線形代数 · 第30回 · 動画4 · インタラクティブ教材

正しい基底がすべてを変える

I重要な公式

公式 名称 説明
T(vj)=a1jv1+a2jv2+⋯+anjvnT(v_j) = a_{1j}v_1 + a_{2j}v_2 + \cdots + a_{nj}v_n 列のレシピ AA の jj 列目は、T(vj)T(v_j) を基底でどう分解するかを表す
B=M−1AMB = M^{-1} A M 基底変換 同じ TT を表す 2 つの行列を結びつける
T(vi)=λiviT(v_i) = \lambda_i v_i 固有ベクトルの条件 基底が固有ベクトルなら A=diag(λ1,…,λn)A = \text{diag}(\lambda_1, \dots, \lambda_n)
Dn=diag(λ1n,…,λnn)D^n = \text{diag}(\lambda_1^n, \dots, \lambda_n^n) 対角行列のべき乗 固有ベクトルの基底では、繰り返し施すのが簡単になる

II可視化1 — 同じ変換に 2 つの行列

ひとつの変換 TT が、標準基底では絡み合った行列を、固有ベクトルの基底ではすっきりした対角行列をまといます。

💡 チャレンジ:θ=0°\theta = 0\degree または λ1=λ2\lambda_1 = \lambda_2 にして、AA の非対角成分が消えるのを確かめましょう。2 つの行列が一致します。

III可視化2 — T を繰り返し施す:対角行列が有利な理由

TT を nn 回施すことは、標準基底では AnA^n を意味しますが、固有ベクトルの基底では Dn=diag⁡(λ1n,λ2n)D^n=\operatorname{diag}(\lambda_1^n,\lambda_2^n) だけで済みます。

💡 固有ベクトルの基底は理想ですが、求めるには約 O(n3)O(n^3) の計算がかかります。だから大規模な計算では、より安く、ほぼ対角化してくれるフーリエ基底やウェーブレット基底に頼るのです。

IV可視化3 — 列は基底ベクトルの行き先

変換の行列の各列は、基底ベクトルの行き先の座標にすぎません。

V確認クイズ

問1

T:R2→R2T: \mathbb{R}^2 \to \mathbb{R}^2 を線形変換とします。標準基底 (e1,e2)(e_1, e_2) を使うと、次が成り立つとします。

T(e1)=3e1+5e2,T(e2)=−2e1+4e2.T(e_1) = 3e_1 + 5e_2, \quad T(e_2) = -2e_1 + 4e_2.

標準基底での TT の行列はどれでしょうか。

✅ 正解です! それぞれの T(ej)T(e_j) は jj 行目ではなく jj 列目になります。

❌ 惜しい! 係数を列ではなく行として書いています。ベクトル T(e1)=(3,5)T(e_1) = (3, 5) は 1行目に横に並べるのではなく、1列目に縦に入ります。

❌ 惜しい! 思い出しましょう。AA の jj 列目は、選んだ基底で表した T(ej)T(e_j) の係数ベクトルそのものです。

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解答:

行列の jj 列目は、T(ej)T(e_j) をその基底で表したときの係数です。

  • T(e1)=3e1+5e2T(e_1) = 3e_1 + 5e_2 → 1列目は (3,5)(3, 5)
  • T(e2)=−2e1+4e2T(e_2) = -2e_1 + 4e_2 → 2列目は (−2,4)(-2, 4)

これらを列として並べると、 A=[3−254]A = \begin{bmatrix} 3 & -2 \\ 5 & 4 \end{bmatrix}

答えは [[3, -2], [5, 4]] です。

問2

AA と BB は相似な行列で、ある可逆な MM によって B=M−1AMB = M^{-1} A M と結ばれているとします。

正しいか誤りか:AA と BB は異なる線形変換を表す。

✅ 正解です! 相似な行列は、同じ TT を異なる基底で表したものです。行列は衣装にすぎません。

❌ 惜しい! 相似な行列が表すのは同じ変換です。式 B=M−1AMB = M^{-1}AM は、基底変換をしたときに同じ TT がどう見えるかを、まさに表しています。

❌ 惜しい! もう一度考えてみましょう。上のヒントが役に立ちます。

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解答:

この主張は誤りです。

相似な行列は同じ線形変換 TT を、異なる基底で表しているだけです。行列 MM は、一方の基底の座標をもう一方の基底の座標に翻訳する基底変換行列です。

B=M−1AMB = M^{-1} A M

右から左へ読みます。BB の基底で書かれたベクトルから出発し、MM を掛けて AA の基底に翻訳し、AA(変換)を施し、最後に M−1M^{-1} を掛けて訳し戻します。変換 TT は同じで、座標という言葉が違うだけです。

これがこの動画の中心となる考え方です。変換はひとつの決まったものですが、その行列は基底によって変わります。

問3

線形変換 T:R3→R3T: \mathbb{R}^3 \to \mathbb{R}^3 は、基底をなす 3 つの固有ベクトル v1,v2,v3v_1, v_2, v_3 をもち、固有値は λ1=4\lambda_1 = 4、λ2=−1\lambda_2 = -1、λ3=2\lambda_3 = 2 です。

固有ベクトルの基底 (v1,v2,v3)(v_1, v_2, v_3) での TT の行列はどれでしょうか。

✅ 正解です! 固有ベクトルの基底では、TT は固有値を対角線上に並べた対角行列になります。

❌ 惜しい! それは TT ではなく T−1T^{-1} の固有値です。T(vi)=λiviT(v_i) = \lambda_i v_i なので、ii 列目の対角成分は(1/λi1/\lambda_i ではなく)λi\lambda_i です。

❌ 惜しい! 列のレシピに固有ベクトルの条件 T(vi)=λiviT(v_i) = \lambda_i v_i を当てはめると、対角行列が得られます。

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解答:

固有ベクトルの基底で列のレシピを当てはめます。

  • T(v1)=λ1v1=4v1=4v1+0v2+0v3T(v_1) = \lambda_1 v_1 = 4 v_1 = 4v_1 + 0 v_2 + 0 v_3 → 1列目は (4,0,0)(4, 0, 0)
  • T(v2)=λ2v2=−v2=0v1+(−1)v2+0v3T(v_2) = \lambda_2 v_2 = -v_2 = 0 v_1 + (-1) v_2 + 0 v_3 → 2列目は (0,−1,0)(0, -1, 0)
  • T(v3)=λ3v3=2v3=0v1+0v2+2v3T(v_3) = \lambda_3 v_3 = 2 v_3 = 0 v_1 + 0 v_2 + 2 v_3 → 3列目は (0,0,2)(0, 0, 2)

したがって、行列は次のとおりです。

D=[4000−10002]=diag(4,−1,2)D = \begin{bmatrix} 4 & 0 & 0 \\ 0 & -1 & 0 \\ 0 & 0 & 2 \end{bmatrix} = \text{diag}(4, -1, 2)

これが固有ベクトルの基底の要となる魔法です。TT は対角行列になり、どの方向もほかから独立します。

問4

約 n=106n = 10^6 画素の画像では、ぼかしや圧縮のような変換を固有ベクトルの基底で対角化できれば理想的です。ところが実際には、技術者はその代わりにフーリエ基底やウェーブレット基底を使います。

そう選ぶおもな理由は何でしょうか。

✅ 正解です! 固有ベクトルの基底は理想ですが、手が届きません。フーリエ基底とウェーブレット基底は、ほぼ対角化してくれる実用的な代わりです。

❌ 惜しい! 固有ベクトルの基底は TT を厳密に対角化しますが、大規模になるとそのコスト(O(n3)O(n^3))は手が出ません。フーリエとウェーブレットは近似的に対角化します。これが取引です。

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解答:

固有ベクトルの基底は理想的な選択で、TT を完全に対角化します。しかし n×nn \times n 行列の固有ベクトルを求めるにはおよそ O(n3)O(n^3) 回の演算がかかり、n=106n = 10^6 では約 101810^{18} 回になります。まったく現実的ではなく、数値的にも不安定です。

工学的な妥協は次のとおりです。

  • フーリエ基底(FFT で O(nlog⁡n)O(n \log n)):巡回的な(周期的にシフト不変な)操作をちょうど対角化する。JPEG や MP3 で使われる。
  • ウェーブレット基底(O(n)O(n)):局所的な操作をほぼ対角化する。JPEG 2000 や MRI の画像再構成で使われる。

これらの基底は本当の固有ベクトルではありませんが、得られる行列がほぼ対角になるほど近く、しかも安く計算できます。完全な対角化をあきらめて計算できることを取る、この取引こそが現代の信号処理の核心です。

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