線形代数 · 第24回 · 動画3 · インタラクティブ教材

固有値の近道:多項式を解かずにピボットを数える

I重要な公式

公式 名称 説明
A=LDL⊤A = LDL^\top 対称行列の分解 DD の対角成分にピボットが並ぶ
#(正のピボット)=#(正の固有値)\#(\text{正のピボット}) = \#(\text{正の固有値}) 符号定理(シルベスターの慣性法則) ピボットの符号と固有値の符号が一致する(対称な AA)
det⁡(A)=∏di=∏λi\det(A) = \prod d_i = \prod \lambda_i 積の恒等式 ピボットの積と固有値の積は等しい
λi(A−cI)=λi(A)−c\lambda_i(A - cI) = \lambda_i(A) - c シフトのトリック cIcI を引くと、どの固有値も −c-c だけずれる

II可視化1 — ピボットと固有値

ピボットと固有値の値が一致することはまずありません。それでも、正負の個数と積はいつも一致します。

💡 チャレンジ:行列を不定値にしてみましょう(a11=−3a_{11} = -3 にする)。赤いピボットが現れるのは、ちょうど赤い固有値が現れるときです。

III可視化2 — シフトのトリック

しきい値 cc より大きい固有値はいくつあるでしょうか? A−cIA - cI の正のピボットを数えればわかります。

💡 いくつかのシフトで調べて個数の差をとれば、各固有値を区間に閉じ込められます。LAPACK のようなソルバーが安い消去法だけで実行している二分法です。

IV確認クイズ

問1

対称な 4×44 \times 4 行列 AA に消去法を行ったところ、ピボットは次のようになりました。 d1=3,d2=−2,d3=1,d4=−5.d_1 = 3, \quad d_2 = -2, \quad d_3 = 1, \quad d_4 = -5.

AA の正の固有値はいくつありますか?

✅ 正解です! 正のピボットの個数は、正の固有値の個数に等しくなります。

❌ 惜しい! 正のピボットを数えましょう。33 と 11 です。

解答を見る

解答:

符号定理(シルベスターの慣性法則)により、対称行列では次が成り立ちます。 #(正のピボット)=#(正の固有値).\#(\text{正のピボット}) = \#(\text{正の固有値}).

ピボットは {3,−2,1,−5}\{3, -2, 1, -5\} です。正のピボットは2つ(33 と 11)なので、AA には正の固有値が2つ(負の固有値も2つ)あります。

注意:固有値の実際の値はピボットとは等しくありません。一致するのは符号の個数だけです。

問2

ある学生が次のように主張しています:「どんな正方行列 AA でも、正のピボットの個数は正の固有値の個数に等しい。」

この主張は正しいでしょうか、誤りでしょうか?

✅ 正解です! 対称性が欠かせません。一般の行列では符号定理は成り立ちません。

❌ 惜しい! 符号定理(シルベスターの慣性法則)は、行列が対称であることを必要とします。

解答を見る

解答:

この主張は誤りです。符号定理は AA が対称であることを必要とします。

対称でない行列では:

  • 固有値が複素数になることがあります(そのため「正」という言葉がいつも意味をもつとは限りません)。
  • 固有値が実数のときでも、ピボットと固有値の符号の個数が食い違うことがあります。

対称性があれば A=LDL⊤A = LDL^\top(合同変換)と書けることが保証され、シルベスターの慣性法則によれば合同変換は符号数を保ちます。対称性がなくなると、この保証は失われます。

問3

対称な 3×33 \times 3 行列 AA のピボットを計算したところ、次のようになりました。 d1=2,d2=52,d3=35.d_1 = 2, \quad d_2 = \tfrac{5}{2}, \quad d_3 = \tfrac{3}{5}.

固有値を計算せずに、det⁡(A)\det(A) を求めてください。

✅ 正解です! det⁡(A)=2⋅52⋅35=3\det(A) = 2 \cdot \tfrac{5}{2} \cdot \tfrac{3}{5} = 3.

❌ 惜しい! 行列式はピボットの積に等しくなります。

解答を見る

解答:

行列式はピボットの積(同じことですが、固有値の積)に等しくなります。 det⁡(A)=d1⋅d2⋅d3=2⋅52⋅35=3.\det(A) = d_1 \cdot d_2 \cdot d_3 = 2 \cdot \tfrac{5}{2} \cdot \tfrac{3}{5} = 3.

これは、ピボットと固有値が共有する2つの不変量の1つです。個々の値は一致しなくても、積は必ず一致します。

問4

対称な 5×55 \times 5 行列 AA に、3つの異なるシフトで消去法を行い、正のピボットを数えました。

  • A−0IA - 0I のピボット:正が 4 個
  • A−5IA - 5I のピボット:正が 2 個
  • A−10IA - 10I のピボット:正が 0 個

AA の固有値のうち、区間 (0,5](0, 5] にあるのはいくつですか?

✅ 正解です! 引き算です。0 より大きい固有値が4つ、そこから 5 より大きい2つを引くと、(0,5](0, 5] に2つ残ります。

❌ 惜しい! 引き算を使いましょう:(0 より大きい固有値の個数)−(5 より大きい固有値の個数)。

解答を見る

解答:

A−cIA - cI の正のピボットの個数は、cc より大きい AA の固有値の個数に等しくなります。

  • >0> 0 の固有値:4
  • >5> 5 の固有値:2
  • >10> 10 の固有値:0

したがって、区間 (0,5](0, 5] にある固有値の個数は次のとおりです。 #{λ>0}−#{λ>5}=4−2=2.\#\{\lambda > 0\} - \#\{\lambda > 5\} = 4 - 2 = 2.

これが二分法の考え方です。異なるシフトでの個数を組み合わせれば、すべての固有値の居場所を区間として突き止められます。使うのは消去法だけで、多項式の根を求める必要はありません。

正解数:0 / 4