線形代数 · 第31回 · 動画1 · インタラクティブ教材

本当の逆行列をもつのはなぜ正方行列だけなのか:四つの部分空間で読み解く

I重要な公式

階数 rr の m×nm \times n 行列 AA について:

条件 行列の形 逆行列の種類 実際に可逆な部分
r=m=nr = m = n 正方行列、フルランク 両側逆行列 A−1A^{-1} AA そのもの
r=n<mr = n < m 縦長、列フルランク 左逆行列 (ATA)−1AT(A^TA)^{-1}A^T ATAA^TA (n×nn\times n)
r=m<nr = m < n 横長、行フルランク 右逆行列 AT(AAT)−1A^T(AA^T)^{-1} AATAA^T (m×mm\times m)
r<m, nr < m,\,n 一般の場合 擬似逆行列 A+A^{+} SVD から

4 つの部分空間の次元:

行空間 =r= r、零空間 =n−r= n - r、列空間 =r= r、左零空間 =m−r= m - r

II可視化1 — 階数と 4 つの部分空間

階数 rr が Rn\mathbb{R}^n と Rm\mathbb{R}^m を 4 つの部分空間にどう分けるか、そしてその結果どの逆行列が許されるかを見ます。

💡 本当の両側逆行列には、赤い領域(n−rn-r と m−rm-r)が両方とも消えることが必要です。それが起こるのは r=m=nr = m = n のときだけです。

III可視化2 — 写像がつぶすもの、取りこぼすもの

AA は行空間を列空間へ一対一に写し、零空間は 00 につぶします。

IV可視化3 — どちらのグラム行列が可逆か?

縦長の AA では ATAA^TA が可逆で、AATAA^T は特異です。小さいほうのグラム行列が勝ちます。

💡 可逆になるグラム行列は、いつも小さいほうの r×rr \times r 行列です。それが片側逆行列をつくるのであって、A そのものが逆になるのではありません。

V確認クイズ

問1

行列 AA は 4×44 \times 4 で、階数は r=4r = 4 です。正しいものはどれですか。

✅ 正解です! 正方行列(m=nm=n)でフルランク(r=m=nr=m=n)であることが、まさに本当の逆行列をもつ条件です。

❌ 惜しい! r=m=nr = m = n のときは 2 つの零空間がどちらも自明なので、完全な両側逆行列が存在します。

解答を見る

解答:

ここでは m=n=4m = n = 4、r=4r = 4 なので r=m=nr = m = n です。これは場合1で、行列は正方行列かつフルランクです。零空間(dim⁡=n−r=0\dim = n - r = 0)も左零空間(dim⁡=m−r=0\dim = m - r = 0)も {0}\{0\} に縮みます。

つぶされるものも取りこぼされるものもないので、この写像は完全な全単射であり、本物の両側逆行列 A−1A^{-1} が存在します。

問2

AA を列フルランク r=3r = 3 の縦長の 5×35 \times 3 行列とします。左逆行列をつくるのに使う、小さくて可逆な行列はどれですか。

✅ 正解です! 縦長の行列では、ATAA^TA が小さな n×nn\times n の可逆行列です。

❌ 惜しい! 縦長の行列で可逆になるのは、小さいほうの ATAA^TA(n×nn\times n)であって、AATAA^T ではありません。

解答を見る

解答:

r=nr = n の縦長の行列は、零空間が自明(単射)ですが、左零空間は非自明です。そのため存在するのは左逆行列だけです: A左+=(ATA)−1AT,(ATA)−1AT⋅A=I.A^{+}_{\text{左}} = (A^TA)^{-1}A^T, \qquad (A^TA)^{-1}A^T \cdot A = I.

実際に可逆なのは ATAA^TA で、これは n×n=3×3n \times n = 3 \times 3 行列です。一方 AATAA^T は 5×55 \times 5 ですが階数は 33 しかないので、特異行列です。可逆になるグラム行列は、いつも小さいほうの r×rr \times r 行列です。

問3

正しいか誤りか:すべての正方行列は両側逆行列をもつ。

✅ 正解です! 正方行列にはフルランク(r=m=nr = m = n)であることも必要です。行が従属していると、非自明な零空間が残ります。

❌ 惜しい! 行が従属している正方行列には零空間があるので、逆行列はありません。

解答を見る

解答:

答えは誤りです。正方行列(m=nm = n)であることは必要条件ですが、十分条件ではありません。行列はフルランク、つまり r=m=nr = m = n である必要もあります。

行が従属している正方行列では r<nr < n なので、零空間は非自明(dim⁡=n−r>0\dim = n - r > 0)です。ある入力は 0 につぶされて情報が失われ、どんな逆行列もそれを取り戻せません。正方行列であるだけでは足りず、r=m=nr = m = n が必要です。

問4

行列 AA の階数 rr は、mm よりも nn よりも真に小さいとします。AA の逆行列について正しいものはどれですか。

✅ 正解です! 2 つの零空間がどちらも非自明なので、残るのは SVD にもとづく擬似逆行列 A+A^+ だけです。

❌ 惜しい! r<m,nr < m,n なら 2 つの零空間はどちらも非自明なので、きれいな逆行列はなく、あるのは A+A^+ だけです。

解答を見る

解答:

r<mr < m かつ r<nr < n のとき、2 つの零空間はどちらも非自明です:

  • 零空間の次元は n−r>0n - r > 0:入力の側で情報が壊されます。
  • 左零空間の次元は m−r>0m - r > 0:決して届かない出力があります。

どの片側逆行列も、この 2 つの問題を同時には解決できません。使えるいちばんよい代わりは、特異値分解(SVD)からつくる擬似逆行列 A+A^{+} です。覚えておきましょう:片側逆行列は本当の逆行列ではありません。片側でしか働かず、AA そのものではなく、もっと小さな可逆行列に頼っています。

正解数:0 / 4