)。始め1,042、終わり1,398:

%Δ=1398−10421042=3561042≈0.342=+34.2%\%\Delta = \frac{1398 - 1042}{1042} = \frac{356}{1042} \approx 0.342 = +34.2\%

発行市場は景気の周期とともに崩れましたが、流通市場の売買は増え続けました。ただし、売買高は2002年(1,441)から2003年にかけてわずかに減っています。

問4 · 成長率を元に戻す

条件:米国株の売買高は、2025年に1日平均176億株と過去最高を記録し、2024年から44.6%増えました。この2つの数字から、2024年の1日平均はいくらになるでしょうか。

✅ 正解です! 17.6は2024年の数字の144.6%なので、2024年は 17.6 / 1.446 ≈ 12.2、つまり1日約122億株でした。
❌ 惜しいですが… 17.6から44.6%を引くと、違う基準から変化を測ることになります。44.6%は2024年の数字に対する割合なので、1 − 0.446 を掛けるのではなく、1.446 で割ります。
❌ 惜しい! 1.446を掛けると、2025年の数字をさらに44.6%増やすことになります。1年さかのぼるには割ります。
❌ 惜しい! 44.6%は割合で、4億4,600万株(0.446 × 10億株)ではありません。2024年の数字全体に掛かる率です。
解答を見る

44.6%の伸びとは、2025年の数字が2024年の数字の 1.4461.446 倍だということです:

V2025=V2024×(1+0.446)⟹V2024=17.61.446≈12.17V_{2025} = V_{2024} \times (1 + 0.446) \quad\Longrightarrow\quad V_{2024} = \frac{17.6}{1.446} \approx 12.17

2024年の1日平均は、およそ1日122億株です。検算:12.17×1.446≈17.612.17 \times 1.446 \approx 17.6。

17.6×(1−0.446)≈9.7517.6 \times (1 - 0.446) \approx 9.75 という近道に頼りたくなりますが、うまくいきません。44.6%の増加と44.6%の減少とでは、基準が違うからです。

正解数:0 / 4