線形代数 · 第24回 · 動画4 · インタラクティブ教材

正定値を見抜く三つの判定法:固有値を計算せずに

I判定法のまとめ

対称行列 A=ATA = A^T が正定値であることは、次の同値な判定法のどれか1つが成り立つことと同値です。

判定法 条件 計算コスト
固有値 すべての λi>0\lambda_i > 0 高い(n≥5n \geq 5 では反復計算)
ピボット 消去法で得られるピボットがすべて >0> 0 O(n3)O(n^3) — 速い
左上の小行列式(左上の主小行列式) k=1,2,…,nk = 1, 2, \ldots, n に対して det⁡(Ak)>0\det(A_k) > 0 nn が小さければ最速

ピボットの符号定理:対称な AA では、正のピボットの個数は正の固有値の個数に等しくなります。符号は同じでも、値は違います。

落とし穴:det⁡(A)>0\det(A) > 0 だけでは十分ではありません。わかるのは、負の固有値が偶数個あることだけです。左上の小行列式はすべて調べましょう。

II可視化1 — 正定値性の幾何

xTAx=ax2+2bxy+cy2\mathbf{x}^{T} A \mathbf{x} = a x^{2} + 2 b x y + c y^{2} の等高線は、AA が定値なら楕円、不定値なら双曲線になります。

💡 落とし穴:a=−1a = -1、b=1b = 1、c=−2c = -2 にしてみましょう。行列式は正なのに、等高線は赤(負)の族です。つまり AA は正定値ではなく負定値です。

III可視化2 — 三つの判定法、一つの範囲

ピボット、固有値、左上の小行列式は、どれも tt のまったく同じ区間で正になります。

IV確認クイズ

問1

次の対称行列を考えます。 A=(4223).A = \begin{pmatrix} 4 & 2 \\ 2 & 3 \end{pmatrix}.

左上の小行列式による判定を使うと、AA は正定値でしょうか?

✅ 正解です! 左上の小行列式はどちらも正なので、AA は正定値です。

❌ 惜しい! d2=(4)(3)−(2)(2)d_2 = (4)(3) - (2)(2) を計算し直して、左上の小行列式を両方とも確かめましょう。

解答を見る

解答:

左上の小行列式を2つ計算します。

  • d1=4>0d_1 = 4 > 0 ✓
  • d2=det⁡(A)=(4)(3)−(2)(2)=12−4=8>0d_2 = \det(A) = (4)(3) - (2)(2) = 12 - 4 = 8 > 0 ✓

左上の小行列式はどちらも正なので、AA は正定値です。

(3番目の選択肢「det⁡(A)>0\det(A) > 0 だけで十分」は、つい選びたくなる落とし穴です。この 2×2 の例で正しい結論になるのは、d1>0d_1 > 0 も確かめたからにすぎません。一般には det⁡>0\det > 0 だけでは不十分で、落とし穴の行列 (−111−2)\begin{pmatrix} -1 & 1 \\ 1 & -2 \end{pmatrix} は det⁡=1>0\det = 1 > 0 なのに正定値ではありません。)

問2

正しいか誤りか:対称行列 AA が det⁡(A)>0\det(A) > 0 を満たすなら、AA は正定値である。

✅ 正解です! 行列式が正でも、保証されるのは負の固有値の個数が偶数であることだけです。0 個かもしれないし、2 個かもしれません。

❌ 惜しい! 動画の行列を思い出しましょう。(−111−2)\begin{pmatrix} -1 & 1 \\ 1 & -2 \end{pmatrix} は det⁡=1>0\det = 1 > 0 ですが、固有値は2つとも負です。

解答を見る

解答:

行列式は固有値の積に等しくなります。したがって det⁡(A)>0\det(A) > 0 からわかるのは次のことだけです。

  • 固有値がすべて正である(正定値)、または
  • 偶数個の固有値が負である(たとえば 2×2 で負の固有値が2つ)。

反例: B=(−111−2),det⁡(B)=(−1)(−2)−(1)(1)=1>0.B = \begin{pmatrix} -1 & 1 \\ 1 & -2 \end{pmatrix}, \quad \det(B) = (-1)(-2) - (1)(1) = 1 > 0.

ところが d1=−1<0d_1 = -1 < 0 なので、BB は最初の左上の小行列式の時点で不合格です。固有値は2つとも負です。

教訓:det⁡(A)\det(A) だけでなく、左上の小行列式をすべて調べましょう。

問3

次の行列にガウスの消去法を行います。 A=(5223).A = \begin{pmatrix} 5 & 2 \\ 2 & 3 \end{pmatrix}.

ピボットは何で、そこから何がわかりますか?

✅ 正解です! p1=5p_1 = 5、p2=11/5p_2 = 11/5 で、その積は det⁡(A)=11\det(A) = 11 に等しくなります。

❌ 惜しい! 最初のピボットの下を消去すると、(2,2) 成分は 3−25(2)=1153 - \frac{2}{5}(2) = \frac{11}{5} になります。ピボットは固有値ではありません。

解答を見る

解答:

最初のピボットの下を消去します。最初のピボットは p1=5p_1 = 5 です。2行目から1行目の 25\frac{2}{5} 倍を引きます。

(5223)→(5203−25(2))=(520115).\begin{pmatrix} 5 & 2 \\ 2 & 3 \end{pmatrix} \to \begin{pmatrix} 5 & 2 \\ 0 & 3 - \tfrac{2}{5}(2) \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 5 & 2 \\ 0 & \tfrac{11}{5} \end{pmatrix}.

したがって p2=115p_2 = \frac{11}{5} です。ピボットはどちらも正なので、AA は正定値です。

検算:ピボットの積は行列式に等しくなります。 p1⋅p2=5⋅115=11=det⁡(A).p_1 \cdot p_2 = 5 \cdot \tfrac{11}{5} = 11 = \det(A).

AA の固有値は 4±5≈6.244 \pm \sqrt{5} \approx 6.24 と 1.761.76 で、ピボットとは違います。それでもピボットの符号定理により、2つのピボットと2つの固有値は同じ符号をもちます。

問4

100×100100 \times 100 の対称行列について、正定値かどうかを調べる判定法のうち、実際にいちばん効率がよいのはふつうどれですか?

✅ 正解です! O(n3)O(n^3) の消去法を一度行うだけで、100個のピボットがすべて得られます。反復も固有多項式もいりません。

❌ 惜しい! nn が大きいと固有値の計算は反復的になり、別々の行列式を100個計算するのは無駄です。消去法を一度行えば、すべてのピボットが一度に得られます。

解答を見る

解答:

nn が大きいとき:

  • 固有値には反復法が必要です(n≥5n \geq 5 では閉じた式がありません)。収束が遅いこともあり、しかも必要なのは正確な値ではなく符号だけなので、やりすぎです。
  • ピボットは一度のガウスの消去法で得られ、計算量は O(n3)O(n^3) です。消去のあとは対角線を読むだけです。反復のない直接的な方法で、nn が大きいときの標準的な選択です。
  • 左上の小行列式をすべて調べるには、別々の行列式を nn 個計算しなければならず、一度の消去法よりはるかに高くつきます。
  • det⁡(A)>0\det(A) > 0 だけでは不十分です(問2で見たとおり)。

目安:

  • n=2,3n = 2, 3:左上の小行列式がいちばん速い。
  • nn が大きいとき:ガウスの消去法を一度行い、ピボットの符号を確かめる。
  • 固有値:その値が本当に必要なときだけ。

正解数:0 / 4