線形代数 · 第26回 · 動画1 · インタラクティブ教材

一つの行列に四つの判定法:正定値性に隠れた統一

I重要な公式

2×22\times 2 の対称行列 A=(abbc)A = \begin{pmatrix} a & b \\ b & c \end{pmatrix} が正定値であるかどうかを判定する、同値な 4 つの判定法は次のとおりです。

判定法 条件
固有値 λ1,λ2>0\lambda_1, \lambda_2 > 0 がともに成り立つ
左上の小行列式(左上の主小行列式) a>0a > 0 かつ ac−b2>0ac - b^2 > 0
ピボット a>0a > 0 かつ (ac−b2)/a>0(ac - b^2)/a > 0
二次形式 任意の x≠0x \neq 0 に対して xTAx=ax12+2bx1x2+cx22>0x^T A x = a x_1^2 + 2b x_1 x_2 + c x_2^2 > 0

この 4 つの判定法は論理的に同値です。一つに合格すれば、すべてに合格。一つで不合格なら、すべて不合格です。

II可視化1 — 4 つの判定法、一つの結論

対称行列のどの成分を変えても、4 つの判定法の結論はいっせいに切り替わります。

III可視化2 — ぎりぎりの境目

a=2, b=6a=2,\ b=6 を固定すると、鞍の形とお椀の形を分けるのは det⁡=2c−36\det = 2c - 36 の符号だけです。

IV確認クイズ

問1 · 判定法を使う

次の対称行列を考えます。 A=(3225).A = \begin{pmatrix} 3 & 2 \\ 2 & 5 \end{pmatrix}.

AA は正定値でしょうか。

✅ 正解です! 左上の小行列式がどちらも正なので、AA は正定値です。

❌ 惜しい! 公式は b2−acb^2 - ac ではなく det⁡=ac−b2\det = ac - b^2 です。また、非対角成分が 0 でなくてもまったく問題ありません。正定値行列のほとんどは、0 でない非対角成分をもっています。

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解答:

左上の小行列式による判定を使います。

  • 1 つ目の主小行列式:a=3>0a = 3 > 0 ✓
  • 2 つ目の主小行列式:det⁡(A)=ac−b2=(3)(5)−(2)2=15−4=11>0\det(A) = ac - b^2 = (3)(5) - (2)^2 = 15 - 4 = 11 > 0 ✓

左上の小行列式がどちらも正なので、AA は正定値です。

固有値で確かめることもできます。トレース =8= 8、det⁡=11\det = 11 なので λ2−8λ+11=0\lambda^2 - 8\lambda + 11 = 0 となり、λ=4±5\lambda = 4 \pm \sqrt{5} です。どちらも正です。

二次形式で確かめても同じです。x≠0x \neq 0 なら xTAx=3x12+4x1x2+5x22=3(x1+23x2)2+113x22>0x^T A x = 3 x_1^2 + 4 x_1 x_2 + 5 x_2^2 = 3(x_1 + \tfrac{2}{3} x_2)^2 + \tfrac{11}{3} x_2^2 > 0 です。

問2 · 行列式の落とし穴

ある学生が次のように主張しました。「det⁡(A)>0\det(A) > 0 ならば、AA は必ず正定値である。」

この主張は正しいでしょうか、誤りでしょうか。

✅ 正解です! 行列 diag(−1,−1)\text{diag}(-1, -1) の行列式は +1+1 ですが、この行列は負定値です。左上の小行列式がすべて正でなければなりません。

❌ 惜しい! A=diag(−1,−1)A = \text{diag}(-1, -1) を考えてみましょう。行列式は +1+1 ですが、固有値は 2 つとも負です。負の数どうしの積は正になるのです!

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解答:

誤りです。行列式が正というだけでは、正定値であることは示せません。

反例: A=(−100−1)A = \begin{pmatrix} -1 & 0 \\ 0 & -1 \end{pmatrix}

この行列は det⁡(A)=(−1)(−1)−0=1>0\det(A) = (-1)(-1) - 0 = 1 > 0 ですが、固有値は 2 つとも −1-1 です。つまり AA は負定値で、正定値とは正反対です。

2×22 \times 2 行列では、左上の小行列式がすべて正でなければなりません。

  • a>0a > 0(左上の 1×11\times 1 ブロック)
  • ac−b2>0ac - b^2 > 0(2×22\times 2 行列全体の行列式)

最後の一つだけでなく、両方の条件が必要です。なぜなら、固有値が 2 つとも負でも、その積(行列式)は正になりますが、行列は負のエネルギーを生むからです。

問3 · 行列を分類する

次の行列を考えます。 A=(2667).A = \begin{pmatrix} 2 & 6 \\ 6 & 7 \end{pmatrix}.

x=(1,−1)x = (1, -1) で xTAxx^T A x を計算すると 2−12+7=−3<02 - 12 + 7 = -3 < 0 になります。

この 1 回の計算から、AA について何がわかるでしょうか。

✅ 正解です! xTAxx^T A x が一度でも負になれば、正定値ではないと言えます。(実際、この行列は不定値で、固有値の一つが正、もう一つが負です。)

❌ 惜しい! 正定値であるためには、0 でない任意の xx に対して xTAx>0x^T A x > 0 でなければなりません。負になる xx が一つ見つかれば、それで正定値は否定されます。

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解答:

xTAxx^T A x が一度でも負の値をとれば、その時点で正定値の可能性は消えます。定義は、0 でない任意の xx に対して xTAx>0x^T A x > 0 を要求しているからです。反例が一つあれば、判定は不合格です。

xTAx=−3<0x^T A x = -3 < 0 が見つかったので、行列 AA は正定値ではありません。不定値か負定値のどちらかです(ここではトレース =9>0= 9 > 0 なので少なくとも一つの固有値は正であり、不定値だとわかります)。

ほかの判定法でも確かめてみましょう。

  • det⁡(A)=(2)(7)−36=−22<0\det(A) = (2)(7) - 36 = -22 < 0 — 負なので、左上の小行列式による判定で不合格
  • ピボット:22、次に −22/2=−11-22/2 = -11 — 2 つ目のピボットが負なので、ピボットによる判定で不合格
  • 固有値:λ2−9λ−22=0⇒λ≈11.0\lambda^2 - 9\lambda - 22 = 0 \Rightarrow \lambda \approx 11.0 と λ≈−2.0\lambda \approx -2.0 — 一つが負

4 つの判定法の結論は一致します。AA は不定値です。

問4 · 二次形式の幾何

対称行列 AA について、R2\mathbb{R}^2 上の f(x)=xTAxf(x) = x^T A x のグラフは曲面になります。等高線 {x:xTAx=1}\{x : x^T A x = 1\} が楕円になるのは、ちょうどどの場合でしょうか。

✅ 正解です! 正定値 ⟺ グラフがお椀の形 ⟺ 等高線が楕円。軸の長さは固有値で、軸の向きは固有ベクトルで決まります。

❌ 惜しい! 鞍の形なら双曲線、谷の形なら平行な 2 本の直線になり、伏せたお椀の形では高さ +1+1 の実数の等高線は存在しません。閉じた楕円になるのは、お椀の形(正定値)のときだけです。

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解答:

等高線 {x:xTAx=1}\{x : x^T A x = 1\} が楕円になるのは、AA が正定値のとき、かつそのときに限ります。

幾何的な対応は次のとおりです。

AA の種類 曲面の形 等高線 xTAx=1x^T A x = 1
正定値 お椀(0 で狭義の最小) 楕円(閉曲線)
半正定値 谷(平らな底をもつ溝) 平行な 2 本の直線
不定値 鞍 双曲線
負定値 伏せたお椀 空集合(実数解なし)

AA が正定値のとき、固有値 λ1,λ2>0\lambda_1, \lambda_2 > 0 は楕円の半軸の長さの二乗の逆数です。固有ベクトルは主軸の方向を向いています。楕円が円になるのは λ1=λ2\lambda_1 = \lambda_2 のときだけです。

正定値行列がいたるところに現れるのは、この幾何的な姿があるからです。最適化では狭義の最小値を保証し、統計学では共分散行列をきちんと意味のあるものにし、物理学では安定な釣り合いをもたらします。

正解数:0 / 4