線形代数 · 第21回 · 動画1 · インタラクティブ教材

固有値を解き放つ行列の分解:A = SΛS⁻¹ を読み解く

I重要な公式

公式 名称 説明
Axi=λixiA x_i = \lambda_i x_i 固有値の方程式 AA は固有ベクトル xix_i を λi\lambda_i 倍に伸び縮みさせる
AS=SΛAS = S\Lambda 基本方程式 固有ベクトルを列に並べる。Λ\Lambda は固有値を対角に並べた行列
A=SΛS−1A = S\Lambda S^{-1} 対角化 SS が一次独立な列を nn 本もつときに成り立つ
Ak=SΛkS−1A^k = S\Lambda^k S^{-1} べき乗の公式 対角成分をそれぞれ kk 乗する

II可視化1 — 固有ベクトルは伸び縮みするだけ

固有ベクトルの基底では AA は伸び縮みするだけです。固有ベクトルは向きを保ち、一般のベクトルは回転します。

💡 AA が回転させない向きはこの2つだけです。Λ\Lambda は、まさにこの基底で AA を表したものです。

III可視化2 — べき乗が簡単になる理由

対角化された行列のべき乗は簡単です。Λk\Lambda^k は各固有値をべき乗するだけで、やがて最大のものが支配します。

💡 最大の ∣λ∣|\lambda| が、AkxA^k x の長期的な増加率を決めます。これが差分方程式、常微分方程式、行列の指数関数を動かす仕組みです。

IV可視化3 — 対角化可能か、欠陥行列か

対角化には一次独立な固有ベクトルが2本必要です。AA の成分によっては、2本目の向きが消えてしまいます。

💡 相異なる固有値があれば必ず対角化可能です。対称行列ならさらに、固有ベクトルどうしが直交します。

V確認クイズ

問1 · 基本方程式

AA の固有ベクトルを列として SS に並べ、AA を掛けると、基本方程式 AS=SΛAS = S\Lambda が得られます。次の行列

A=(4005),S=(1001),A = \begin{pmatrix} 4 & 0 \\ 0 & 5 \end{pmatrix}, \quad S = \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix},

について、対角の固有値行列 Λ\Lambda はどれですか。

✅ 正解です! Λ\Lambda の ii 番目の対角成分は、SS の ii 番目の列に対応する固有値です。

❌ 惜しい! Λ\Lambda に並ぶ固有値の順番は、SS に並ぶ固有ベクトルの順番と一致していなければなりません。

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解答:

AA はすでに対角成分が 44 と 55 の対角行列なので、固有値は λ1=4\lambda_1 = 4(固有ベクトル e1e_1)と λ2=5\lambda_2 = 5(固有ベクトル e2e_2)です。S=IS = I とすると、

AS=AI=A=(4005),SΛ=IΛ=Λ.AS = AI = A = \begin{pmatrix} 4 & 0 \\ 0 & 5 \end{pmatrix}, \qquad S\Lambda = I\Lambda = \Lambda.

AS=SΛAS = S\Lambda が成り立つためには、Λ=diag(4,5)\Lambda = \text{diag}(4, 5) でなければなりません。

Λ\Lambda の対角成分の順番は、SS に並ぶ固有ベクトルの順番と一致していなければなりません。

問2 · 対角化がうまくいかないとき

正しいか誤りか: どんな正方行列 AA も A=SΛS−1A = S\Lambda S^{-1} と書ける。

✅ 正解です! 欠陥行列(たとえば (2102)\begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 0 & 2 \end{pmatrix})は対角化できません。

❌ 惜しい! 固有値があるだけでは足りません。S−1S^{-1} が存在するには、一次独立な固有ベクトルが nn 本必要です。

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解答:

この主張は誤りです。

対角化には SS が可逆であることが必要です。つまり、その列である固有ベクトルが一次独立でなければなりません。AA が重複固有値をもち、一次独立な固有ベクトルが足りないとき、AA は欠陥行列と呼ばれ、対角化できません。

典型的な例: A=(2102)A = \begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 0 & 2 \end{pmatrix}

固有方程式は (λ−2)2=0(\lambda - 2)^2 = 0 なので、λ=2\lambda = 2 は重複固有値です。ところが (A−2I)x=0(A - 2I)x = 0 を解くと、固有ベクトルの向きは (1,0)T(1, 0)^T の1つしか得られません。一次独立な固有ベクトルが2本必要なのに1本しかないので、SS は特異となり、A=SΛS−1A = S\Lambda S^{-1} は成り立ちません。

  • ❌ 対角化できない:欠陥行列
  • 対角化可能:一次独立な固有ベクトルを nn 本もつ行列(たとえば相異なる固有値をもつ行列や、対称行列)

問3 · べき乗が簡単になる

A=SΛS−1A = S\Lambda S^{-1}、Λ=diag(2,3)\Lambda = \text{diag}(2, 3) とします。 固有値行列の10乗 Λ10\Lambda^{10} はどれですか。

✅ 正解です! 対角行列では (Λk)ii=λik(\Lambda^k)_{ii} = \lambda_i^k です。

❌ 惜しい! 10乗ではなく10倍にしています。Λ10\Lambda^{10} は行列を10回掛けることで、対角行列ならそれは λi10\lambda_i^{10} を意味します。

❌ 惜しい! 対角成分をそれぞれ10乗してください。

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解答:

対角行列のべき乗は簡単です。対角成分をそれぞれべき乗するだけです。

Λk=(λ1k00λ2k)\Lambda^k = \begin{pmatrix} \lambda_1^k & 0 \\ 0 & \lambda_2^k \end{pmatrix}

Λ=diag(2,3)\Lambda = \text{diag}(2, 3)、k=10k = 10 のとき:

210=1024,310=590492^{10} = 1024, \quad 3^{10} = 59049

よって Λ10=diag(1024,59049)\Lambda^{10} = \text{diag}(1024, 59049) です。

なぜ重要か: Ak=SΛkS−1A^k = S\Lambda^k S^{-1} を使えば、A10A^{10} の計算は、数のべき乗2回と、両側からの行列の積1回ずつに帰着します。AA を10回掛け合わせるよりはるかに安上がりです。

問4 · Λ は本当は何を表しているか

分解 A=SΛS−1A = S\Lambda S^{-1} において、Λ\Lambda の役割を最もよく表しているのはどれですか。

✅ 正解です! Λ\Lambda は、AA を固有ベクトルの基底から見たものです。そこでは AA は純粋な定数倍になります。

❌ 惜しい! S−1S^{-1} が固有ベクトルの基底へ変換し、Λ\Lambda がその基底で伸び縮みさせ、SS が元に戻す、と考えてみましょう。

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解答:

Λ\Lambda はAA を固有ベクトルの基底で表したものです。A=SΛS−1A = S\Lambda S^{-1} を右から左へ読むと:

  1. S−1S^{-1} がベクトルを標準座標から固有ベクトルの座標へ変換します。
  2. Λ\Lambda がその基底で AA の作用を施します。ただし、この基底では伸び縮みするだけです(回転も、成分の混ざり合いもありません)。
  3. SS が結果を標準座標に戻します。

大事な注意点:

  • 一般に Λ≠A\Lambda \neq A です。両者は同じ線形写像を、異なる基底で表しています。
  • SS は一意ではありません。固有ベクトル(SS の列)の順番を入れ替えると、Λ\Lambda の対角成分もそれに合わせて並び替わります。また、どの固有ベクトルも 0 でない定数倍にできます。
  • Λ\Lambda は AA の逆行列ではありません。(AA の逆行列が存在するなら、それは SΛ−1S−1S\Lambda^{-1}S^{-1} です。)

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