線形代数 · 第27回 · 動画1 · インタラクティブ教材

3つの保証:正定値性が逆行列・和・ATA で失われない理由

I重要な公式

概念 内容 使う道具
正定値(二次形式による定義) すべての x≠0x \neq 0 に対して xTAx>0x^T A x > 0 二次形式
逆行列の固有値 Ax=λx  ⟹  A−1x=1λxA x = \lambda x \implies A^{-1} x = \tfrac{1}{\lambda} x 固有値
和についての閉包性 xT(A+B)x=xTAx+xTBxx^T(A+B)x = x^T A x + x^T B x 二次形式
ATAA^T A の恒等式 xTATAx=∥Ax∥2≥0x^T A^T A x = \|Ax\|^2 \geq 0 ノルムの恒等式
ATAA^T A が(半正定値でなく)正定値であること AA の列が一次独立であることが必要 列フルランク

II可視化1 — 逆数をとる写像 λ↦1/λ\lambda \mapsto 1/\lambda

正定値な AA では、どの固有値 λ>0\lambda > 0 も、A−1A^{-1} では 1/λ>01/\lambda > 0 になります。逆行列をとっても、正の値は正のままです。

💡 固有値が 00 に近づくと、その逆数は限りなく大きくなります。それでも負になることはないので、A−1A^{-1} は正定値のままです。

III可視化2 — 正定値な2つのお椀の和

正定値な二次形式を2つ足すと、お椀どうしが足し合わされます。和はより急なお椀になり、その等高線は有界な楕円のままです。

IV可視化3 — ATAA^{T}A はいつ正定値になるのか?

ATAA^{T}A が正定値になるのは、AA の列が一次独立であるときに限ります。そうでなければ、半正定値にとどまります。

💡 col1=(1,2,3)\text{col}_1 = (1,2,3) を固定すると、平行四辺形の面積は det⁡(ATA)\sqrt{\det(A^{T}A)} に等しくなります。この面積がつぶれて 00 になるのは、ちょうど列が一次従属になるときです。

V確認クイズ

問1

対称行列 AA の固有値が {3,4}\{3, 4\} だとします。A−1A^{-1} の固有値は何でしょうか。また、A−1A^{-1} は正定値でしょうか。

✅ 正解です! 正の数の逆数は正なので、A−1A^{-1} は正定値のままです。

❌ 惜しい! Ax=λx⇒A−1x=(1/λ)xAx = \lambda x \Rightarrow A^{-1}x = (1/\lambda)x を使いましょう。固有値は逆数になりますが、符号は変わりません。

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解答:

Ax=λxAx = \lambda x なら、両辺に A−1A^{-1} を掛けると x=λA−1xx = \lambda A^{-1} x となるので、次が成り立ちます。

A−1x=1λx.A^{-1} x = \frac{1}{\lambda} x.

つまり、A−1A^{-1} の固有値は AA の固有値の逆数で、{1/3,1/4}\{1/3, 1/4\} です。

逆数はどちらも正です(正の数を正の数で割ったもの)。A−1A^{-1} は対称でもあり((A−1)T=(AT)−1=A−1(A^{-1})^T = (A^T)^{-1} = A^{-1} だから)、固有値がすべて正なので、A−1A^{-1} は正定値です。

問2

正しいか誤りか:AA と BB が対称な正定値行列なら、A+BA + B の固有値は、AA の固有値と BB の固有値を単純に足したものになる。

✅ 正解です! 固有ベクトルを共有していない限り、固有値は足し算になりません。だからこそ、和については道具を替えて二次形式を使うのです。

❌ 惜しい! 一般に、A+BA+B の固有値は AA と BB の固有値の和ではありません。和についての閉包性を証明するのに二次形式を使うのは、まさにこのためです。

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解答:

誤りです。固有値が足し算になるのは、AA と BB が同じ固有ベクトルを共有するときだけです。一般には、A+BA+B の固有値はまったく別のものになります。

和についての閉包性に固有値という道具が使えないのは、まさにこのためです。そこで二次形式に切り替えます。

xT(A+B)x=xTAx+xTBx>0+0=0ただし x≠0.x^T(A+B)x = x^T A x + x^T B x > 0 + 0 = 0 \quad \text{ただし } x \neq 0.

したがって、個々の固有値については何もすっきりしたことが言えなくても、A+BA+B は正定値です。

問3

A=[122436]A = \begin{bmatrix} 1 & 2 \\ 2 & 4 \\ 3 & 6 \end{bmatrix} を考えます。ATAA^T A をもっとも正しく表しているのはどれですか。

✅ 正解です! 2列目 = 2·(1列目) なので、列は一次従属です。ATAA^T A は対称で半正定値ですが、det⁡(ATA)=0\det(A^T A) = 0 です。

❌ 惜しい! AA の列が一次独立かどうかを確かめましょう。2列目が1列目の定数倍なら、ATAA^T A は特異です。

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解答:

AA の2列目はちょうど1列目の2倍なので、列は一次従属です(階数 1)。

ATAA^T A はいつでも対称です。(ATA)T=AT(AT)T=ATA(A^T A)^T = A^T (A^T)^T = A^T A だからです。

計算すると、 ATA=[123246][122436]=[14282856].A^T A = \begin{bmatrix} 1 & 2 & 3 \\ 2 & 4 & 6 \end{bmatrix} \begin{bmatrix} 1 & 2 \\ 2 & 4 \\ 3 & 6 \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} 14 & 28 \\ 28 & 56 \end{bmatrix}.

行列式は 14⋅56−282=784−784=014 \cdot 56 - 28^2 = 784 - 784 = 0 なので、ATAA^T A は特異です。

恒等式 xTATAx=∥Ax∥2≥0x^T A^T A x = \|Ax\|^2 \geq 0 が保証するのは半正定値性までです。列が一次従属だと、Ax=0Ax = 0 となる 0 でない xx(たとえば x=(2,−1)Tx = (2, -1)^T)が存在するので、ゼロより真に大きいという性質が崩れます。

問4

最小二乗法の正規方程式は ATAx^=ATbA^T A \hat{x} = A^T b です。最小二乗解がただ1つに決まるために、AA の列が一次独立であることが決定的に重要なのはなぜですか。

✅ 正解です! 列が一次独立 → x≠0x \neq 0 なら ∥Ax∥2>0\|Ax\|^2 > 0 → ATAA^T A は正定値 → 可逆 → x^\hat{x} がただ1つに決まる。

❌ 惜しい! AA はたいてい長方行列なので、AA を直接逆行列にすることはできません。ポイントは、ATAA^T A が正方行列であること、そして AA の列が一次独立であるときに限って正定値(したがって可逆)になることです。

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解答:

推論の流れは次のとおりです。

  1. AA の列が一次独立 ⟺\Longleftrightarrow AA の零空間が {0}\{0\} ⟺\Longleftrightarrow Ax=0Ax = 0 となるのは x=0x = 0 のときだけ。
  2. すると、恒等式 xTATAx=∥Ax∥2x^T A^T A x = \|Ax\|^2 は、すべての x≠0x \neq 0 に対してゼロより真に大きくなる。
  3. したがって、ATAA^T A は正定値、つまり対称で、固有値がすべて正である。
  4. 正定値行列は可逆なので、正規方程式はただ1つの解をもつ。

x^=(ATA)−1ATb.\hat{x} = (A^T A)^{-1} A^T b.

注意:AA そのものはふつう長方行列(行の数が列の数より多い)なので、AA を直接逆行列にすることはできません。ATAA^T A を作る意味はまさに、縦長の長方行列を正方の正定値行列に変えることにあります。ただし、列が一次独立であることが条件です。

正解数:0 / 4