線形代数 · 第24回 · 動画1 · インタラクティブ教材

スペクトル定理:対称行列はなぜ特別なのか

I重要な公式

公式 名称 説明
A=ATA = A^T 対称行列 自分自身の転置に等しい
A=QΛQTA = Q \Lambda Q^T スペクトル分解 QQ は正規直交、Λ\Lambda は実数の対角行列
QTQ=IQ^T Q = I, so Q−1=QTQ^{-1} = Q^T 直交行列 逆行列が転置に等しい
A=λ1q1q1T+λ2q2q2T+⋯A = \lambda_1 q_1 q_1^T + \lambda_2 q_2 q_2^T + \cdots スペクトル和 固有ベクトルの軸への射影を固有値で重み付けした和

II互いに垂直な軸に沿った伸縮

対称行列は単位円を楕円に写し、その楕円の軸は互いに垂直な固有ベクトルの方向にそろいます。

💡 チャレンジ:AvAv が vv と平行になる入力の方向を探してみましょう。こうした固有ベクトルの方向は、どの対称行列でも互いに垂直です。

III階数 1 の射影の和

どの対称行列も λ1q1q1T+λ2q2q2T\lambda_1 q_1 q_1^T + \lambda_2 q_2 q_2^T と書けます。互いに垂直な射影を、固有値で何倍かしたものの和です。

💡 チャレンジ:λ2=0\lambda_2 = 0 にしてみましょう。楕円は線分につぶれ、AA は階数 1 になって、平面全体を q1q_1 の軸の上へ射影します。

IV対称な変形と対称でない変形

交代行列のせん断を加えると、固有ベクトルが傾き、純粋な伸縮に回転が入り込みます。

対称 A = [3 1; 1 3]

💡 対称性は回転を消し去り、互いに垂直な方向への伸縮だけを残します。せん断が 0.50.5 を超えると固有値は複素数になり、写像に回転が混ざります。

V確認クイズ

問1

次の行列のうち、対称なもの(つまり A=ATA = A^T を満たすもの)はどれですか?

✅ 正解です! 非対角成分がどちらも 3 なので、A=ATA = A^T です。

❌ 惜しい! 行列が対称であるとは、(i,j)(i,j) 成分が (j,i)(j,i) 成分に等しいことです。非対角成分どうしがぴったり一致していなければなりません。

解答を見る

解答:

行列が対称であるとは、非対角成分のどの組についても Aij=AjiA_{ij} = A_{ji} が成り立つことです。選択肢を一つずつ確かめます:

  • (2335)\begin{pmatrix} 2 & 3 \\ 3 & 5 \end{pmatrix}:非対角成分は 33 と 33 — 対称です。
  • (23−35)\begin{pmatrix} 2 & 3 \\ -3 & 5 \end{pmatrix}:3≠−33 \neq -3 — 対称ではありません(実際、非対角部分は交代行列になっています)。
  • (2345)\begin{pmatrix} 2 & 3 \\ 4 & 5 \end{pmatrix}:3≠43 \neq 4 — 対称ではありません。
  • (01−10)\begin{pmatrix} 0 & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix}:1≠−11 \neq -1 — 対称ではありません(90° の回転です)。

正解は最初の選択肢です。

問2

QQ を、列が正規直交(互いに垂直な単位ベクトル)である行列とします。つねに成り立つ式はどれですか?

✅ 正解です! 列が正規直交なら QTQ=IQ^T Q = I なので、転置が逆行列になります。

❌ 惜しい! QTQQ^T Q を成分ごとに計算してみましょう。各成分は列どうしの内積です。

解答を見る

解答:

QTQQ^T Q の (i,j)(i, j) 成分は、QQ の ii 列目と QQ の jj 列目の内積です。

  • 同じ列 (i=ji = j):単位ベクトルと自分自身との内積なので 11 です。
  • 異なる列 (i≠ji \neq j):垂直なベクトルどうしなので 00 です。

したがって QTQ=IQ^T Q = I です。両辺に右から Q−1Q^{-1} を掛けると、QT=Q−1Q^T = Q^{-1} が得られます。

これが直交行列の魔法のような性質です。逆行列がただで手に入るのです。転置するだけで済みます。スペクトル定理 A=QΛQTA = Q \Lambda Q^T で逆行列を計算する必要がまったくないのは、このためです。

問3

対称行列 A=(3113)A = \begin{pmatrix} 3 & 1 \\ 1 & 3 \end{pmatrix} を考えます。

固有方程式は (3−λ)2−1=0(3 - \lambda)^2 - 1 = 0 です。固有値はいくつですか?

✅ 正解です! 展開すると λ2−6λ+8=0\lambda^2 - 6\lambda + 8 = 0 となり、(λ−4)(λ−2)(\lambda-4)(\lambda-2) と因数分解できます。

❌ 惜しい! まず固有多項式を展開してから、因数分解しましょう。実対称行列が複素数の固有値をもつことはありません。

解答を見る

解答:

(3−λ)2−1=0(3 - \lambda)^2 - 1 = 0 を展開します:

λ2−6λ+9−1=λ2−6λ+8=0\lambda^2 - 6\lambda + 9 - 1 = \lambda^2 - 6\lambda + 8 = 0

因数分解します:

(λ−4)(λ−2)=0(\lambda - 4)(\lambda - 2) = 0

よって λ1=4\lambda_1 = 4、λ2=2\lambda_2 = 2 です。どの実対称行列でも保証されているとおり、どちらも実数です。

対応する正規直交な固有ベクトルは q1=12(1,1)q_1 = \tfrac{1}{\sqrt{2}}(1, 1) と q2=12(1,−1)q_2 = \tfrac{1}{\sqrt{2}}(1, -1) で、互いに垂直です (q1⋅q2=0q_1 \cdot q_2 = 0)。

問4

正しいか誤りか:どの実対称行列も、幾何学的には互いに垂直な軸に沿って引き伸ばすだけである。回転もせん断もなく、正しく回した座標系で見れば純粋な伸び縮みにすぎない。

✅ 正解です! これがスペクトル定理 A=QΛQTA = Q \Lambda Q^T の幾何学的な中身です。回転して、伸縮して、回転して戻すのです。

❌ 惜しい! 分解 A=QΛQTA = Q \Lambda Q^T を見直しましょう。QQ は回転、Λ\Lambda は純粋な伸び縮み、QTQ^T はその回転を元に戻します。固有ベクトルは互いに垂直な軸です。

解答を見る

解答:

正しい。スペクトル定理 A=QΛQTA = Q \Lambda Q^T は、まさにこの幾何学的な筋書きを語っています:

  1. QTQ^T:固有ベクトルが標準の座標軸に重なるように空間を回転する。
  2. Λ\Lambda:各軸に沿って、対応する固有値の倍率で伸縮する。
  3. QQ:もとの座標系へ回転して戻す。

固有ベクトルの軸に対する正味の効果には、せん断も回転もなく、伸縮だけがあります。だからこそ単位円はつねに、主軸が互いに垂直な(そして固有ベクトルの方向にそろった)楕円に写されるのです。

この洞察は、次のものの土台になっています:

  • 主成分分析(PCA):共分散行列は対称 → 主成分は、分散を表す互いに垂直な軸。
  • 最適化:ヘッセ行列は対称 → その固有値は、互いに垂直な方向に沿った曲率を表す。
  • 量子力学:オブザーバブルは対称(エルミート)→ 測定できる値は実数の固有値。

正解数:0 / 4