線形代数 · 第22回 · 動画3 · インタラクティブ教材

行列の指数関数:eAte^{At} があらゆる線形系を解く理由

I重要な公式

公式 名称 説明
eAt=I+At+(At)22!+(At)33!+⋯e^{At} = I + At + \frac{(At)^2}{2!} + \frac{(At)^3}{3!} + \cdots 級数による定義 どんな AA、tt に対しても必ず収束する
eAt=S eΛt S−1e^{At} = S\, e^{\Lambda t}\, S^{-1} 対角化による公式 AA が固有ベクトルからなる基底をもつことが必要
eΛt=diag(eλ1t,…,eλnt)e^{\Lambda t} = \mathrm{diag}(e^{\lambda_1 t}, \ldots, e^{\lambda_n t}) 対角行列の指数関数 固有値ごとのスカラーの指数関数を並べるだけ
u(t)=eAtu(0)u(t) = e^{At} u(0) u˙=Au\dot u = Au の解 線形な動きの伝播作用素

II可視化1 — 階乗が救ってくれる理由

分母の n!n! が各べきを抑え込むので、等比級数が爆発するところでも、テイラー級数の和は収束します。

💡 行列の指数関数の各対角成分は、ちょうどこのスカラーの級数です。ですから eAte^{At} の収束は、上の図に帰着します。

III可視化2 — 固有値が安定性を決める

複素平面の左半分に固有値があれば軌道は減衰し、右半分にあれば爆発します。

💡 虚軸上(α=0\alpha = 0)では軌道が閉じます。これは、量子系のノルムを保つ時間発展 e−iHte^{-iHt} にあたります。

IV確認クイズ

問1

対角行列 Λ=(300−2)\Lambda = \begin{pmatrix} 3 & 0 \\ 0 & -2 \end{pmatrix} を考えます。

eΛte^{\Lambda t} はどれですか?

✅ 正解です! 各固有値 λi\lambda_i が、対角線上で eλite^{\lambda_i t} になります。

❌ 惜しい! eΛte^{\Lambda t} は、各対角成分を ee の指数として扱い、指数関数に入れます。tt を掛けるだけでも、線形に拡大するのでもありません。

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解答:

対角行列 Λ\Lambda では、級数 eΛt=∑n=0∞(Λt)nn!e^{\Lambda t} = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(\Lambda t)^n}{n!} も対角行列になります。Λn\Lambda^n が対角行列だからです。

Λn=(3n00(−2)n)\Lambda^n = \begin{pmatrix} 3^n & 0 \\ 0 & (-2)^n \end{pmatrix}

各対角成分は、ただのスカラーのテイラー級数です。

eΛt=(∑n(3t)nn!00∑n(−2t)nn!)=(e3t00e−2t)e^{\Lambda t} = \begin{pmatrix} \sum_n \frac{(3t)^n}{n!} & 0 \\ 0 & \sum_n \frac{(-2t)^n}{n!} \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} e^{3t} & 0 \\ 0 & e^{-2t} \end{pmatrix}

したがって eΛt=diag(e3t,e−2t)e^{\Lambda t} = \mathrm{diag}(e^{3t}, e^{-2t}) です。

問2

行列 AA の固有値は λ1=−1+2i\lambda_1 = -1 + 2i と λ2=−1−2i\lambda_2 = -1 - 2i です。

解 u(t)=eAtu(0)u(t) = e^{At} u(0) は、t→∞t \to \infty で長期的にどうふるまいますか?

✅ 正解です! Re(λ)<0(\lambda) < 0 なので減衰し、Im(λ)≠0(\lambda) \neq 0 なので振動します。

❌ 惜しい! λ\lambda の実部が増大か減衰かを決め、虚部が振動を決めることを思い出しましょう。

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解答:

安定性を決めるのは固有値の実部で、虚部は振動を決めます。

  • Re(λ)=−1<0\mathrm{Re}(\lambda) = -1 < 0 → モードは減衰する
  • Im(λ)=±2≠0\mathrm{Im}(\lambda) = \pm 2 \neq 0 → モードは振動する

各モードは e(−1±2i)t=e−t(cos⁡2t±isin⁡2t)e^{(-1 \pm 2i) t} = e^{-t}(\cos 2t \pm i \sin 2t) を与えます。包絡線 e−te^{-t} が縮む一方で、三角関数の因子が振動します。

結果は安定渦状点です。軌道は原点に向かって内側へ渦を巻きます。

問3

正しいか誤りか:(階乗のない)級数 I+At+(At)2+(At)3+⋯I + At + (At)^2 + (At)^3 + \cdots は、すべての行列 AA に対して eAte^{At} に等しい。

✅ 正解です! この級数が等しいのは (I−At)−1(I - At)^{-1} で、eAte^{At} ではありません。行列の指数関数が必ず収束するのは、階乗があるからです。

❌ 惜しい! よく見てください。行列の指数関数では、各項に階乗の分母 1n!\frac{1}{n!} が付いています。それがなければ、まったく別の級数になります。

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解答:

誤りです。

階乗のない級数は等比級数です。

I+At+(At)2+(At)3+⋯=(I−At)−1I + At + (At)^2 + (At)^3 + \cdots = (I - At)^{-1}

この級数が収束するのは、AtAt の固有値の大きさがすべて 1 より小さいときだけです。

一方、行列の指数関数には分母に階乗があります。

eAt=I+At+(At)22!+(At)33!+⋯e^{At} = I + At + \frac{(At)^2}{2!} + \frac{(At)^3}{3!} + \cdots

この階乗が決定的です。階乗のおかげで、級数はどんな行列 AA、どんな tt に対しても収束します。階乗がなければ、項は爆発的に大きくなります。

2つの級数は一次の項まで(I+At+⋯I + At + \cdots)は一致します。そのため (I−At)−1(I - At)^{-1} は eAte^{At} のよい近似になります(tt が小さいとき)。しかし、この2つは同じものではありません。

問4

A=SΛS−1A = S \Lambda S^{-1} と対角化できるとします。公式 eAt=S eΛt S−1e^{At} = S\, e^{\Lambda t}\, S^{-1} が成り立つのはなぜですか?

✅ 正解です! どのべきでも S−1S=IS^{-1}S = I が連鎖的に打ち消し合うこと、それが対角化を機能させる原動力です。

❌ 惜しい! この公式が成り立つのは、べき An=(SΛS−1)nA^n = (S\Lambda S^{-1})^n を計算するときに起こる、ある特定の打ち消し合いのおかげです。

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解答:

鍵は、打ち消し合いの連鎖です。AA のべきを計算すると、

A2=(SΛS−1)(SΛS−1)=SΛ(S−1S)⏟=IΛS−1=SΛ2S−1A^2 = (S\Lambda S^{-1})(S\Lambda S^{-1}) = S\Lambda \underbrace{(S^{-1}S)}_{= I}\Lambda S^{-1} = S\Lambda^2 S^{-1}

真ん中の S−1SS^{-1}S は単位行列になります。同じ打ち消し合いが、どのべきでも連鎖します。

An=SΛnS−1A^n = S\Lambda^n S^{-1}

これを級数に代入します。

eAt=∑n=0∞(At)nn!=∑n=0∞SΛnS−1tnn!=S(∑n=0∞Λntnn!)S−1=S eΛt S−1e^{At} = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(At)^n}{n!} = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{S \Lambda^n S^{-1} t^n}{n!} = S \left(\sum_{n=0}^{\infty} \frac{\Lambda^n t^n}{n!}\right) S^{-1} = S\, e^{\Lambda t}\, S^{-1}

どの項からも左の SS と右の S−1S^{-1} をくくり出すと、真ん中に対角行列の級数が残ります。

ほかの選択肢は誤りです。

  • SS は一般に AA と可換ではありません。
  • AA と eAte^{At} の固有値は関係していますが、異なります(λi\lambda_i と eλite^{\lambda_i t})。
  • どんな行列の級数もその対角化に等しい、というわけではありません。この公式が成り立つのは、特有の打ち消し合いの構造があるからです。

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