線形代数 · 第15回 · 動画4 · インタラクティブ教材

ATAA^TA が可逆になる理由と、II に等しくなるとき

I重要な公式

公式 名称 考え方
ATAx=0  ⇒  ∥Ax∥2=0  ⇒  x=0A^TAx = 0 \;\Rightarrow\; \|Ax\|^2 = 0 \;\Rightarrow\; x = 0 零空間のトリック AA の列が一次独立なら ATAA^TA が可逆であることを示す
i≠ji \neq j のとき qi⋅qj=0q_i \cdot q_j = 0、かつ ∥qi∥=1\|q_i\| = 1 正規直交な列 垂直で、かつ長さが 1
正規直交な列 ⇒ATA=I\Rightarrow A^TA = I 正規直交な列の恒等式 ATAA^TA の (i,j)(i,j) 成分は qi⋅qj=δijq_i \cdot q_j = \delta_{ij}
P=A(ATA)−1AT  ⟶  P=AATP = A(A^TA)^{-1}A^T \;\longrightarrow\; P = AA^T 射影の公式の簡略化 列が正規直交なら逆行列が消える

II可視化1 — 回転する座標の枠は ATA=IA^TA = I を保つ

枠をどんな角度 θ\theta に回しても、列は互いに垂直な単位ベクトルのままです。ですから ATAA^TA は単位行列から離れません。

III可視化2 — 直交していても正規直交とは限らない

列が垂直なら ATAA^TA は対角行列になります。けれども、その対角成分が 11 になるのは、長さが 1 のときだけです。

💡 チャレンジ: 長さを動画と同じ (3,5)(3, 5) にしてみましょう。ATAA^TA は diag(9,25)\mathrm{diag}(9, 25) になります。可逆ですが、II とはまるで違います。

IV可視化3 — 列が一次独立なら ATAA^TA は可逆

AA の2本の列をドラッグしてみましょう。列が一直線に並ぶその瞬間まで、ATAA^TA は可逆のままです。

💡 列が1本の直線上につぶれると、Ax=0Ax = 0 を満たす 0 でない xx が現れます。零空間のトリックは成り立たなくなり、ATAA^TA は特異になります。

V確認クイズ

問1

A=[0−110]A = \begin{bmatrix} 0 & -1 \\ 1 & 0 \end{bmatrix} とします。ATAA^TA はどれですか。

(ヒント:列を調べましょう。正規直交になっていますか。)

✅ 正解です! 列 (0,1)(0,1) と (−1,0)(-1,0) は正規直交なので、ATA=IA^TA = I です。

❌ 惜しい! 列の長さが 1 かどうか、互いに垂直かどうかを確かめてみましょう。

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解答:

AA の列は q1=(0,1)q_1 = (0, 1) と q2=(−1,0)q_2 = (-1, 0) です。

長さが 1 かを確認:

  • ∥q1∥=02+12=1\|q_1\| = \sqrt{0^2 + 1^2} = 1 ✓
  • ∥q2∥=(−1)2+02=1\|q_2\| = \sqrt{(-1)^2 + 0^2} = 1 ✓

垂直かを確認:

  • q1⋅q2=(0)(−1)+(1)(0)=0q_1 \cdot q_2 = (0)(-1) + (1)(0) = 0 ✓

列は正規直交なので、ATA=IA^TA = I です。

直接計算による検算:

ATA=[01−10][0−110]=[0⋅0+1⋅10⋅(−1)+1⋅0(−1)⋅0+0⋅1(−1)(−1)+0⋅0]=[1001]A^TA = \begin{bmatrix} 0 & 1 \\ -1 & 0 \end{bmatrix}\begin{bmatrix} 0 & -1 \\ 1 & 0 \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} 0\cdot0+1\cdot1 & 0\cdot(-1)+1\cdot0 \\ (-1)\cdot0+0\cdot1 & (-1)(-1)+0\cdot0 \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{bmatrix}

問2

正しいか誤りか: ベクトル (3,0)(3, 0) と (0,5)(0, 5) は正規直交な組である。

✅ 正解です! 2つは垂直(直交)ですが、長さは 1 ではなく 3 と 5 です。正規直交には両方の条件が必要です。

❌ 惜しい! 正規直交とは、直交していて、かつ長さが 1 であることです。ノルムを確かめましょう。

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解答:誤り

正規直交には両方の条件が必要です:

  1. 直交(垂直)しているか? (3,0)⋅(0,5)=3⋅0+0⋅5=0(3, 0) \cdot (0, 5) = 3 \cdot 0 + 0 \cdot 5 = 0 ✓

  2. 正規(長さが 1)か?

    • ∥(3,0)∥=3≠1\|(3, 0)\| = 3 \neq 1 ✗
    • ∥(0,5)∥=5≠1\|(0, 5)\| = 5 \neq 1 ✗

この2つのベクトルは直交していますが、正規直交ではありません。正規直交にするには、正規化して (1,0)(1, 0) と (0,1)(0, 1) にします。

元のベクトルのままでは ATA=diag(9,25)A^TA = \text{diag}(9, 25) となり、可逆ですが単位行列ではありません。

問3

零空間のトリックでは、ATAx=0A^TAx = 0 から出発して x=0x = 0 を示します。行列の方程式を長さについての主張に変える鍵となるステップはどれですか。

✅ 正解です! xTx^T を掛けると内積 ∥Ax∥2\|Ax\|^2 が生まれ、行列の方程式が長さについての幾何学的な主張に変わります。

❌ 惜しい! このトリックは長さの二乗の式をつくり出します。どの操作で xTATAxx^TA^TAx が (Ax)T(Ax)=∥Ax∥2(Ax)^T(Ax) = \|Ax\|^2 になるでしょうか。

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解答:

鍵となるステップは、両辺に左から xTx^T を掛けることです。これで内積が生まれます:

ATAx=0A^TAx = 0 xT(ATAx)=xT⋅0=0x^T(A^TAx) = x^T \cdot 0 = 0

(xTAT)=(Ax)T(x^TA^T) = (Ax)^T を使ってまとめ直します:

(Ax)T(Ax)=0(Ax)^T(Ax) = 0 ∥Ax∥2=0\|Ax\|^2 = 0

長さの二乗は ≥0\geq 0 で、0 になるのは零ベクトルのときだけなので: Ax=0Ax = 0

列が一次独立なので、x=0x = 0 となります。∎

ポイント:xTx^T を掛けることで、代数が幾何に変わります。行列の方程式が、「長さの二乗が 0 である」という主張になるのです。

問4

一般の射影の公式は P=A(ATA)−1ATP = A(A^TA)^{-1}A^T です。AA の列が正規直交のとき、この公式はどう簡単になりますか。

✅ 正解です! ATA=IA^TA = I なので逆行列が消え、P=AATP = AA^T となります。逆行列の計算はいりません!

❌ 惜しい! P=A(ATA)−1ATP = A(A^TA)^{-1}A^T に ATA=IA^TA = I を代入して、一歩ずつ整理しましょう。

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解答:

AA の列が正規直交のとき ATA=IA^TA = I なので、(ATA)−1=I−1=I(A^TA)^{-1} = I^{-1} = I です。

これを射影の公式に代入します:

P=A(ATA)−1⏟=IAT=A⋅I⋅AT=AATP = A\underbrace{(A^TA)^{-1}}_{= I}A^T = A \cdot I \cdot A^T = AA^T

逆行列はすっかり消えます。計算の上で大幅な簡略化です。

注意: P=AATP = AA^T は一般には単位行列ではありません(AA が正方行列で直交行列の場合を除きます)。AA の列空間への射影行列です。

この簡略化が、QR 分解、グラム・シュミットの直交化法、スペクトル分解を支えています。

正解数:0 / 4