ファイナンス理論 · 第9回 · 動画4 · インタラクティブ教材

割引率を決めるのは会社ではなく市場:配当ごとのリスク調整後割引率

I重要な公式

公式名称必要なもの
Pt=∑k=1∞Et[Dt+k](1+rt+k)kP_t = \displaystyle\sum_{k=1}^{\infty} \frac{\mathsf{E}_t[D_{t+k}]}{(1+r_{t+k})^k}配当割引モデル各項に期待配当1つと率1つ。どの分母にもそれぞれ自分の添字がつきます
Dt+1D_{t+1} が無リスクなら rt+1=rfr_{t+1} = r_f、リスクのある配当では  rt+k>rf\ r_{t+k} > r_fリスク調整後の率すぐ上にある配当のリスクに見合った率。2つの配当のうちリスクの高いほうに高い率がつきます
Pt=∑k(単独で買う Dt+k の市場価格)P_t = \displaystyle\sum_{k} \big(\text{単独で買う } D_{t+k} \text{ の市場価格}\big)複製ポートフォリオそのリスクとその日付のキャッシュフローに市場がつける価格。債券の価格評価に、リスクという次元を1つ加えたものです
(1+rt+k)k=(1+rˉk)τk(1+r_{t+k})^k = (1+\bar r_k)^{\tau_k}等間隔でない日付(ここでの定式化)τk\tau_k 年後に支払われる配当 kk を年あたりの率 rˉk\bar r_k で評価すると、期間の差は rt+kr_{t+k} に吸収されます

ポイント:分子、つまり配当は、払える範囲で会社が選びます。分母はすべて市場が選びます。rt+kr_{t+k} は、その期間にその配当のリスクを負うことに市場がつける価格であり、会社の社債利回りでも、表明した方針でも、経営陣の一存でもありません。

II配当ごとに自分の率で

株は配当の束です。それぞれの配当にはそのリスクに対する市場の率で価格がつき、その価格を足し合わせたものが株価になります。

💡 社債利回りで割り引くと、一般に株の価格を誤ります。株は残余請求権で、債券保有者の後にしか支払いを受けないからです。レバレッジが両者をどう結びつけるかは資本構成の話で、講座の後半で扱います。

III同じ配当でも、リスクが高いほど価値は低い

期待配当が同じなら、リスク調整後の率が高いほど現在価値は小さくなり、期間が長いほどその差は大きくなります。

💡 この3つの率はローが説明のために挙げた数字で、実際の株についての推定値ではありません。どれを選ぶかを決めるにはリスクの尺度が必要で、それは講座の後半で登場します。

IV等間隔でない日付は率に吸収される

配当の日付が等間隔でないとき、公式は指数 kk をそのまま保ち、期間の差は rt+kr_{t+k} に移ります。

💡 年あたりの率 rˉ\bar r とこの換算は、ここでの定式化です。動画が述べているのは、期間の差がそれぞれの率の大きさに吸収される、ということだけです。

V確認クイズ

問1 · 2つの配当、2つの率

条件:ある株の次の2回の配当だけに対する請求権があります。1回目は1年後に期待値$2で、本当に無リスクです。無リスク金利は2.5%です。2回目は2年後に期待値$2でリスクがあり、市場はそのリスクのキャッシュフローを年6.5%で評価しています。この請求権の今日の価格を求めてください。

✅ 正解です! 配当はそれぞれ自分の率の上に乗ります。無リスクの配当は rfr_f で、リスクのある配当はそのリスク調整後の率で割り引きます。
❌ 惜しい! それは2つの配当をどちらも2.5%の無リスク金利で割り引いています。無リスクなのは1回目の配当だけで、2回目はより高いリスク調整後の6.5%で割り引かなければなりません。
❌ 惜しい!指数を確認してください。 2回目の配当は2年後なので、分母は (1.065)2(1.065)^2 で、1.0651.065 ではありません。
❌ 惜しい! それは2つの配当をどちらも6.5%で割り引いています。1回目の配当は無リスクなので、リスクのある配当の率ではなく、2.5%の無リスク金利を使います。
❌ 惜しい! 配当を1つずつ自分の率で評価してから、足し合わせてください。
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配当割引モデルの各項には、それぞれ自分の率があります:

Pt=Et[Dt+1]1+rt+1+Et[Dt+2](1+rt+2)2=21.025+2(1.065)2P_t = \frac{\mathsf{E}_t[D_{t+1}]}{1+r_{t+1}} + \frac{\mathsf{E}_t[D_{t+2}]}{(1+r_{t+2})^2} = \frac{2}{1.025} + \frac{2}{(1.065)^2}

1つ目の項は約$1.95、2つ目の項は約$1.76です(1.0652=1.1342251.065^2 = 1.134225 なので)。したがって、請求権の価値は約$1.95 + $1.76 = $3.71です。

2つの項に1つの率(2.5%か6.5%)を使うと、$3.85か$3.64になります。前者はリスクのある配当を高く評価しすぎ、後者は無リスクの配当を低く評価しすぎています。

問2 · 社債利回りという近道

条件:ある会社の社債の利回りは年5%です。市場は、この会社の配当と同じだけリスクのあるキャッシュフローを年8.9%で評価しています。ある請求権は、2年後に期待される1回の配当$4を支払います。この請求権の価格を求めてください。

✅ 正解です! 率は、配当のリスクに市場がつける価格である8.9%で、会社の社債利回りではありません。
❌ それはつい使いたくなる近道です。 5%の社債利回りで割り引いてよいのは、社債と株のリスクが同程度のときだけで、一般にはそうではありません。株は残余請求権で、債券保有者の後に支払いを受けるからです。
❌ 惜しい!指数を確認してください。 配当は2年後なので、分母は (1.089)2(1.089)^2 です。
❌ 惜しい! それは単利の 1+2×0.089=1.1781 + 2 \times 0.089 = 1.178 で割っています。割引は複利で行うので、分母は (1.089)2=1.185921(1.089)^2 = 1.185921 です。
❌ 惜しい! $4を、そのリスクに対する市場の率で2年分割り引いてください。
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分母の率は、このリスクのキャッシュフローに対して市場が決めます:

Et[Dt+2](1+rt+2)2=4(1.089)2=41.185921≈3.37\frac{\mathsf{E}_t[D_{t+2}]}{(1+r_{t+2})^2} = \frac{4}{(1.089)^2} = \frac{4}{1.185921} \approx 3.37

請求権の価値は約$3.37です。社債利回りの近道では 4/(1.05)2=4/1.10254/(1.05)^2 = 4/1.1025 で約$3.63となり、価格を約$0.26高く見積もってしまいます。より安全な請求権に属する率を使っているからです。

問3 · 等間隔でない配当

条件:モデルの2つ目の項 Et[Dt+2]/(1+rt+2)2\mathsf{E}_t[D_{t+2}]/(1+r_{t+2})^2 は、今日からわずか1.5年後に支払われる配当のものです。市場は、そのリスクのキャッシュフローに年7.3%を求めています(ここでの年あたりの表し方)。指数を2のまま保ったとき、その分母に入る率 rt+2r_{t+2} を求めてください。

✅ 正解です! 短い期間はより小さい rt+2r_{t+2} に吸収されるので、この項はやはり配当をちょうど1.5年分割り引きます。
❌ 惜しい!それは率を比例で縮めています。 7.3%×0.75=5.475%7.3\% \times 0.75 = 5.475\% は複利を無視しています。割引係数をそろえてください:(1+rt+2)2=1.0731.5(1+r_{t+2})^2 = 1.073^{1.5}。
❌ 惜しい! 7.3%を指数2で使うと配当をまる2年分割り引くことになりますが、配当は1.5年後に入ります。期間の差は率に吸収させなければなりません。
❌ 惜しい! 1.0731.5−1≈11.15%1.073^{1.5} - 1 \approx 11.15\% は1.5年間の合計のリターンで、公式の1期分の率ではありません。公式は 1+rt+21 + r_{t+2} を2乗するので、先に平方根を取ってください。
❌ 惜しい! (1+rt+2)2(1+r_{t+2})^2 を、1.5年分の本当の割引係数に等しいとおいてください。
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この配当の本当の割引係数は 1.0731.5≈1.11151.073^{1.5} \approx 1.1115 です。公式はこれを (1+rt+2)2(1+r_{t+2})^2 と書くので、

(1+rt+2)2=1.0731.5⟹rt+2=1.0730.75−1≈0.0543(1+r_{t+2})^2 = 1.073^{1.5} \quad\Longrightarrow\quad r_{t+2} = 1.073^{0.75} - 1 \approx 0.0543

したがって rt+2≈5.43%r_{t+2} \approx 5.43\% です。確認:1.05432≈1.11151.0543^2 \approx 1.1115。この配当の前の間隔が1年より短いことが、年あたりの7.3%より低い率として表れています。

問4 · 率を決めるのは誰か

条件:ある最高財務責任者(CFO)が「当社の社債の利回りは5%なので、今後、当社は配当を5%で評価します」と発表しました。翌月、市場はこの会社の配当を以前よりリスクが高いとみなすようになりました。摩擦のない理論では、各配当の分母にある率 rt+kr_{t+k} はどうなるでしょうか。

✅ 正解です! あの経済学者の給料と同じで、率を決めるのは組織ではなく市場です。会社が選ぶのは配当だけです。
❌ 惜しい! 割引率は、命令で決まるものでも、会社の方針を発表して決まるものでもありません。リスクの高い配当は、資本を引き寄せるために、より高いリターンを約束しなければなりません。
❌ 惜しい! 各項がそれぞれ自分の率を持つ理由の1つは期間ですが、もう1つの理由がリスクです。同じ期間でもリスクが大きければ、率は高くなります。
❌ 惜しい! 分子は期待配当です。そのリスクは分母で価格に反映され、リスクが大きいほど率は上がります。
❌ 惜しい! このリスクのキャッシュフローに対して、市場がどんな公正な収益率を求めているかを考えてください。
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摩擦のない理論では、各 rt+kr_{t+k} は、その期間にその配当のリスクを負うことに市場がつける価格です。会社の社債利回りも、発表した方針も入ってきません。社債は別の、より安全な請求権ですし、方針は命令にすぎないからです。

市場が配当のリスクをより高いと判断すると、投資家はそれを保有する見返りにより高いリターンを求めるので、影響を受ける rt+kr_{t+k} はすべて上がります。期待配当が同じなら、それぞれの現在価値が下がり、したがって PtP_t も下がります。

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